第288話 第1次ベビーブーム?の予兆

「なあ、トール。父親ってなんだろうな」

「なってみて分かりましたけど、正解はないと思いますよ」

「そうかー……そうだよなぁ」


トールとレオニダスが上の空でそんな話をしている。


哲学でも語ってそうな雰囲気だけど、生憎ともっと身近な出来事から来た内容であることはよく知ってる。


だからこそ、そんな二人に俺から言葉を送るとしよう。


「昨夜もお楽しみでしたね」

「……殿下、他人事のように言ってますがきっと殿下もこんな状況になる時がくると思いますよ」

「いやー、そんなになくない?まあ、めでたい事だし素直に喜ぼうよ」


トールの娘のトリアが生まれてから一月ほど。


すくすくと育っているトリアの様子に触発された者は多かったようで、今現在この屋敷はちょっとしたベビーブームらしきものを迎えていた。


いや、その前から予兆があったからベビーブームらしきものと言えるのかは不明だけどそう言っておくのが無難かと思われる。


さて、めでたい事その1。


トールの嫁のケイトの妊娠。


予想通りといえばその通りだけど、まさか本格的な式の前に授かるとは……できちゃった婚ということになるのだろうか?


新しい孫の存在にケイトの両親が大層喜んでたけど、トールとしてはきちんと式をあげる前に授かったことに少し複雑な様子。


まあ、とはいえ喜ばしいことなので手放しにケイトを褒めてたけど……きちんと妻を慮れるのだから相変わらずイケメンは凄いものだ。


めでたいことその2。


トールの嫁ピッケも妊娠。


うん、まさか時期を同じくして授かるとは……こちらは俺の祖父母がかなり喜んでいたけど、トールとしてはやはり式をきちんと上げてから迎えたかった様子。


それとは別に喜ばしいことなのでピッケに手放しに感謝をしてたけど、まさかの嫁二人が時を同じくして子をさずかったという事態は流石のイケメンも想定外だったようだ。


まあ、どれだけトールが理性的だろうと嫁の方が子供が早く欲しいとやる気満々な様子だったしこうなるのも必然と言うべきか。


俺としては、事実婚してるようなものだし、きちんと二人を娶る覚悟があるので気にすることもないとは思うが……何にしても、流石にキャパを超えかけたのか同士と話して落ち着きを取り戻そうとしてる様子。


んでもって、その同士がめでたい事その3。


レオニダスの嫁のベロニカの妊娠。


いやー、確かにあのお嬢様も情熱的で、レオニダスが毎夜大変そうではあるなあーと思ってたけど、トールの子と時期が被るとはねー。


レオニダスは突然の子供の存在にかなり動揺していたけど、それでもベロニカの前では凄く頑張って素直な感謝を伝えていた。


よく頑張ったよ。


ただ、流石に容量を超えたようでこうして同じ状況の同士たるトールと話して落ち着こうとしているみたい。


それは分かるんだけだけど……俺も交える必要ある?


「いやー、流石にエルダート様とトールくらいしか落ち着いて話せそうな相手いなくてな」

「殿下は聞き上手ですから」


……こんな時だけ褒めるのやめない?


変な鳥肌たつから。


「俺が父親かぁ……なんていうか、嬉しいんだが俺に務まるのかどうか……」

「痛いほどその気持ちわかります。自分なんかでいいのかって」

「だな」


暗いなぁ。


「でも……こんな僕を好いて、子供まで宿してくれた。自信がなくても良い父親になりたいです」

「……流石に先輩の言葉は重いな。確かに好いて好かれた女と自分の子供は守らないとな」


流石というか割と一瞬で立ち直り始めている二人。


マジで俺いらない気がするけど、水をさすのも悪いか。


「よし!今夜は飲もうぜ!」

「たまには良いかもしれませんね」

「エルダート様は水でいいんだよな?」

「え?俺も付き合うの?」


フェードアウトしようとしていると、名指しされてしまう。


「そりゃあ、エルダート様が来ないと始まらないだろ」

「ラムネも呼びましょうか」

「あー、確かにそれがいいな。四人で飲むとするか!」


巻き込まれたラムネよ、本当にすまない。


面倒くさいので断りたいけど、割と二人ともいっぱいいっぱいな部分をなんとかその集まりで解消したい様子もあるし断れないか。


とりあえず、巻き込まれたラムネには特上のラムネを用意しておこう。


「バルバンさんはどうだ?」

「バルバンさんは無理だと思いますよ」

「あー、確かに最近は飲みとか断ってるとか言ってたっけ」

「気持ちは分かります。それだけ子供の力は凄いので」


リーネが来てからバルバンはリーネとの時間を大切にしている。


無理には呼べないだろう。


俺も婚約者との時間を優先したいんだけど……


「いえ、殿下の場合こういう時でもないと誘えませんから」

「たまにはダチ同士で気楽に飲もうぜ」


はぁ……まあ、仕方ないか。


「分かったわかった。付き合うよ」


何だかんだで同性の友達にしか話せないこともあるのは分かる。


分かるけど、俺には多分縁がないのでタダ酒ならぬただ水のために付き合うとしよう。


そんなシチュエーションで飲む水も美味しいしね。


そんな感じでラムネを加えて四人で飲んだ(一名水、もう一名ラムネ)んだけど、割と楽しかったとだけ言っておこう。


ただ、夜更かしはするものじゃないね。


健康第一ってね。

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