第275話 狼は馴染む
狼男のあれこれから数日後。
レオニダスは結果として俺の屋敷に住み込みで働くことになった。
トールやバルバンのようなポジションに近いけど、純粋な護衛と言うのが正しいだろうか?
トールは騎士、バルバンはボディーガード、レオニダスはそのどちらとも少し違うので護衛が多分一番近いはず。
まあ、呼び方なんて些細なもの。
レオニダスは既に日常に溶け込んでいた。
コミュ力は元々高かったのだろうが、如何せん狼男の話や満月の夜に理性をなくすことから、人と長らく接してなかったので、誰と話す時もそれなりに楽しそうだ。
ただ、女性には自分から近づかない。
苦手というのは本当らしい。
「多分、俺の中でマグリットの婆さんくらいしか女を知らないからかもな」
若くて可愛い娘だろうと、マグリットさんの影響は色濃いようで本質的に女性を苦手に感じてしまうのではないかと本人は分析していた。
中々男前な容姿な上に実力もかなりあるので、人気自体はあるのだが、本人が女性を近づけないので仕方ない。
まあ、今だけだよ。
ここに来た以上、あの情熱的な領主の娘さんから逃れられるとは思えないし、今だけの自由を謳歌するといい。
……少し悪役っぽいか?
うん、あれだ。俺は恋のキューピットなので仕方ないということで。
無理強いはしないし、本人の意思は尊重するけど、逃れられない愛は存在するとも思うんだよね。
特にトールを見てるとそう思う。
まあ、トールの場合は自業自得というかイケメンムーブする相手が自分の好みのタイプというパターンが多いので仕方ないとも思うけど、それはそれ。
あの天然タラシは仕方ないにしろ、家族を持つことはきっとレオニダスには良い事だと思うんだよね。
マグリットさんが亡くなってから、愛に飢えてるだろうし、愛する人と結ばれて家庭を持つことはきっとレオニダスの孤独を埋めてくれるだろう。
友人として俺も応援させて貰おう。
「王子様、本当にありがとう」
「気にしなくていいよ。約束してたし」
「だが、王子様が居なければ謝ることも出来なかった」
何の話か。
屋敷に来る前に、身だしなみを整えて、昔襲ってしまった村に俺と一緒に謝りに行ったのだ。
それなりの年月が経ってるけど、覚えてる人は覚えてるもので敵意もそれなりにはあったけど、逃げずに真摯に向かい合ったのが結果として良かったのだろう。
和解となった。
「まさかマグリットの婆さんにまた助けられるとはな……」
「凄い人だったんだね」
レオニダスの育ての親のマグリットさんはその村でもそこそこ影響力があったらしい。
事情を知らなくても、何となく察してた人達が取り持ってくれたのもあって、かなり穏便に済んだとも言える。
あとは、シンフォニアの第2王子の俺の存在も多少プラスに働いたのだろうが、微々たるものだろう。
きちんとレオニダスが過去に向かい合ったからこその結果だしね。
俺にはきっと出来ないなぁ。
「飯が美味くて、風呂にも入れて、寝床もふわふわ。借金もあるのにこんな待遇大丈夫なのか?」
「住み込みなら普通でしょ。それよりも借金はやっぱり気になるから無しにしない?」
村へのお詫びというか、損害の補填のために俺がレオニダスの代わりに支払ったのだが、レオニダスは律儀にもそれを返したいと言うのだ。
俺としては微々たる額だし、迷惑料も含めて気にしなくていいと言ったのだけど、レオニダスはそれを良しとはしなかった。
「ダメだ。一緒に謝って貰っただけでも甘えすぎだからな。部下じゃなく、対等な友人としての立場のために甘んじて受け取ってくれ」
まあ、レオニダスの給料から引くのは俺の方なんだが……本人がそっちが良いというので仕方ないか。
「それに俺の方が先に救われてるからな。ここで借金が無くなると益々遠くなる」
「何が?」
「王子様の友達としての俺のプライド……かな?」
男のプライドとはかくも難しいものだなぁ。
「ところでだ。騎士さんが大変そうなのはいつもの事なのか?」
「いつもの事だよ」
「そうなのか。家庭を持つってのは大変なんだな」
狼男……レオニダスの件で何日か開けたので、嫁たちがトールを求めて今は大変なのでスルーしてあげるのが優しさというもの。
奴もこうなると知ってて誘ってきたので、甘んじて受け入れてるけど……にしても今のペースだと本当にそろそろケイトかピッケが授かっても驚かない自信が出てきた。
元からだけど。
クレアも体調は安定してるようだし、トールへの愛情もお腹の子への愛情も益々強まってるようなので相変わらずと言えるだろう。
子供溺愛しそうだよね。
俺もそうなりそうだけど、トールの方が子供を甘やかしそうな気がする。
初めての子供は特にそうなりやすいらしいし、俺も立派な父親を目指したいところ。
父親だけでなく、夫もだね。
理想は沢山身近に居るし、目標目指して前向きに頑張っていこう。
だからレオニダスよ。
情熱的な領主の娘さんが屋敷に着いたのを察知して逃げ出そうとしないように。
頑張って話し合って。
悪い方には行かないと思うからさ。
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