第290話 武闘会発案
「なるほど、トールくんもそういうタイプだったんだね」
「ええ、すっかり娘にメロメロみたいです」
「まあ、初の我が子っていうのは特別みたいだしね」
マルクス兄様にトールの近況を話すとどこか納得したような顔をされる。
「僕も子供が出来たらそうなるかもね」
「きっとマルクス兄様とアマリリス義姉様に似た聡明な子でしょうね」
「僕としては特別な才なんてなくても、ただ僕らの元に来てくれたことを喜んじゃうかも」
マルクス兄様らしいな。
でも奇遇なことに俺も同じように考えてしまうかも。
ただ無事に生まれてくれて健やかに育って欲しいというのは多くの親が真っ先に思うことだと思う。
「まあ、エルやアマリリスにしかこんな事は言えないけどね」
内緒だよと微笑むマルクス兄様。
次のシンフォニアの国王としては外で言えないことも多いだろうし、王太子というも大変そうだ。
アマリリス義姉様のお陰で余裕があるのがせめてもの救いかな。
「さて、それでトールくんのガス抜きだったね」
「ええ、いつも通りフレデリカ姉様に頼むのが確実なんですが……」
「それだけじゃ足りないかもってことだね」
「はい」
いつもならフレデリカ姉様と戦うだけでガス抜きには十分すぎるんだけど、それだけでは収まらない可能性も考えないといけない。
「トールくんは年々強くなってるからね。それをギリギリとはいえ抑えられるフレデリカも凄いけど」
フレデリカ姉様とトール。
力のゴリ押しならトールの圧勝だろうけど、技術面やメンタル面とトータルで戦うと結構ギリギリな勝負になる。
まあ、ギリギリとはいうけど、どっちもガチで戦うと城が吹き飛びかねないのでセーブしてる面もあるのだがそれはそれ。
駆け引きや新しい技なんかで楽しむ時もあるようだし戦いとは難しいものだ。
「実はフレデリカも最近相手が少なくて退屈気味なんだよね」
「知ってます」
「だよね。その余波はエルにくるから」
転移門のお陰でこちらに来安くなったのもあるけど、前よりもフレデリカ姉様から誘われる回数が増えた。
俺の運動不足解消には非常に有難いんだけど、魔法を使用した実践的な訓練もそれに比例して増えてたりする。
魔法を使用した実践的な訓練。
要するに、フレデリカ姉様との魔法を使ったガチマッチだ。
普通の剣や体術の訓練よりもこちらの方が中々大変だったりする。
速い上に一撃が重いフレデリカ姉様に魔法を当てることもそうだけど、姉様と戦うという状況がシスコンな俺にはちょっとハードルが高い。
「エルは良い意味で戦いに向いてないよね」
そんな俺の気持ちを察して頷いてくれるマルクス兄様。
本当に素敵なお兄様だと思う。
「実は提案……というか、お願いしたいことがありまして」
「うん、内容はなんとなく分かる。実は前々から僕も色々考えててね。これを見てくれるかな?」
そう言って一枚の書類を渡してくるマルクス兄様。
そこにはシンフォニア王国主催の武闘会の企画案が書かれていた。
「流石にトールくんやフレデリカより強い相手が来るとは思わないけど、まだ見ぬ流派やスタイルの相手を見るだけでも効果はあると思うんだ。あと二人は強い相手との戦いが何より好きだけど、まだ見ぬ相手も好きだし」
流石というか、マルクス兄様にはお見通しだったようでもう既に話を進めてくれてるみたいだ。
そう、俺がマルクス兄様に頼もうとしたのは国を上げての武闘会の開催。
戦いに浸れる日を作ることで、気持ちを切り替えることを目的にしようと思ってたんだけど、もう既に話が進んでるとは流石すぎる。
「これまでのこの国だとそんな余裕もなかったけど、エルのお陰で交通の便はぐっと良くなった。強い人を見出す意味でもやるのはいいと思うんだけどどうかな?」
「良いと思います。というか俺から頼もうと思ってました」
「ふふ、やっぱり兄弟だね」
考えることは同じということなのだろうが、俺よりも何十倍も頭の良いマルクス兄様だから俺の想定よりも先を見てそう。
「せっかくだし二人にはより多く戦って貰うけど……エルも出てみる?」
「遠慮しておきます」
あまり腕に自信がある訳じゃないし、強さを示すのはトールに任せる。
「まあ、エルならそう言うよね」
「マルクス兄様は裏方ですか?」
「僕はそっちが主戦場だからね。それでね、エルに一つ頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「うん、エキシビション……というかデモンストレーションかな?エルの魔法の実演をお願いしたくてね」
……魔法の実演?
「ええっと、賑やかし系の魔法を見せれば良いので?」
「そうだね、それもなんだけど会場に被害が出ないレベルで派手な魔法も使って欲しいかな」
ふむふむ、要するに賑やかし系&実践攻撃系魔法辺りを見せろと。
「勿論、手の内を晒すような魔法じゃなくていいよ。見せても問題ないやつでお願いしたいんだけどどうかな?」
意図は分からないけど、そういう事なら。
「分かりました。少し練習しておきますね」
「ありがとう。それと、観客席……特に貴賓席を守るために魔道具も頼むことになると思うけど大丈夫?」
「勿論です」
トールとフレデリカ姉様がうっかり本気になったら困るし、俺の攻撃系の魔法の実演にもそれは必須だろう。
それに防護系の魔道具くらいならすぐ作れるし。
「本当にエルが居てくれて助かるよ」
「こちらこそ。マルクス兄様のお陰で平和になりそうで助かります」
それにアイリス達とゆっくりと武闘会を観戦するのも楽しそうだしね。
デートではないけど、こういう催しも悪くないよね。
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