第272話 交友の深め方

「はぁ……参った。降参だ」


しばらく粘っていたが、レオニダスはそう言って両手を上げて参ったをする。


「男にこんなに情熱的に口説かれたの初めてだよ」

「女の子は既に居るもんね」

「……知ってるのか。まさかあのお嬢様グルだったりするか?」


少しソワソワして周囲を警戒するレオニダス。


あのお嬢様=レオニダスが前に助けて熱狂的に慕ってくる領主の娘さんのことだろう。


全く関係ないと言えば嘘になるけど、グルではないかな。


「それよりも、ここまで渋ったのはお婆さんの教育の玉藻かな?」

「まあな。『立場の違う友達は極力作るな』ってのがマグリット婆さんの言でな。昔の馬鹿な俺が力の加減を間違えて村の子供とかに怪我させないようにって意味もあったんだろうな」


「とはいえ、別に友達が欲しいとか思わなかったがな」と肩をすくめるレオニダス。


強いなぁ、俺は普通に友達欲しかったけど、レオニダスの場合は一人でも問題ないだろう。


とはいえ、居ないよりは居た方が楽しいのも事実。


「っていうか、さっきの言葉本当なのか?」

「さっきの?」

「満月の夜に理性をなくすことだよ。何とかなるのか?」

「うん、まあね」


直で会ってみて、問題ないというリーファからのお墨付きも出てるし、薬もさっきレオニダスが木の実を取りに出た後で調節して作ったので問題なし。


「まあ、レオニダスならあと数十年あれば満月の夜でも力をコントロール出来るようにはなるだろうけどね」

「そんな事まで分かるのか?」

「アドバイザーが良いからね」


しかも二人も心強い味方が俺の中に居てくれる。


いつも本当にありがとう。


『いえいえ』

『もっと頼ってオッケーだよー!』


本当に頼もしいなぁ。


「ほい、これが薬」

「これで本当に抑えられるのか?」

「絶対大丈夫とお墨付きをあげるけど、もしダメでも今日はトールが居るからのしてくれるよ」

「その騎士さんが化け物なのは分かるが……理性のない俺もそこそこ厄介だぞ?」

「大丈夫、大丈夫」


動きを見た限りでは確かにヤバそうだけど、トールが倒せないレベルではないと思う。


満月の夜は恐らく身体能力に大幅なブーストがかかるだろうけど、それを差し引いてもトールは問題なしと判断してるようだ。


俺もそうだろうと思うし、リーファやフレア達もそう結論してるので問題ないだろう。


「……なるほど、信頼ってやつか。大したものだ」


……信頼?まあ、信頼というか信じない理由がないというか……うーん、まあ、いいか。


「正直、確かにその通りだとは思う。満月の夜の俺でもその騎士さんの足元にも及ばないだろう。ただ、負けっぱなしは少し癪だな」

「まだ勝負すらしてませんよ」

「さっき、俺の奇襲を軽くいなしたろ。あれは俺の敗北だ。だからこそ、少しは勝たせて貰いたいところだな」

「奇遇ですね。僕も少し体を動かしたいと思っていた所です」


……奇遇どころか、話を持ってきた段階からやる気満々だったよね?


まあ、いいけど。


「王子様、悪いが先にこの騎士さんと少し暴れさせてくれ。ついでに夕飯も狩ってくるから。この分だと今日は夜まで居るつもりなんだろ?」


やる気満々なご様子ながらも、夕飯の食材調達をしてくると言ってくれるレオニダス。


「じゃあ、夕飯は俺が作るから材料だけ早めに二人で狩ってきてよ」

「そういや料理できるんだっけか。任せてもいいのか?」

「うん、押しかけたのはこっちだし、それに俺の方が料理が多少できるだろうしね」

「なら引き受けた。騎士さん、どっちが大物を狩れるか勝負といこうか」

「望む所です。その後で実践といきましょうか」

「おう!」


……ギラギラしてる男たち。


トールはもう少しそのギラギラを奥さんに向けても……いや、向けても無意味か。


むしろ更に愛情が深まってイチャイチャが加速するだけだしなぁ。


レオニダスもどちらかといえば、男臭いバトル展開の方が好きな気性のようだし亜人というのはそういう素質が高いのだろうか?


でも、同じ亜人でトールの妹のアイリスはそっち方面はあんまりだし、大人しくて穏やかな日々を好む俺と同じような気性だし兄妹だから、亜人だからは関係ないのかな。


「極力山を壊さないように。特にトール。山一つ吹き飛ばすレベルまではいかないように」

「やりませんよ」


うん、ナチュラルに出来るって肯定はしない方がいい気がするけど、本当に出来るのだから恐ろしい。


軽く注意をしてから、男二人を野山に解き放つ。


レオニダスと友達になりに来た俺よりも先に仲良くなってる二人だけど、バトル方面では仲良くなる気はからっきしなのでそっちはトールにお任せということで。


友達に準備付けると面倒くさいしね。


婚約者や好きな人は譲る気ないけど、それは当たり前なので仕方ない。


「さてと……キッチンは……うーん、無理か。魔法で作る方が速そうだなぁ」


どうにも、ここはレオニダスが最初にマグリットのお婆さんと暮らしていた場所ではないようで、その後で引っ越した場所なのか、キッチン周りは全滅なので魔法で補って頑張るとしよう。


とはいえ、まだ夕食までは時間があるし軽く設備だけ整えてからゆっくりと、レオニダスが集めてきた木の実とお茶を楽しみつつまったりする。


アイリス達へのお土産にもなりそうだし、良さそうなのは後で自分で取りに行くとしよう。

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