第277話 俺の騎士なら

クレアのお腹が分かりやすいくらいに膨らんできた。


俺自身普段は、そこまでクレアと会う機会は多くは……うん、トール関係以外では会ってないはず……ないと思われるので、あまり日々の変化とかも感じることはないんだけど、親友の嫁に久しぶりに会ったらお母さんぽくなってたみたいなそんな感じ。


心做しか前よりも中身も丸くなってそうだけど、トールへの想いは揺るがないようでなにより。


何故分かるって?


さっき産まれてくる子供に必要そうな魔道具の注文を受けてる時に、ついでに頼まれた録音系の魔道具の使い道を尋ねた時に『愛する夫のためですから』ととても良い笑みで返されたのでそう思っただけだ。


まあ、何があってもそこは揺らぐわけないよね。


「なんというか、不思議な感じだよな」

「ですね。我が事ながらかなり不思議です」


ついこの前、子供を宿したと分かってから気がつければ我々男でも分かるくらいにお腹が膨らんでいたという感覚。


まあ、俺なんかよりも一番そばに居たトールの方が感じてるだろうけど。


「お父さんになる覚悟決まってきた?」

「実感と同時に少しは」

「なら良し」


まだ父親になってない俺が分かることではないのかもしれないけど、この様子ならトールは心配無用かな。


「子供の名前で揉めたりしてない?」

「揉める揉めない以前に候補が多すぎて……それに、男か女かも分かりませんし」

「そういや、男女の確認断ったんだってね」


専門の魔法だけど、産まれてくる子供の性別を調べる魔法が存在する。


王族や貴族は早めに産まれてくる子供の性別を知りたいという者が多いのでかなり需要があるらしいけど、トールはそれを断っていた。


「健康無事に産まれてきてくれるなら、それでいいんです。それに顔を見た時に知った方がより愛せると思うんです」


まあ、気持ちは分からなくもない。


貴族家の当主としては、跡取りを望むべきなのだろうけど、俺個人の考えとしては無事に産まれてきてくれるならそれでいいと考えてるし。


男の子だろうと女の子だろうと、大切な人との大切な我が子なら絶対愛せるだろうしね。


「せっかくお話を持ってきて下さった、シュゲルト様とジーク様には申し訳ないですが」

「気にしてないと思うよ」


二人としても一応聞いてきたような感じだろうし。


「まあ、どうしても知りたかったら俺が調べてもいいし」


秘伝の魔法らしいけど、簡単な情報である程度の目処は立ったので使おうと思えば使えるだろうしね。


「相変わらず殿下は魔法の化け物ですね」

「努力家と言いなさい」


まあ、俺自身はこの魔法を婚約者には使わないだろうけどね。


変に知らせて余計な心の乱れを引き起こさないとも言えないし、それに俺自身もどうせなら直接この目で我が子を見た時に知りたいしね。


……あまり似てないと思ってたけど、こういう所はトールと俺は近い感性なのだろうか?


嬉しくはないけど、仕方ない。


仕方ないったら仕方ない。


「顔に出てますよ」

「そっちこそ」


まあ、あれだ。


善性が近いと思うことにしよう。


「……殿下。僕は許されますかね?」


ふと、そんな事を聞いてくるトール。


父親のことか、はたまた自分に家族が出来ることが許されていいのかと思ってるんだか。


どちらにせよ言うことは同じだ。


「俺の騎士様だろ?なら、きちんと大切な人は守らないとな」


許す許さないなんて関係ない。


ただ、俺の騎士を名乗るなら大切な人の1人や2人は余裕で幸せにしてくれないと困る。


「どうしても許しが欲しいなら俺が許そう。他の誰が……例え本人でなくとも俺だけは許す。無茶苦茶だろうとね」


だから、ちゃんと前を向け。


そう言うとトールは軽く目を見開いてから、くすりと笑みを浮かべて言った。


「横暴な主ですね」

「それが俺だしね」

「なら、そうします。後悔しないでくださいよ?」

「誰に言ってるんだか」


こっちとら、前世の後悔からきちんと学んで今世はエンジョイしてるんだよ。


だから今世は絶対後悔なんてしない。


「ですね。それよりも生まれてきた子供が女の子で殿下に惚れないように気をつけないと」

「安心しろ、トールの子が惚れるような魅力俺にはないから」

「いえ、だから心配なんですよ」


なんでやねん。


「男の子なら殿下のお子を守れる騎士にしたいですね」

「その辺はきちんと家族で話し合って決めるように」

「分かってますよ。無理強いはしません。でも、僕とクレアの子供なら恐らくその道を選びますよ」

「そうか?」

「ええ、だって僕たちの子供ですからね」


嫌に説得力のある言葉だなぁ。


まあ、確かにトールとクレアの組み合わせだしそうなりそうだけど、突然変異でアイリスみたいな穏やかな子が生まれる可能性もあるから気をつけるように。


何にしても、少しだけ前を向けた様子のトールが意気揚々と訓練のために部屋を出ていくのを見送ってから俺も少し頑張る。


婚約者のために、どうしても作りたいものがあるからね。


まあ、正確には俺のワガママだけど、それはそれ。


決して、やる気満々なトールに当てられた訳ではないのでそこは間違えないように。


うん、全然そういうのではないしね。


元からやる気満々だったのが、少しだけプラス補正が乗っかった感じだけなので間違えないようにね。

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