第295話 新しい逆鱗とその副産物

娘のトリアの影響でトールが日々輝いている。


それはもう仕方ないのだが、その余波は家の中だけでなく外でも起こっているらしい。


簡単に言えば、お使いやら仕事で外に出る度にいつも以上に女の子達をキャーキャー言わせてるらしい。


「すげぇよな。前から凄かったが笑顔ひとつで十人単位で倒れるとは予想外だった」


目撃者、レオニダスはそう語る。


「トリアのこと思い出した時の笑顔がやば過ぎたみたいだな」

「だからかぁ。この状況は」


トール宛の恋文やら商会の娘さんからの縁談なんかの書類が山積みにされている。


前々からそういったものはそこそこあったけど、明らかにトリアが生まれてから増えてる気がした。


打算抜きでトールの笑顔にやられた娘さんたちが多いのだろう。


無論、打算ありの話も結構あるけど。


「まさかこんな時期から縁談を持ってくるなんてね」

「恐れ知らずだよなぁ」


数こそ少ないけど、トリアの存在を知って汚い大人が何名か縁談を持ってきていたりする。


トリアはまだ生まれてから二月ほど。


政略結婚に歳は関係ないのかもしれないけど、それにしたって早すぎる。


それらをトールが見たのでさぁ大変。


「んで、俺が気がつく前にやってきたと」

「すまん。止めたんだが俺とバルバンさんじゃ止めきれなかった」


むしろ途中からバルバンも乗り気になったようで、トリアに縁談を送ってきたうちのほとんどの人達が叩いた埃で散っていたらしい。


私怨込みとはいえ、後暗い人たちを監獄送りに出来たのは良い事なのだろうがせめて一言欲しかった。


「とはいえ、エルダート様も話されてたらノリノリで強力してただろ?」

「まあね」


トリアはアイリスから見れば姪にあたる。


可愛い姪に汚い大人たちからアプローチがあったと知ったらアイリスを曇らせるかもしれない。


そんな事は許されないし、その場合を考えると俺もトールのやった事を否定はできない。


なので特にその事を咎めはしないが……


「じゃあ、屋敷の前にいたあの双子はその副産物ということなんだね」

「みたいだな」


ここ数日、屋敷の前でトールを出待ちしてる双子の女の子が居たりするけど、その理由を簡単に理解した。


叩いた埃の副産物というか、その時にまたしてもナチュラルに女の子を助けて好かれてきたのだろう。


上手いこと気配を消して二人でトールをストーキングしてるみたいなので最初は何事かと思ったけど、また熱烈なアタッカーが増えそうということか。


害意はないしある程度は放置で問題無さそうだな。


「しかし、トリアが絡むと今後も大変そうだな」

「まあ、その辺は本人も分かってるでしょ」


なるべく平和的に解決したようだけど、それでもトールの冷静な部分でやり過ぎたと思ってるだろうし、多少は注意するはず。


とはいえ、トリアが見知らぬ男にストーカーされてるとかトリアに害が出るようなら恐らく自重できなくなるかもだが……その辺はトリア本人と嫁たちにストッパーを期待しよう。


「だといいがな。あ、そうそう。後片付けにラムネさんを借りたいらしいけど許可を貰えるか?」

「ラムネが良いなら問題ないよ」


というかそれは俺に確認を取る事か?


「ラムネさんがエルダート様関連以外のことはエルダート様本人の許可を取ってくれって言ってたもんでな」

「ラムネは相変わらず義理堅いね」


どこかのうさ耳イケメンにも見習って欲しいくらいだ。


「そういえば、トールからこれらを預かってきたんだった」


そう言ってレオニダスが取り出したのは前々から俺が欲しいと思っていた魔道具の素材一色だった。


なるほど、戦利品ということか。


「甘く見られたものだ。この程度で俺が釣られると?」

「いんや。ほれ、鹵獲品一覧。それとかなり古い魔法の教本も手に入ったってさ」


むぅ、悪くない戦果だなぁ。


「仕方ない。今回は釣られるとしよう」

「たまに思うけど、本当にエルダート様とトールって互いを分かりあってるよな」


どこをどう見てそう思ったんだ?


「いや、だってさ。黙ってても互いが欲してるものと、互いのタブーを分かりきってて信頼して任せあってる感じが凄いするから」


まあ、俺もトールに黙ってあれこれしたりしてるのは否定しないけど、信頼かと問われると何とも言えない。


信じてはいるけど、信じなくても意思が分かってしまうというか……以心伝心が強すぎてたまに怖くなる。


便利だから三秒後には忘れてるんだけどね。


「まあ、詳しくは帰ってきたらトールが話すか。ご苦労様、レオニダス」

「本当疲れた……明日は休み取ってもいいか?」

「トールが許すなら良いよ」

「無理そうだなぁ。まあ、明後日は休みだしその時にまとめて休むか」


何だかんだとタフなレオニダスは部下として使い勝手が良いとトールは思っているのだろう。


その辺はレオニダス本人も理解していて、好きで引き受けてくれるので本当に助かる。


かく言う俺も色々と頼ってしまうし。


しかし、嫁さん二人が初めての子を妊娠中に新しい嫁候補とは……恐ろしい男だなトールは。


本人は今はトリアと嫁さんたちの妊娠で手一杯だろうけど、あの様子だと外の双子が我慢できずに迫ってくるのも時間の問題だろうし、何かしら問題を起こす前に早めに片付けて貰うとしよう。

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