第271話 お友達になろう

「へー、てっきり騎士さんが入れたんだと思ったんだが、王子様が淹れてくれたのか。器用なんだな」

「ちょっと細かいことに向いてるだけだよ」

「いえ、ちょっとのレベルじゃないと思いますよ」

「だな、茶に詳しくなくてもこれは美味いってことはよく分かるよ」


そう言って、レオニダスは器用にお茶を飲む。


あまりこうしたお茶には慣れてないと思っていたけど、最低限マナーを分かってるようだし、その辺はやっぱり誰かから習ったのだろうというのがよく分かる。


「お茶請けの木の実はどうだ?」

「美味しいよ。ただ、時間があるならお菓子に加工したかったかな」

「料理もできるのか?大したもんだ」

「レオニダスも1人で暮らしてるなら料理くらいするでしょ?」

「んー、俺は料理はあんまり。焼くか生で食うのがほとんどかもな」


本人曰く、『生肉を食べても腹を下さないくらいには丈夫』らしいけど……亜人とは凄いなぁ。


「殿下、僕は生肉は食べませんからね」


チラッとトールを見ると分かりきってる返事をくれる。


うん、知ってる。焼肉も好きだもんな。


「マグリットの婆さんが生きてた頃はマシなもんも口にしてたんだけどな。一人だとどうもその辺が上手くいかなくてな」

「マグリット?」

「あー、俺の育ての親……って言い方が正しいか?血の繋がりは無かったが、うるさいくらいに叱ってくれた家族だよ」


そのマグリットさんはレオニダスが13歳の頃に病気で亡くなったらしい。


「俺が狼化して意識ないくらい暴れてもあっさり抑え込めるくらいにタフな婆さんだったんだが……歳には勝てなかったようでな」


ちなみに種族は人間らしい。


トールが少しうずうずしてるけど、もう居ないから戦いたいという気持ちは抑えて欲しい。


いや、人間で狼化したレオニダスを抑え込めるって時点でおかしいのだけど、まあ、世界は広いからねぇ。


「マグリットの婆さんはかなり博識だったみたいでな、色々教えてはくれたんだが……いかんせん、俺はこの通りガサツだから覚えが悪い上に、覚える気もなくてほとんど覚えてないが、まあ、生きる上で大切なことは叩きのめされながら教えられたからとりあえず問題なく過ごせてる」


狩り、食べられる野草やキノコ、果物なんかの自然の知識なんかは特に念入りに教わったらしい。


レオニダスを人里に出すのは諦めたのかもしれないけど、本人の気質的にはそれが正解だし本人も興味無さそうだからこれが正解なのだろう。


教育とは難しいものだ。


「んで?王子様は何か俺に用事でもあったのか?」

「まあね。狼男の話を聞いたからお友達になりに来たんだよ」


そう答えるとレオニダスは少し驚いたような表情を浮かべてから、楽しげにくつくつと笑った。


「ははは、なんだよそれ。ホント面白いやつだな」

「そう?」

「狼男の話ってあれだろ?満月の夜に人里を襲うってやつ。それ聞いてやって来て、ここまでたどり着いただけでも凄いのにそんな理由で来たなんて益々すげぇよ」


何かお気に召したのか楽しそうに笑うレオニダス。


そんなに変なこと言っただろうか?


「せっかく来てもらったんだし、友達くらいなってやりたいが……生憎と俺は狼男なんでね。しかも群れからはぐれた野良だから、育ちの良い王子様とは住む世界が違うし友達にはなれねぇだろうぜ」


笑い終わると、少し真面目な表情でそんな事を言うレオニダス。


おかしな奴だ。


「なるって決めて、なれるって確信したから俺はこの場に居るんだよ」


直に話して益々そう思った。


だからこそ、俺は真っ直ぐにレオニダスの目を見て言った。


「住む世界云々は置いておいて、レオニダスの素直な気持ちを話してみ」


俺の言葉にレオニダスはかなり驚いたような顔をして、向けられる瞳に困惑の色を浮かべる。


「……なんでそこまで拘ってくれるんだ?」

「おかしく思う?」

「まあな。正直な話、王子様が俺の毛皮や素材目当てで近づいてきたっていう方がしっくりくるくらいだ」

「残念なことに外側には興味なくてね。レオニダスとなら楽しく話せると思ったから、友達になりに来ただけ」


本当にただそれだけだと真っ直ぐ目を見て言うと、レオニダスは少し困ったように……でも若干の嬉しさを隠すように言った。


「他の亜人とは違って、俺は狼男だ。満月の夜に理性をなくてして誰彼構わず襲うこともある」

「その程度どうにでもなるよ」

「……本当に襲うんだぞ?王子様を殺すかもしれないし」

「うんうん、やれるならやってみるといいよ。ただしうちの騎士を突破出来ればの話だけど」


引き下がる気のない俺の言葉に、トールに視線を向けるレオニダスだが、トールからは『諦めてください。殿下は変な所で頑固なので』という返事で終わる。


頑固とはなんだ、頑固とは。


トールよりは柔軟なはずだよ……多分。


『いえ、こういう時の殿下ほど厄介なものはありませんから』


そう以心伝心されるけど、スルー。


あくまで友達になろうとお願いしてるだけで、命令じゃないしレオニダスも本気で嫌がってはいないから問題ないだろう。


女の子相手だと厄介なナンパとかに思えなくもないけど、同性だしこちらには微塵も悪意は無いので悪しからず。


というか、普通に友達になると頷くか無理と答えてくれるだけで済む話なんだけどなぁ……会話とは難しいものだ。

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