第294話 ラムネとプール

ぽいんぽいんとラムネが跳ねてる。


……水の上を。


場所は屋敷の室内プール。


作ってから何度か婚約者と遊んでいるけど、ラムネと二人きりで使うのは初めてかもしれない。


池の番人であるラムネがプールを遠慮してる様子だったので連れてきたけど、流石は俺の水友。


すぐにプールの良さに気づいてはしゃいでくれてる。


ぷるんとラムネが傍によってきて揺れる。


大抵の人には分からないけど今の一震えで俺には以下の内容が伝わってくる。


『ここは素晴らしいですね。水質もさることならがら、水を魅せる努力も忘れてない芸術性もあります』


大変よく分かってらっしゃる。


「でしょ?頑張って作ったからね」

『私が使っても良かったのですか?』

「当たり前でしょ。ラムネはうちの家族みたいなものだし」

『家族……そうですね。ありがとうございます』


付き合い自体はそこまで長くないけど、トールやレオニダスとは違うカテゴリーで友達であり、家族みたいな存在であり、そして俺の数少ない同士。


水について忌憚なくかつ、心から語り合える存在は凄く貴重だ。


ウォータースライムだからこその視点もあって驚かされることもある。


まあ、その割にはラムネの感性は人間寄りな気もするけど、それだけ俗世を理解してるのかも。


『あのウォータースライダーというものは名前に親近感がありますね』

「あー、確かに」


何文字か変えれば近くなりそう。


ウォータースライム、ウォータースライダー。


……そんな事言い出すとウォーターだけで親近感覚えるのもが多くなりそうだけど、気にしたら負け。


雰囲気面白な話題は嫌いじゃないしね。


あ、そうそう。


「最近リーネの相手してくれてるでしょ。ありがとうね」

『いえ。手のかからない子なので大丈夫ですよ』


リーネの母親みたいな存在になりつつあり、俺を神様扱いして信仰していて、バルバンに密かに好意を持ってるメイドさんの目をかいくぐって、たまにリーネが池にちょっかいを出そうとするけど、それを上手く宥めて遊んでやってくれてるようだ。


『子供は可愛いですよね。トール殿も娘のトリアさんが出来てそれに気づいたのでしょう』

「溺愛してるからね」


元々、子供の扱いにはそこそこ慣れていたのもあったけど、自分の子というのは殊更可愛く思えるようだ。


きっと俺も親になってみればそうなるのだろう。


「俺の子もラムネのお世話になるかもね」

『主に似て水が好きな子になるかもしれませんね』

「母親に似て欲しい気持ちもあるんだけどねぇ」


俺に似たってそんな良い事ないだろうし、何よりも俺の血よりも婚約者達の血の方が濃く受け継がれそうな気がする。


ただの勘だけどそういうのって当たりやすいからなぁ。


『主、私は最近思うんです』

「ほう、何を?」

『この姿も良いですけど、主のように人型になれればもっと主と仲良くなれるのではないかと』


そんなに変わるかな?


『人型になれれば、主好みの水着を着たいんですけどね』

「そう?俺はラムネのその姿好きだけどな」

『そうですか?』

「うん、理想と言っても過言じゃないかも」


しかし、それはそれとして人型にか……ふむ……。


「今、丁度色々試してるから、人型になれる魔法薬も作れるかも」

『では、もし作った時は私で実験を』

「いいの?」


基本的にこの手の薬を試す時、第一候補はトールと俺自身になる。


どちらも気兼ねなく試せるのでそうなりやすいのだが、自ら立候補する者がいるとは思わなかった。


『私でお役に立てるなら、トール殿同様好きに使ってください』


ラムネは勇気があるなぁ。


そして本当に頼りになる。


頼りすぎるのは良くないけど、その分報酬も良くしないと。


「ありがとう。じゃあ、報酬はラムネのプールでどう?泳げるくらいに作るよ」

『それは魅力的ですね。ますますやる気になります』


本当にラムネはラムネ(飲む方)が好きだよね。


作っておいてなんだけど、こんなに愛飲してくれてるのはラムネしか居ないと思う。


一般に出回ってないというのもあるけど、家族の中ではそこまでハマる人がいないというか……強いて言うなら、隣に住む甥っ子のフリードが美味しそうに飲んでたけどハマるほどではなかった。


それ以前にあまり甘いものを飲ませすぎるのは良くないというのあるけど、何事も適量が大切なんだろうね。


甥っ子を虫歯にして苦しめる気もないし、ラムネも子供の前ではごくごく飲み干さないように気を使ってくれてるみたいだし本当に助かる。


俺と同じように転生者なのでは?と思ったこともあるけど、どうにもそういう訳ではないらしい。


何故言いきれるのか……俺と繋がってる植物の精霊のリーファと火の精霊のフレアが違うと断言したからそうなのだろう。


素でこれなのは凄いけど、何にしてもラムネはラムネだ。


愛すべき種族、ウォータースライムであり、我が家の池の番人であり、お風呂当番であり、ラムネをこよなく愛する俺の大切な水友達。


惜しむらくはこうしてラムネと意思疎通してると、俺が独り言を話してるみたい(ラムネはぷるぷるしてるだけなので)だと初見の人には思われることくらいかな。


まあ、さして大きな問題じゃないか。


我が家の家族は皆知ってることだしね。

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