第273話 狼は甘口

狩り勝負は判定としては難しかったけど、ギリギリでトールの勝ちとなった。


山になれてるレオニダスだけど、トールもまた狩りの腕前はかなりのものだし、互角に渡り合えるとは思っていたけど、さらっと勝ったのはトールらしいかも。


かなりの量の獲物が届けられたけど、一人でも作業は問題なし。


消費も……この二人なら問題ないかな。


レオニダスも恐らくかなり食べる方だろうし、残ったら空間魔法で取り置きということで。


その後に行われた直接対決は……語らないでおく。


ボロボロになって帰ってきたレオニダスとかすり傷ひとつないトールという当然の結果だったしね。


「うんめー!これすげぇ、うめぇよ!」


夕食には色々と作ってはみたけど、肉料理は競うように消えていく。


というか、レオニダスが凄く感動したように食べてる様子を見て、本当にマグリットさんが居なくなってから料理と呼べる料理に触れてこなかったのだろうと少ししんみりする。


たーんとお食べ。


「王子様マジで料理の天才なんだな!これ美味すぎるって!」

「そう?俺より料理上手な人なんて人里に降りれば沢山いるよ」

「そうなのか?」

「いえ、沢山はいませんよ。それに独創性においては殿下に敵う料理人は居ないかと」


俺は料理人ではないけどね。


「くぅー!こんなの知ったら焼いただけの肉じゃ物足りなくなっちまう!」

「分かりますよ。殿下は胃袋を掴むのが上手いですから」

「王子様が王女様だったら、年の差越えてガチで惚れてたかもしれないな。まあ、その前に身分差もあるが」

「止めて。マジで止めて。殺されるから」


この場所を突き止めたとは思わないけど、こんな事あの情熱的な領主の娘さんに聞かれたら……うん、確実に俺の命はないね。


「トール、今のは聞かなかったことにするように。レオニダスも今の言葉は忘れるように」

「そんなガチにならなくても……」

「あの領主の娘さんに聞かれた時の最悪を想像するように」

「……街の中心で生首か、殿下の全身を切り分けてシンフォニアに送られてきそうですね」


惨殺方法まで想像することないけど、有り得そうで怖いところ。


「いやいや、今の一言でそんなことになるか?確かに少し暴走しそうなお嬢様だったが……」

「甘いよ、甘すぎる。女性の怖さを分かってないみたいだ」

「ですね。特に想いが強い女性というのはかなりアグレッシブなんですよ」


経験談が重すぎる。


まあ、あのクレアからの愛情を成人まで受けてその後結婚して更に嫁を増やしてる男だ。


説得力が違う。


「きっと、レオニダスもこのままここに居たらいつか突き止められて押しかけられて最終的に既成事実を作らされて結婚すると思うよ」

「……俺はそういうのは向いてないと思うんだがなぁ」

「僕もそうですよ。でも好きになるのは一瞬ですから」

「そんなもんか」

「そんなものです」


確かに好きになるきっかけなんて本当に些細なものが多いしなぁ。


俺もアイリスのこと気がついたら好きになってたし、レイナもセリィもアイーシャもそうだった。


不思議なものだけど、恋愛ってそういうものなのかもしれない。


「うお!辛っ!」


少し空気が変わってきたところで、カレーを口にしたレオニダスが悲鳴をあげる。


「ダメだった?」

「めちゃくちゃ辛いな。こっちの甘いのは美味いが」


辛口、中辛、甘口と三種類用意していたけど、甘口がお気に召したようだ。


「じゃあ、そっちのはレオニダスが全部食べちゃってよ。残ってる辛口と中辛はトールが食べるから」

「スパイシーチキンは大丈夫なのに、カレーの辛口はダメなんですね」


それは俺も思った。


何か違いでもあるのだろうか?


「肉だと少し辛くても大丈夫なんだが、これは辛くない方が美味い」


なるほど、そんなものか。


「チーズだっけ?これもよくあうな」

「カレーとチーズは親和性が高いからね」


他にも福神漬けとかサブとの親和性も高いのがカレーの良いところの一つかもしれない。


「というか、明らかに俺たちが狩ってきたやつより、王子様の持ち出しの方が多そうだが大丈夫なのか?」

「気にしなくていいよ。食料のストックは沢山あるし、それにどうせなら更に美味しいもの食べたいしね」


バーベキューでも良かったけど、マグリットさん以来の手料理だろうし、人里の味を思い出してもらう一環もある。


人里の味……不穏な言方のような気もするけど、人の料理の味と呼称するするべきか?


まあ、一緒だな。気にしない。


「ほら、モタモタしてるとトールが全部平らげちゃうよ」

「そりゃまずいな。こんな美味いメシは久しぶりだし取られる前にたらふく食わせてもらうぞ!」

「うんうん、どうぞどうぞ」


しかし二人合わせるとかなりハイペースで平らげてくなぁ。


これはもう何度か作る必要もあるかもしれない。


しかし、美味しそうに食べる二人に不満はないけど、やっぱり婚約者に作る方がもっとよく出来る気がするのは気のせいだろうか?


愛情補正と愛情というスパイスの違いかな。


なんにしても恋しいし、帰ったら沢山イチャイチャしよう。

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