第285話 プールを堪能

「そうそう、レイナは飲み込みが早いね」

「エルダート様のお陰です」


色々と屋敷のプールにはアトラクション要素もあるのだけど、まずはせっかくなので純粋なプールを楽しんで欲しいと思い泳ぎ方を教える。


まあ、とは言ってもアイリスには何度か教えてるので割とすぐにすいすい泳げるようになったし、セリィとアイーシャは見ただけで泳ぎをマスターしたので主に教えてるのはレイナだ。


足の不自由なレイナが泳げるのか?


その答えは、俺の開発した魔道具を使えばプールや海を自由に泳げるだろう――だ。


レイナの足は先天性のもの。


足自体はあっても自由に動かせないように……一種の呪いのようなものも相まって今すぐに何とかするのは難しい。


神からの悪い贈り物と言えばいいのか……本当に悔しい。


己の無力に歯がゆくなるけど、レイナは『エルダート様が救ってくださったので、私は今幸せなのです』と優しく笑ってくれる。


この笑顔には応えたいよね。


絶対にそのうち何とかすると俄然燃えつつ、何とか遊べるようにだけでも出来ないかとあれこれ考えた結果、俺が一番好きな場所……即ち、プールや海で自由に遊べる術を優先してみた。


凄く頑張ったよ。


幾度もの失敗を経て、なんとか形になったのはサポートアイテムをさらに進化させたような魔道具。


効果は『水の中に限り、四肢の動きをある程度補助する』と言えばいいのか。


最も簡単に言えば、『どれだけ足が不自由な人でも水の中に限り自由に動かせるようになる』という魔道具である。


まさに魔法というべき産物なんだけど、量産できないレベルで貴重なだけでなく入手が幻レベルの素材を使ってるのでほぼ一点物になりそう。


仕組みは面倒なので省くけど、小型で両足に装着するだけで水の中なら自在に足を動かせるようにレイナはなった。


凄く喜んでくれたのでこちらとしても頑張った甲斐はあったけど問題もあった。


何度か試験もしたんだけど、いざ使うとなると普段あまり体を動かせないレイナだと慣れるまでにそこそこ時間を要してしまう。


焦ることなくのんびりやろうと、2、3時間ほど付き合った結果、割とすんなりとレイナはこの魔道具を使いこなしてくれていた。


「エルダート様、ありがとうございます」


足の着く場所で、ゆっくりと両足で立ちながらそう言うレイナ。


「気にしなくていいよ。可愛い婚約者に泳ぎ方を教えられて楽しかったから」

「それもありますが……この魔道具のことです。私なんかのために頑張って下さったのですよね」


バレてたか。


でも、少しだけ言い返しておこう。


「『なんか』じゃないよ。レイナは俺の大切な人だ。その大切な人と遊びたいから勝手に俺が頑張っただけだよ」

「エルダート様はお優しいですね」

「レイナには負けるよ」


思わず笑いあってしまう。


悪くない気分だ。


「せっかくのプールだし、楽しもうか」

「そうですね。それにこれ以上エルダート様を独占しちゃうと皆さんに悪いですし」


その言葉と同じくしてそっと水の中から飛び出してきたのはアイリスだった。


「エル様、エル様!泳ぐのってやっぱりとーっても気持ちいいですね!」


天真爛漫が似合う実に可愛い笑顔。


そんなアイリスに優しい視線を向けるレイナと俺だけど、どちらかといえばこの笑顔にまた魅了されたという方が正しいか?


そんな風にレイナとアイリスに囲まれていると、綺麗な泳ぎで近づいてくるアイーシャと音も立てず水の上を歩いてくるセリィの姿が。


……泳がないの?


「……アイーシャと勝負してた。どっちが先に主に着くかって」

「同着なので引き分けですね」


まあ、楽しんでくれてるのならいいかな?


そんな風に婚約者達と初のプールを満喫したけど、水の中を楽しそうに泳ぐレイナの姿や、水中でも水上でも自由に動くアイーシャやセリィ、そして元気に俺と同じようなテンションではしゃいでくれるアイリスの四人の存在が本当に愛おしいと再認識するイベントにはなったかな?


まあ、本当今更で当たり前なことだけど、そうした当たり前を更に深めていきたいものだ。


それにしても……プールって本当に楽しいものだなぁ。


こんなにはしゃいだのは昨日以来だ。


……いつも通りに聞こえてしまうかな?


でも、水と増え合う時、俺は恥ずかしげもなく己を晒してしまうので仕方ない。


カッコイイ姿で居たいけど、そんな俺さえ受け入れてくれる心優しい婚約者達。


彼女たちに相応しい自分でありたいものだ。


まあ、譲る気はないし、負ける気もないけど。


婚約者達を幸せにするのは俺の役目だ。絶対誰にも渡さない。


そんな密かな独占欲もあったりはするけど、何にしても家にプールを作るなんてセレブなことをして良かったとは心底思った。


今のところお金には困ってないし、むしろ使わないとヤバいレベルであるのは重々承知してるけど、貧乏性な部分はなかなか消えないし、ちょっとづつ、身持ちを崩さないように気をつけつつも、大切な人のために積極的に使っていこう。


プールはまあ、ほぼ私的なものだけど、それはそれ。


空いてる時間にまた楽しもう。


婚約者達の水着とプール……本当にありがとうございます。

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