第280話 ニッケルからの贈り物

ダルテシアにおいて、最大手と言っても過言ではない、ヤグラク商会の会長であるニッケル。


ダルテシアに来る前に縁あってちょこっと関わってから何かと世話になってるのだけど、そのニッケルが良いものが手に入ったと屋敷にやってきた。


「殿下、お時間を頂きありがとうございます」

「気にしないで。それより早速見せて貰えるかな?」

「はい、こちらでございます」


お付の従者に持ってこさせたのは、かなり大きな箱。


何が入ってのかと開けてみると、中にはかなり派手な剣が入っていた。


「ニッケル様、それはもしや……」

「流石トール殿。見ただけで分かりましたか」


直ぐにピンと来たのは付き添いで部屋にいたトール。


剣をみて目をキラキラさせている。


「こちらは、かの名匠ファーズの生み出した、最高傑作のうちの一つ。名を『フェアブレッヒェン』と申します」


ファーズ……というと、昔の有名な鍛冶師だったかな?


「ファーズは少し特殊な生い立ちをされてまして、壮年になりその才能を開花された天才鍛冶師ですよ」

「相変わらず詳しいな」

「剣士としての嗜みですよ」


そんなものかな?


まあ、強い剣に興味があるのは剣士の性だろうか。


「ファーズの作品はどれもこれも性能が良くて、美術品としての価値も高いんですが、その中でも最高傑作の……しかも、フェアブレッヒェンとは恐れ入りました」

「少し特殊なルートで手に入れまして。こちらは是非ともトール殿に使って頂きたいと思い持参しました」


なるほど、そういう事か。


「じゃあ、貰うよ。代金は色を付けさせて貰うね」

「いえいえ、こちらはいつもお世話になってる殿下への手土産なので代金は不要です。それに、優れた剣は優れた騎士にというのが私の考えですから」

「……いえ、是が非でもこちらは支払わせてください。このような名剣をタダでは貰えません」


俺としてもあまり貰ってばかりは悪いなーと思うので、気持ちトールを応援気味に二人の交渉を傍観していると、最終的に後でトールがこの剣を使ってニッケルの前で一つ技を披露するという条件で譲り受けることになったようだ。


この辺の交渉はまだまだ熟練の商会長には勝てないか。


経験の差というのは中々埋めがたいし仕方ないといえば仕方ないかな。


「実はファーズの剣はついででして。殿下にはこちらをご用意させて頂きました」


剣を受け取って心做しか楽しげなトールの様子を見ていると、そう言ってニッケルは別の小さな箱を取り出して目の前に置いた。


「ん?これどこで手に入れたの?」

「ある筋から託されまして。殿下にならお渡しできるかと思ったのですが……如何ですか?」

「確かにこれは俺案件かな。うん、分かった。貰うよ」

「ありがとうございます」


中身も見ずにそんな風に話を終えたので、トールがかなり訝しい顔をしていたが、ニッケルには分からない範囲の変化なので凄いなぁと思う。


俺にだけ分かるようにしてるのか、それとも俺が分かりすぎてるだけなのか。


前者だろうな、そうであって欲しい。


「それで殿下。先程の品は何だったのですか?」


ニッケルの前で技を一つ披露して、ニッケルが帰ってから気になったのか先程の品のことを聞いてくるトール。


「聞きたい?」

「知っておいた方が面倒事になった時に把握しやすいので」

「何も起きないって。まあ、普通だと多少扱いに困るかもだけど」


そう言いつつ、箱を開けると中から小さな石を取り出してトールに見せる。


「……魔石ですか?」

「多分竜種だろうね。中の下くらいのランクだろうけど、そこそこ長く生きてる竜から取れたんだろうね。これだけ上質なら良い魔道具が作れそうだ」


最も、加工するには専用の魔法がないと大変なので、持ってるだけだとそこまで意味はないけど。


魔法使いなら力量によっては、この魔石で魔力の補充も出来るだろうけど、あれって意外と難しいからなー。


まあ、使い道として加工した方が断然お得なのは間違いない。


ニッケルならきっとこれを加工する手もあるのだろうけど、あえて俺に渡してきた辺り、商売人だよね。


「竜種ですか……何れは会ってみたいものです」

「肉の味が知りたいから?」

「それもあります」


まあ、ドラゴンの肉って美味しそうだよね。


「剣の方はどう?」

「流石、ファーズの最高傑作の一つですね。かなりいいです」


ほう、あのトールがそう言うとは凄いな。


「ただ、慣れるまで少し時間が欲しいですね。しばらくは今のと合わせて二本でやってみます」


サラッと二刀流でも余裕な様子のトール。


慣れたら貰ったやつだけになるんだろうけど、二本差しもかなり様になってるので、イケメンという種族は凄まじいと思います。


そうして新しい玩具にはしゃぐ子供のように、トールは剣の感触を確かめるために長めに訓練の時間を作ったけど、それに比例して嫁たちとの時間も増えてるようだ。


まあ、要するにいつも通りということで。


夫婦円満良い事だよね。


ニッケルには今度また別の形でお礼しておかないとな。


そんな事を考えつつ、俺も魔石の使い道をあれこれと空想しつくて、夜には婚約者達に癒されるのであった。


うん、いつも通りといえばいつも通りだね。

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