第276話 夜戦仲間

レオニダスは頑張った。


頑張ったけど、情熱的な領主の娘さんの愛はそれ以上だった。


領主の娘さん……名前はベロニカというらしい。


ベロニカは家族に事情を話して、家を出てレオニダスを追ってここまでやってきた。


家を捨てる覚悟まで見せられて、何だかんだと優しいレオニダスがそれを拒める訳もなく、あっという間にそういう仲になった。


凄いよね、覚悟が違う。


分かってはいたけど、クレアと似たようなタイプだった。


まあ、あっちとは微妙に方向性も違う気もするけど、全ての退路を経った上で心からレオニダスに気持ちを告げるその姿はかなりカッコよく見えた。


俺と一緒にそれを見ていた婚約者たちも思わず感嘆の声をあげてたほど。


ベロニカは屋敷に住むことになり、部屋もレオニダスの隣にした。


まあ、レオニダスの部屋にずっと居るみたいだから必要なさそうだけど……一応ね。


「エルダート様、あの薬スゲェ効くのな」

「でしょ?トールが愛用してるからね」

「したくてしてる訳じゃないですよ」


何の薬かといえば、当然夜のお薬。


滋養強壮は大切だからね。


まあ、正確には妻を満足させる夫としての役目のために二人には必須なのだろうけど、俺も成人したらそうなるのだろうか?


婚約者達がクレア達のようになるのは想像できないけど、お世話になるようなら頼みます。


「しかし、あの薬手作りか?俺の時もなんか自作したみたいな事言ってたが、エルダート様は薬のプロなのか?」

「アドバイザーが良いからね」


植物の精霊のリーファと火の精霊のフレア。


二人の知識と力にはお世話になりっぱなしだ。


俺も少しでも返せるように頑張ろう。


「なんというか、スゲェ人だとは思ってたけど、多分俺の想像の数十倍スゲェ人なんだろうな、エルダート様は」

「殿下ですからね」


どういう意味だねトールくんや。


そういえば、レオニダスからの俺への呼び方が少し変わった。


王子様から、エルダート様。


名前呼びになったってことは少しは信じて貰えるようになったのだろうか?


まあ、良い事だよね。


「トールも凄いよな。奥さん多くて、仕事できて、しかも強い。毎晩嫁さんたちの相手してるのに仕事に問題なさそうだしスゲェよ」

「最初は少し大変かもしれませんが、そのうちペース配分も分かってきますからね」


……ペース配分?


いや、聞くのはよそう。予想はつくし。


「そんなもんか」

「そんなものです」


共に情熱的な愛情を向けられてる者同士、仲良くなるのは早かったようで、すっかりと打ち解けてる二人。


コミュ力の差もありそうだけど、俺には真似出来ないなぁ。


「ところでだ、エルダート様。一つ聞きたいんだが」

「ん?なにかね?」

「実は神様だった……みたいなとんでもないネタ隠してないよな?」


……どこからそんな発想になるのやら、分からない言葉がレオニダスから飛び出してくる。


「生憎と純正の人間だよ」


まあ、転生してるのは目を瞑ってもらうけど。


「そうか、そうだよな。ならいいんだ」

「どうしてそんなとんちんかんなことを?」

「いやな、屋敷の中にエルダート様を神様扱いしてる奴らが居てな。あまりの求心力にそうじゃないかと思っただけだ」


……ダルテシアの旧スラム街から雇った人達かぁ。


なるほど、納得した。


「彼らにとっては殿下は神様のようなものですからね」

「訳ありか?」

「敢えて言うなら……僕や君のように殿下に救われた人達でしょうか」

「あー、だからか。まあ、確かにそれなら分からなくもないな」


何故か納得されてしまう。


神様扱いは大袈裟過ぎると思うんよ。


まあ、彼らもそのうち現実を見てくれるだろう。


「いえ、恐らく末代まで信仰は続くと思いますよ」

「恐ろしいことを言わないように」


……ないよね?


「俺も神様扱いした方がいいか?」

「止めて。お願いだからそれは止めてくれ」


冗談でもそういう扱いは居心地悪いからね。


「では、僕も」

「そんな事したら、トールの部屋のトールが若いメイドさんに目移りしてたって嫁さんたちに告げ口してやる」

「いや、流石に事実無根じゃないですか」


それでも俺からの情報なら信じかねないと思ったのか若干苦笑気味なトール。


何気にトールの嫁さんたちにはトール関係で協力してるからね。


信頼というのは大切ということだ。


「本当、エルダート様とトールは仲良いよな」

「そう?」

「ああ、なんつーか親友って感じだ」


……うん、そう思うのならそれでいいんじゃないかな。


「俺とトールは夜戦仲間ってところか」

「……なるほど、でも戦場は違いますよね?」

「軍隊だと考えたらどうだ?場所は違っても大元が一緒ってことで。エルダート軍団のトールファミリーとレオニダスファミリーってところでどうだ?」


ファミリーという言葉に少し嬉しそうな様子のレオニダス。


何だかんだと、ベロニカは良い方向にレオニダスに影響を与えてくれてるようで良かったよ。


ただ、このペースだとレオニダスも早々に子持ちになりそうだが……まあ、父親の先輩が増えたと思うことにしよう。


この二人を先輩とは呼びたくないけど、それはそれ。


それにしても、夜戦仲間とは上手いなぁ。


夜大変な夫同士頑張ってくれたまえ。


最もトールの場合は更に増えそうだからもっと大変だろうけど。


レオニダスは不思議とベロニカ一人で終わりそうに思えるのは俺だけだろうか?


何にしてもお幸せに。

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