第287話 トールの子の名前
クレアがトールの子を無事出産した。
女の子だ。
見た感じはトールに似てるような気がする。
特にトールやアイリスと同じうさ耳がそう思わせるのだろう。
話によると、目の色なんかはクレアと同じ色らしいけど、むしろ中身がクレア似になりそうと思えるのは俺だけだろうか?
きっと、愛がおも……ごほん!深い子になりそう。
さて、トールの子ということで関わりのある人が見に来たりもするけど、姪っ子にメロメロになるアイリスというのも中々良いものだった。
「可愛いですね〜。とってもちっちゃい」
まだ首が座ってないので特に気をつけて抱っこするアイリス。
赤ちゃんとの触れ合いは俺の身内関連などでそこそこあるけど、姪っ子ということで気兼ねなく可愛がれるのはやはり違うのだろう。
めちゃくちゃ可愛がってる。
うさ耳癒し系美少女がうさ耳の赤ちゃんを愛でる……いいね。
甥っ子、姪っ子の魔力は半端ないのでそうなってしまうのも頷けるけど、それよりも凄いのはトールだ。
初めての子にすっかり心を射抜かれたらしい。
かなりの頻度で足を運んでいる。
「名前、そろそろ決まったの?」
「まだです。中々しっくりくるのがないので。ですから、なるべく近くで見て決めたいんです」
うん、本音だろうけど九割我が子が可愛すぎて会いたくなってるだけだよね?
まあ、出産前よりはよっぽどまともな状態だし、娘に会いに来るのが、今の心の癒しというのも大きいだろうし、深くつっこみはしない。
人というのは不思議なもので、赤ちゃんをみると自然と自分も我が子を欲してしまいやすくなる。
個人差はあれど、赤ん坊の魔力というのは凄まじいものなので仕方ないが……特にトールの嫁たちにとっては大きな刺激にはなってるのだろう。
伝え聞く限り、クレアが産休&育児で多少トールから離れたことで夜の主導権はほぼケイトが握ってるようだ。
控えめではあっても、ピッケも積極的になりつつあるらしい。
もう一人、妻候補(というかほぼ婚約者)のシールは成人まで我慢する代わりにクレアの子のお世話を積極的に手伝って堅実に自分の番に備えてるそうだ。
そんな状況も相まって、トールは娘の存在に新たな安らぎを感じてるのだろう。
とはいえだ。
「生まれてからもう何日も経ってるしいい加減名前くらいはちゃんと決めるように」
家庭のことだし、あまり口を出したくない所ではあるんだけど、流石に生まれてからそこそこ経ってるのにまだ名前がないのはちょっと困りもの。
娘の将来を重んじてしっかり考えるのはいいけど、周りが困ることもある。
それに、口にはしてないけ娘の名前を長く考えてるクレアが少し不安そうだとアイリスから情報も上がっている。
トールの全てを分かっており、その全てを愛してるクレアといえど、出産直後で少しメンタルが不安的にもなってるのだろう。
「そうですね。今日中に必ず決めます」
まあ、そんな事はトールの方がよく分かってるのだろう。
俺の言葉に素直に頷く。
クレアの愛の方が強烈で大きいせいで普段は霞むけど、トールもクレアのことを愛してるからその程度は分かってるのだろう。
ラブラブだよね。
「ですが、殿下。念の為僕が居ない時はこの子に会いに来るのは控えていただけると助かります」
「押しかける気はないよ。アイリスの付き添いはあるかもだけど」
親しき仲にも礼儀ありってね。
「というか、俺はそんなに野暮なことするように思えるか?」
「いえ。ですが念の為です」
そのクレアへの思いやりは分かるけど……なんか別の感情も混じってないか?
「トールくんや。正直に言ってみ?」
「……殿下がこの子に頻繁に会いに来ると物心着く頃には殿下に恋焦がれるのではないかと少し心配で」
俺をなんだと思ってるの?
「トールじゃあるまいし、そんな事にはならないでしょ」
「僕だってありませんから」
どうだか。
そんな話をしているけど、トールは我が子を抱っこしてご満悦でもある。
不思議なものだな。
これまでも俺の付き添いなどで孤児院などの子供の相手をする機会は多くあったけど、その時でもここまで全開の笑みは見たことがない。
我が子ということで違うのはよく分かるけど、あのバトルマニアが戦い以外でこうも幸せそう表情をするとは。
やはり親になると変わるのだろうか?
そんな事を考えていると、トールに抱っこされてるトールの娘が少しぐずりはじめる。
それを見て、少し離れてのんびりしていたクレアがトールの娘を受け取ってあやす。
眠くてぐずってたようだ。
「……母親には敵いませんね」
「頑張れ、お父さん」
そんなお父さんの初仕事……名付けはその日のうちにトールが考え倒して決まった。
命名、『トリア』
何かの本に出てくる英雄の名前らしい。
戦乙女という異名がつくほどの強さと美しさ、そして芯の強さを持って欲しいという意味もあるのだろうけど……まあ、クレアが同意したなら問題ないか。
我が子に英雄の名前をつけるのはトールらしいといえばらしいけど、何にしても決まってよかった。
正直、アイリスが姪っ子の名前を呼びたくて仕方ないという顔をしていたので本当に良かった。
しかし、生まれたばかりというの差し引いてもこの愛でっぷり……嫁に出す時が怖そうだな。
きっと結婚の挨拶の時に、『娘が欲しいなら僕を倒してみせろ!』くらいは言うと思う。
まあ、それくらい大切に思えるのなら問題ないかな。
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