第282話 健全な様子

「ぱぱー、なげるよー!」

「おう、いつでもこい」


執務を終えて、一休みしようと外に出ると、庭先でバルバンとリーネがボール遊びをしていた。


そういえば、今日は一日非番だったな。


なるほど、家族サービスというやつか。


微笑ましい光景に思わず笑みが浮かぶけど、そんな俺に同意するようにぷるんと近づいてくる友人が一人。


ウォータースライムのラムネだ。


「相変わらず仲良いよね」


ぷるんと頷くラムネ。


「はは、確かに。バルバン強面だけど、子供大好きだからね」


ぷるるんと震えるラムネ。


「まー、ねー。俺も子供出来たらああなるかは分からないけど多分可愛がるね」


ぷるろんと跳ねるラムネ。


「うんうん、ラムネも家族みたいなものだし、俺の子とも仲良くしてくれると嬉しいよ」


はははと、楽しく雑談する俺とラムネ。


「なあ、前から思ってたんだが、なんであの王子様はスライムの言葉が分かるんだ?」

「殿下は変人なので気にしない方が気が楽ですよ。それに、ラムネはかなり特殊なウォータースライムのようですし」


そんな俺たちを見て話しているのは訓練にひと区切りつけたトールとレオニダスの二人。


人を変人のように言うのはやめない?


しかも本人に聞こえてる場所で。


「レオニダスは強くなった?」

「筋は良いですね。ただ、まだ狼化を持て余してるのでもう少し時間が必要かと」


トールが言うのだから、そこまで心配は無用か。


まあ、素の力でもかなりのものだし、強くなる必要があるかは不明だけど、本人達がやる気なようだし頑張るのは悪いことじゃないよね。


「エルダート様は剣とか体術の訓練はしないのか?」

「してるよ。フレデリカ姉様と」


転移門ができて、割と頻繁に誘われるようになったけど、日々の予定もあって断らないといけない場合もあるのは辛いところ。


稽古自体というよりも、フレデリカ姉様の誘いを断るのが辛い。


あまり気にしてないようだけど、少し残念そうな顔をみちゃうと予定をキャンセルしそうになる俺はおかしいだろうか?


なんていうか、家族にそういう顔をされるのが凄く嫌なんだよね。


「ていうか、レオニダスを連れてったこともあるでしょ?」

「それは勿論知ってるんだが、あんまり一人で訓練とかしてる所を見ないからな」

「一人で何をしろと?」

「そりゃあ、色々あるだろ」


さも当然のように言われるけど、根本的に間違ってるよ。


「レオニダスよ。俺は魔法が少し使えるだけの非力な少年なのだよ」

「謙遜どころか虎を猫と断言するレベルの発言だな」


……そんな酷くなくない?


「ようするに、俺はバリバリ自分を鍛えるようなキャラじゃないってこと。魔法ならともかく、物理はトールに任せてるから」

「そりゃあ、重々承知してるんだが……なんていうか、エルダート様ってガチでやればもっと剣術とか体術も強くなれるそうなんだよなぁ」

「分かります。殿下は思ってる以上に強くなれる素質はあるかと」


ははは、おべっかはいらんのだよ。


「フレデリカ様もそう思ってるからこそ、殿下を稽古に誘ってるだと思いますよ」

「そうかな?姉様は俺に構ってくれてるだけでしょ」


優しいからね。


じゃれる手段&弟の運動不足解消のために稽古をつけてくれてるのであって、俺に変な期待をしてる訳でなないと思うよ。


「……なあ、この王子様、思った以上に自己評価低くないか?」

「そっとしておきましょう」


そこ、可哀想な目を向けないように。


何もやましいことはないけど、なんか悔しいから。


そんな俺の前に割って入るのはウォータースライムのラムネだ。


『お二人とも、あまり主を困らせてはいけませんよ』


そうだ、そうだー。


『主は平和と水を愛するお方。武の担当は私たちですから』


そうだ、そう……ん?私たち?


ラムネも入ってるの?


「確かにラムネさんは強いよな。この前瞬殺されたの忘れられないぜ。まあ、トールに負けたのも忘れたくても忘れられないが」

「毎日ですからね」


……レオニダスよりも、ラムネの方が強いのか。


まあ、ラムネは出来る子だからそのくらいは当然といえば当然なのかな?


何にしても、後でご褒美にラムネの好物の飲む方のラムネをいつもより多く振る舞うとしよう。


「きゃー!ぱぱすごーい!」


そんな風に立ち話をしていると、いつの間にかボール遊びから、バルバンがリーネを肩車して走り回る遊びにシフトしたのか楽しげな声が響いてくる。


楽しそうだなー。


「バルバンさん、良い顔になりましたね」

「だな。リーネに感謝だよ」


亡くなった奥さんと息子さんに何かと想いを残しているからか、それとも罪悪感や後悔が未だ消えないのか、たまに『俺は本当にここに居てもいいんだろうか?』と言わんばかりの顔をしていたバルバンなのだが、リーネが来てから自然な笑顔が増えた気がする。


リーネが懐いてる、俺を神様扱いする旧スラム出身のメイドさんの存在も少しはありそうだけど、何にしてもああしてリーネの相手をしてる満更でもなさそうなバルバンの様子は少しホッとする。


やっぱり、人は守るものを持った方が健全に生きられるのかもしれない。


そんな事を思いつつ、ラムネを抱えるとトールたちと共にバルバンとリーネのお邪魔をしないようにそっと立ち去る。


今更だけど、念の為ね。


バルバンがこの距離で気づかないわけないけど、気にせずリーネの相手をしてる辺り、見られても気にしないということだろう。


まあ、そうであっても親子の時間は邪魔したくないよね。


楽しそうだし。

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