第292話 見る専

「ダルテシアでも武闘会でやるんですね〜。お兄ちゃんきっと喜びますね!」


夕食時に武闘会のことを話すと、アイリスが嬉しそうに笑みを浮かべる。


何だかんだと最近の不安定なトールを少し心配してたようだったし、俺同じように落ち着く糸口になるかもと考えたようだ。


以心伝心?まあ、幼なじみみたいなものだしね。


「エル様も参加するんですか?」

「いんや。俺は見世物で魔法を見せるくらいだよ」


そう答えるとちょっと残念そうな表情を約2名にされる。


セリィとアイーシャだ。


「……主、出たら良いところまでいけそうなのに」

「ですね。魔法ありなら優勝できるんじゃないですか?」


魔法ありでも勝てる気が微塵もしないだよなぁ。


ズバズバ魔法を叩き切る相手(ⅹ2)に魔法ありでも勝てるビジョンがまるで思い浮かばないからヤバいよね。


まあ、それ以前にフレデリカ姉様相手に勝つためとはいえ魔法を叩き込むのが普通に嫌なんだけど、シスコンとしては普通だよね。


というか、向こうは楽しんでても俺は別に戦いを楽しめるようなタイプでもないので無理はしたくない。


「今回は武闘会だからね。魔法は盛り上げにしか使えないし仕方ないよ」

「じゃあ、そのうち魔法大会もあるといいですね。絶対エル様が勝ちます!」

「そうですね。それならエルダート様が優勝しますね」


癒し系うさ耳美少女のアイリスと癒し系美少女のレイナがそう褒めてくれるけど、賛同はしかねる。


魔法自体は得意といえば得意だけど、別に俺は魔法戦が得意という訳ではないので優勝できるかは微妙な気もする。


もしやったら、負ける気はないし婚約者の手前頑張るけど……技量や知識、初見殺しみたいな魔法を使われたら負けないとも限らない。


まあ、それよりも怖いのがトールが即席で魔法覚えて肉弾戦で参加してくるパターンなんだよね。


どう考えても勝てるビジョンが浮かばない。


「セリィとアイーシャは武闘会出なくていいの?」


そう聞くと2人は勿論と頷く。


「……面倒だし、主とゆっくり見てたい」

「どう頑張っても三位しか枠が空いてませんし、どうせなら好きな方との憩いの場にした方が楽しそうですから」


うん、2人らしい理由だなぁ。


実際、セリィもアイーシャも肉弾戦だけなら三位はほぼ確定だろうけど、無理に出る必要も無い。


出たがったら別だけど、俺の婚約者はそこまで好戦的な訳でもないしね。


なお、レイナとアイリスはそもそも最初から参加するという選択肢もなさそうだ。


アイリスはスペックだけなら張り合えるかもだけど、殴り合いや血みどろな展開は苦手だし、レイナもそういうのは専門外。


そう考えると本当に平和だなぁ。


トールのところが凄すぎるだけかもだけど、平穏無事が何よりだよね。


「そういえば、今日はトールはずっとトリアの所だった?」

「みたいですね〜。お兄ちゃんトリアのことすっごく可愛がってました」


ブラコンの気が少しあるアイリスがトリアの存在に妬くかなぁと思ったけど、見たところそんな様子はなさそうだった。


むしろ、自分以外にきちんと愛情を向けられる家族が出来たことに喜んでるようで、本当に心の優しい子だとしみじみ思う。


「私もアイリスさんと顔を見に行きましたけど、トールさん物凄くトリアを大事にしてましたよ」

「初の子供ってのもあるんだろうけど、娘ってのも大きいのかもね」

「エル様も最初は女の子の方が良いですか?」


なんて事ない質問のようだけど、ソワソワした様子が伝わってこないほど鈍くもない。


一般的に今世の政情的に、家を継がせるという意味では最初の子供は男の子の方が良いという風潮がある。


長男が跡を継ぐというのが様式美というのはどこの世界でも同じようだ。


ただ、我が家……というか俺がそういった一般的な考えと少し違う位置に居ることも婚約者達は知ってるので、トールの様子を見て俺がどちらを望むのか気になったのだろう。


子供を見てると自分たちの時のことを考えてしまうのは仕方ないことだね。


特にここ最近のベビーラッシュらしきものを見てると特にそう思う。


ここは正直な気持ちを伝えつつ、同時に下手なことを言って結婚前から重しにするのも良くないのでシンプルに答えるとしよう。


「性別はどっちでもいいかな。それよりも大切な人達との我が子なら絶対可愛がると思う。トール程かは分からないけど」


結婚すらしてないのに子供は早い気もするけど、何事も覚悟を固めておくのは大切だ。


トールやレオニダスが父親になる様子を見てるとなおそう感じる。


早すぎるなんてことはなくて、先を考えて動くことも大切だと。


ただ、同時に今この瞬間を大切な人たちと宝物にするのも大切だと思うので存分にイチャイチャしておこう。


俺の答えにどこか嬉しそうな様子の4人。


特に嬉しそう……というか、ホッとしてる様子なのはアイリスとレイナの二人。


まだまだ先の話だけど、順番的にも役柄的にも俺のシンフォニアとダルテシアのそれぞれの爵位の家を継がせるのは二人の子になる可能性が高い。


俺としては誰が跡を継いでも良いとは思うけど、形は大切らしいので郷に入っては郷に従っておく。


ただ、それで好きな人を悩ませたくないしほどほどにしておくの忘れない。


そんな感じでゆっくり夕食を食べてから、風呂に入ってゆったりと4人とベッドに入る。


添い寝がデフォルトになってきて、これ無しだと眠れなくなりつつあるけど、悪い気はしない。


婚約者のうちだからこそできる贅沢とも言えるよね。

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