第296話 トリアの冒険

それから一月ほど。


相変わらず頼りになる義兄様達の協力もあって、トリアにすり寄ろうとてくる汚い輩(物理含む)の処理は問題なく終わったらしい。


元々問題のあった貴族とかも居たようで、トールの働きに義兄様達はご満悦だったご様子。


色々と裏で悪事に手を染めていたのを炙り出す手伝いにはなったようなので悪い事ではないんだろうけど、トリアが絡むと暴走するのは良くないと本人も自覚はしてるのだろう。


一応、反省の意味を込めて一日断食を己に課したらしい。


そこまでする必要があるのかは不明だけど、自己満足と言われたらそれまでか。


まあ、トールの場合一週間以上飲まず食わずでも動けるように特殊な訓練もしているらしいから一日程度はおやつを抜いた程度の感覚なのだろうけど、それにしたって、断食してるのにいつも以上にハードな訓練までする必要まであったのだろうか?


……気にしたら負けだな、うん。


「おっ、そろそろ良さげだな」


俺もそれなりに忙しかったけど、暇な時間を作る余裕が出来てきた本日。


屋敷の一室で、俺は一人で白湯を作っていた。


お湯ではない、白湯だ。


言葉遊びという訳でもなく、飲むための水を沸かしているのだ。


魔道具も使って、いくつかの容器で沸かしているけど、白湯というのも探り始めると奥が深い。


これまで俺は純度100パーセントの水に拘りすぎていた。


手を加えなくても至高なものだったし、手を加えるにしても冷たくした方が美味しいのは自然の摂理だとそう思っていた。


でも、思い出したのだ。


白湯は体に良いのでは?と。


血行や代謝が良くなる効果も期待できるという記事を見たような気がしたので実際に寝起きに飲んでみて……驚いた。


朝の一杯として、これほど体に馴染むとは。


俺が最初に試しに沸かしたのはオアシスの水。


冷やしても温めても美味しいとは本当に万能すぎて益々好きになるけど、そうなると気になるのは他の場所の水による味の変化。


日々細かく調べるのも良いけど、どうせなら時間のある時にゆっくり調べたいという気持ちもあってこうして手の空いた今日一人で存分に調べているのだ。


「……うん、なるほど。Bランクだな」


メモを取りつつ、白湯を味見していく。


ポカポカしてくるけど、飲みすぎも良くないと聞いたような気がするので少しづつにしておき、残ったのは適温のまま保てる空間魔法の亜空間にしまっていく。


本当に便利な魔法だよね。


『居ましたか?』

『いや、ダメですね。こちらには居ません』


そんな事を考えつつ楽しんで検証していると、何やら外が騒がしいような気がする。


気のせいだろうか?


うん、関わらない方が良いような気がする。


トール関連の勘がそう告げるので直感に従ってスルーしていると、部屋のドアが叩かれた。


いや、叩かれたというよりは、コツン……コツンと何かが触れる音が聞こえた気がした。


「ん?誰か居るの?」


そう返しても返事はない。


気のせいだろうと思いつつもドアに近づき、開けると……そこには何故かトールの娘のトリアが床に転がっていた。


「うーあー」


会いに来たよーと言いたげな様子。


……いや、なんでこんな所に居るの?


というか、どうやってここまで来たの?


色々と突っ込みたいけど、コロンと寝返りをうったトリアを見てどうやって来たのかは判明した。


「寝返りでここまで一人で来るとは……流石はトールとクレアの娘だなぁ」


この部屋はトリアの寝てる部屋から一つ下の階にある、ほとんど人が来ない場所。


階段をどうやって降りてきたのかは少し疑問になったけど、確か荷物運搬用の小さなエレベーターの魔道具の試作品をここには設置してあったはず。


それを使ってここまで来たのだろうけど……いや、それでもよく来れたな。


というか、俺の魔法の感知どころか、トールとクレアの索敵も掻い潜ってきた様子なのでそこにも驚く。


まさか生まれたてで既に気配を消す術を心得て居るのだろうか?


いや、そもそも寝返りだけで一つ下の階まで来ることがおかしいのだけど、結果としてこうしてトリアがここに居るので仕方ない。


本来は有り得なすぎる現象だけど、この子がトールの血を引く亜人というのと、トールとクレアの娘というのを考えるとない話でもない。


トリアはまだ生後三ヶ月程度なので、余程成長の速い子でも……というか、普通に考えて首が据わって日が浅い赤ん坊には出来ないような現象だし、おかしい点が多々あるのは十分に俺の常識が理解しているんだけど、それでも納得しかない『トールとクレアの娘』というステータス。


異世界ファンタジーを実感するよね。


「うー、うー」


コロンと近づいてきて、抱っこしろと言わんばかりのご様子のお姫様。


仕方ないので抱っこするけど、偶然だろうと俺の元に来てると知ったトールの相手が大変面倒なのは確定してるので、抱っこしつつ父と叔母譲りのうさ耳にて癒されておく。


「きゃっきゃ」


良い運動が出来たと言わんばかりのトリア。


大変元気なご様子だけど、そのヤンチャさは誰に似たのやら。


トールが来たのはそれから一時間後のこと。


スヤスヤと寝ているトリアに大変安堵しており、父親の顔をしているトールが大変面白かったけど、イジると面倒そうなので白湯で一息つくことに。


うん、やっぱり信頼と安心のオアシス産だよね。

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