第293話 おクスリ作ろう

「そんな訳で、シンフォニアとダルテシアの2カ国でそれぞれ武闘会をするらしいよ」

「そうなりましたか」

「そうなった」


翌日、トールに武闘会のことを伝えると分かりやすく喜んでいた。


本当にバトルマニアだなぁ。


「それってさ、合同とかにはならないのか?どうせなら一緒にやった方が楽なんじゃね?」


不思議そうにそう聞いてくるのはレオニダスだ。


確かにどうせならというち形になりやすいかもだけど……


「その案もあったらしいけど、気候が違うからね」

「あー、確かに少しズラした方がそれぞれに都合いいのか」


そゆこと。


「俺も出ていいのか?」

「いいけど、大丈夫?トールとフレデリカ姉様は逆特別枠なので予選からの試合数が一番多いかつ、それぞれトーナメントの端が確定枠だけどそれでも良ければ」

「……同士討ちでマグレ優勝すら許さない鉄壁の布陣だな」


レオニダスも割と戦いを楽しめるタイプなので、武闘会自体は嬉しそうだけど、既に一位と二位の席が埋まってるのを分かってるのかちょっと複雑そう。


気持ちはわかるけど、出禁にしたら最初の趣旨の意味がないしね。


それと、合同にするメリットよりもそれぞれの国でやった方が回数的にもそれぞれの都合的にも良かったというのもある。


「それにもしかしたら二人よりも強い相手が出てくるかもだし」

「そうですね。世界は広いですから」

「いや、エルダート様よ。思ってもないこと言うものじゃないだろ」


否定はしない。


事実帝国の皇帝陛下でも出てこないと波乱はないだろうけど、隠れた実力者が名乗り出てくればそれはそれで面白い。


トールとフレデリカ姉様の暇つぶしになるかもだし。


「バルバンは多分断るだろうし、二人に頑張ってもらうことになるかもね」

「実質一人だけどな。でもバルバンさん出ないのか?」

「出ないと思うよ。俺が言えば出るだろうけど無理強いはしたくないし」


リーネ効果で出てくれる可能性もなくはないけど、良くて来年以降だろうな。


俺の騎士としてトールが、俺の護衛としてレオニダスが健闘してくれるだろうし、無理に出る必要もないんだけど、出たら出たで3位争いが楽しくなりそうな組合せではあるかも。


力ではレオニダスの方が強いけど、技量や経験でバルバンは勝るのでレオニダスが成長に期待。


「ところで殿下。さっきから何を作ってるんですか?」


武闘会の喜びから一転、懐疑的な視線を向けてくる俺の騎士さん。


ゴリゴリとすり鉢を動かしつつ、近くで怪しげな液体を煮詰めているので確かに怪しくはあるけど、何も疚しいことはないので正直に答える。


「ちょっと魔法薬をね」

「魔法薬?薬と違うのか?」

「体に害があるのもは作ってないよ。試作品だし」

「……変な色してるその液体を見て信じろと?」


確かに紫色でコポコポと弾けてるけど、決して怪しいものじゃないよ。


手順通り、レシピ通りに作ってるので失敗するはずもない。


「出来たらトールで試すからよろしくね」

「……トリアには絶対近づけないでくださいね」

「嫁さん達は?」

「そちらもダメです」


まあ、元々試すとしてもトールしか被験者になり得ないんだけどね。


ただ、こいつの場合すぐに体が適応してほとんど効果がない可能性もあるので試作用(トール用)は通常の100倍くらいの出来にしておこう。


「レオニダスも出来たら使ってみる?」

「面白そうだが、ベロニカに心配かけるのもな。妊娠中だし」


それもそうか。


「フヒヒ。ワシの秘伝レシピ……知りたいかのぅ?」

「なんですかその口調?」

「何となく似合うかなって」


状況的に創作物なんかでは、魔女のお婆さんがこうして怪しい薬を作ってそうだし。


「似合いませんね」

「だろうね。黒マントと黒帽子がないとね」

「いえ、純粋に童顔な殿下だとただの子供の遊びに見えます」


そんなに童顔な訳……まあ、確かに11歳になったのにそんなに変わってないと言えばそれまでだが……というか、子供遊びとは失礼な。


「れっきとしたお仕事だよ」

「本当ですか?」

「ほんとほんと。俺が嘘ついたことある?」

「数える程には。アイリス達には一度もないので、僕だけなんでしょうけど」

「よく分かってるな相棒」


そもそも、アイリス達に嘘つくような真似できないしね。


トールにだって嘘はそんなに……うん、ちょっと、ほんのちょっと下らない嘘はついたことがあるけど、エイプリルフールってことで許してもらえるはず。


そういう風習はこっちにないけど、それはそれ。


「サボりは程々にしてく仕事してくださいね。レオニダス、今日の訓練を始めますよ」

「あー、分かった。エルダート様、ガチで頼んだ」


武闘会の開催が決まってウキウキしたトールが今日もハードに扱いてくると分かったのか歴戦の戦士のような面持ちで連れてかれるレオニダス。


うん、ほんとレオニダスが来てくれて助かったよ。


レオニダスが頑張らないと俺がトールに特大の魔法をぶち込み続ける作業が必要になりそうだし、本当に助かる。


これで武闘会とトリアの成長で収まってくれればなおよしだけど……まあ、その辺はそのうちだな。


とりあえず俺は被験者(トール)に飲ませる魔法薬を作ってから観客席を守る魔道具の生産に今日は勤しむとしよう。


お仕事も大切だからね。

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