第286話 誕生日とクレアの出産
プール完成からあれこれしているうちに、俺は11歳の誕生日を迎えた。
自分のことながら、毎度誕生日を祝ってくれる人がいるのは本当に不思議な気持ちになる。
前世では祝ってくれる人なんて居なかったし、そもそも自分の誕生日を祝える気持ちになんてなれなかったしね。
不思議というか、いつまで経っても慣れないというか、こそばゆい気持ちになるけど嫌ではない。
心から祝ってくれる大切な家族、婚約者、それと友人。
本当にありがとう。
ただ、身内だけでささやかなパーティだけという訳にもいかないので、他の貴族向けのパーティを別にするのは少し面倒。
面倒だけど、それが終わってから身内だけのパーティが出来ると思えば気持ちも楽になる。
まあ、時期の関係か俺に自分の身内を側室として売り込んでくる話が多かったのには若干げんなりしたけど。
アイーシャを婚約者にしたことが大々的に広まったからかな。
今なら売り込めると思ったのかそんな話が多かったけど、誰でもかれでも好きになれるほど器の大きい男にはなれてないのでやんわりとスルーする。
そういえば、アイーシャの実家のプログレム伯爵家……現当主のプログレム伯爵とその奥さん、そして長男のカリオンも俺の身内枠のパーティに来てくれたんだけど、カリオンが前々から根回し済みだったのか、あっという間に馴染んでいた。
一般向けの方にも出てたけど、そちらでもそつなくこなしてたし、改めてそのスペックの高さを知ったけど、アイーシャの兄と考えると妙にしっくりくる。
義父様はカリオンを見て、『若い頃のプログレム伯爵そっくりだ』と言ってたけど……見た目の話だよね?
中身まで昔はこうだったと考えるとそれはそれで恐ろしい。
俺を前にして、「アイーシャとのお子が出来たら是非孫の名前の候補がこちらに」と言って、奥さんとカリオンに殴られているこれが演技だとは思えないけど……結婚して丸くなったのだろうか?
ともあれ、楽しい誕生日でした。
そんな風に誕生日から忙しない日々が続いていたんだけど、トールが段々ソワソワしてきていたのには当然気づいていた。
理由は勿論、妊娠中のクレア。
予定日が近いのか、すっかりお腹も大きくなってきて一目で妊婦さんだとわかるようになったからか、はたまた思った以上にアグレッシブに動いてる上、平常運行でトールに愛を向けてくるクレアを心配してか。
何にせよ、トールとしても初めての出産、初めての子ということで色々あったのだろう。
俺にあれこれと相談をもちかけてくる。
「殿下、クレアがさっき、少しお腹が痛いと言ってたんですが助産師を呼ぶべきでしょうか?」
「妊婦に冷えはよくないと思うのですが、何か温かいものを作って頂けませんか?殿下の料理なら料理人よりも効果が期待できますので」
「産まれてくる子供のことで悩みがないか心配です……遠回しに聞いてきて頂けませんか?」
……お前、そんな過保護だっけ?
思わず言いかけたけど、初めての子供……ましてやいつもと少し違うクレアの様子を見れば狼狽えたりするのも分からなくもない。
ただ、これだけは言っておこう。
「相談相手、間違ってない?」
年下かつ、結婚前の俺に聞くことではなくない?
「何故か殿下は色々と詳しいので頼らせてください」
……そうストレートに言われると断りにくいな。
そんなこんなで、トールの相談に付き合ったり、答えたりしてると、クレアが産気づいた。
トールがかなりソワソワしているけど、出産には立ち会わない約束をクレアをしていたらしいく、大人しく部屋の前で待機している。
クレアのことだから、てっきりトールに手とか握ってもらうのだろうと思っていたけど、『トールの前では美しくありたい』という信条的なものだろうと納得もした。
さて、幸いトールは休みだし、別に出産まで待っててもらって大いに構わないのだけど、何故か俺もそれに付き合っている。
俺は居る必要ないけど、クレアからトールの相手を頼まれてしまったのだ。
助産婦さんたちに混じってケイト達も今後のために勉強として付き添ってるから俺しか居なかったのだろうけど、それにしても雇い主にそんなこと頼めるのだから大したものだ。
「殿下……まだでしょうか……?」
いつもの余裕がなりを潜めてソワソワ気味なトール。
珍しいからイジりたいけど、流石に自重しておく。
「クレアは強い。自分の妻を信じろ。元気な子が生まれてくるよ」
「……そうですね、ありがとうございます」
うーん、本当珍しい顔をするものだ。
そんな風にトールを宥めていると、部屋の方から元気な赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。
その声にガバッとトールが立ち上がると同時に、室内から助産師さんの一人が出てきてトールに言った。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
「……!……つ、妻は大丈夫ですか?」
喜びと同時にクレアの心配もするイケメン。
そんなイケメンに助産師さんはにっこりと微笑んで答えた。
「はい、初産で少し大変でしたが母子ともに無事ですよ」
その言葉にトールが心底ホッとした表情をする。
「殿下……やりました……」
「うん、良かったな。……いや違うか。おめでとうさん、トール」
俺の誕生日から少しして、トールの第一子が誕生した。
にしても、女の子か……てっきり男の子かと思ってたけど、無事生まれたから問題ないかな。
少なくともトールはかなり喜んでるし。
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