第269話 座ってそうな覚悟
翌日、トールを連れて件の狼男の居るとされる近くの村に行ってみる。
そこはギリギリ村と呼べそうだけど、街と呼んでも違和感がないくらいには人も多いし街も富んでそうだった。
トールから聞いた以上の話は聞けそうにはなかったし、狼男の居場所の情報も誰一人としてしっかりと掴めては居ない様子なのでスルーしても良かったけど、その狼男にお熱な領主の娘さんには少し興味があったので会ってきてみた。
話通りかなり熱烈な想いを拗らせてそうだけど、領主本人に妨害されてるにしてはかなり良い情報も持っていたので助かった。
その情報の見返りはまあ当然必要だったけど、それも俺には特にデメリットもないし、手助けはするけど、本人の気持ち次第という答えにしたので特に問題は無いだろう。
「こっちだな」
そして現在、俺は村から少し離れた森の中を感知魔法を使って進んでいた。
「殿下は相変わらず口がお上手ですね」
「人聞きの悪いことを言うなよ。騙してなんかなかったろ?」
「ですけど、狼男がどんな相手か分からないうちから口説く自信があるのは凄いと思いますよ」
「口説く気はないってば。ただ、友達になれそうならなろうって言うだけ」
それにトールや狼男に好意を寄せてる領主の娘の様子から狼男本人にもそこまで不安はない。
気になるのは満月の時に理性を亡くして人を襲うというものだけど、そちらの対策もいくつか用意はしてきた。
『特殊な状態みたいですし、会ってみないとこれ以上の対策は難しいでしょうね』
いやいや、十分すぎるよ。
本当にありがとう、リーファ。
「なるほど、匂いである程度最適な進路を作ってたんですね。前の時は分かりませんでした」
「急いでなかったら気づいてただろ?」
というか、何の強化もなしで人には気づけないレベルのほんのわずかな狼男の痕跡である匂いに気づけてる時点でヤバすぎる訳だし。
「初めての場所だったので、他の匂いも混じっててそんなにすぐには分からなかったと思いますよ」
「そういう事にしておこう」
「殿下みたいに魔法で一発で見つけるなんて普通の人間には出来ない芸当なんですから、素直に納得してくださいよ」
魔法を物理で超越するのがトールだしなぁ。
「それにしてもあの領主の娘さん、思ったよりも肝も座ってるみたいだったよな」
「ええ……女性は恐ろしいですね……」
トールの話だけでは見えなかった部分だけど、実際に話してみて分かったことの1つかもしれない。
どんな形でも狼男と添い遂げるという覚悟と気概が思ってたよりもかなり重めなご様子。
予想はしてたけど大したものだ。
「トールも無理して死ぬなよ。確実に嫁たちは後追いするから」
「その時は絶対止めてくださいね」
「そうならないように寿命を全うしてくれ。下手したら生まれ変わり先にも着いてくるかもしれないぞ」
「さ、流石にそんな事は……」
そう言ってから思い当たってしまったのか口を閉ざすトール。
「まあ、俺としてはアイリスを悲しませるような死に方だけは絶対許さないから。覚えておくように」
「……分かってますよ。それに死ぬ時は殿下のためにと決めてますから」
「俺がそれを喜ばないとしてもか?」
「殿下の騎士ですからね」
まあ、何を言っても俺の騎士というその位置においてはトールは譲らないのだろう。
それに簡単に死ぬ気もないようだし心配無用か。
「殿下こそ無茶しないでくださいよ」
「大丈夫だろ。騎士様が守ってくれるし」
「毒の入った水を分かってて飲んで、余裕なフリして楽しんで処置が間に合わないとかおかしなことしなければ守りますよ」
そんなにアホなことをするように見えるのだろうか?
水に毒を入れるなんてそんな愚かな真似する訳ないし、されたら楽しむ前に怒るのにね。
でも毒の水か……味は気になるかも。
美味しくないだろうけど、何を入れたかによっては味も変化しそうだ。
まあ、俺よりも俺の周りの婚約者や家族が飲まないように見つけたら魔法で解毒するから心配は無用だけど、俺以上の魔法使いなんて沢山いるだろうしそんな手練に騙される可能性はあるかもしれないな。
「いえ、殿下は現時点で歴史に名を残してる魔法使いだと思いますよ。それ以上は居ないかと」
心をナチュラルに読んだことはさておき、そんな自惚れは持たない性分なのでね。
それに歴史に名を残しては居ないような。
やった事も大したことないし、どちらかといえば歴史的に名を残してるのは父様や兄様達だろうしね。
「お、トール」
「ええ、猪ですね。大きめですが……進路上のようですし狩っておきますか」
また肉のストックが増えるけど、沢山食べる可愛い婚約者や騎士が居るから心配無用か。
空間魔法の亜空間じゃ、物は劣化しないし腐らないしね。
便利だけど、頼りすぎないようにも気をつけないと。
魔法が封じられるということもなくはないし。
まあ、その場合はトールがそれを破る術を瞬時に身につけそうだけど、一応ね。
そんな事を思いながら進むことしばらく。
かなり迂回をしたとはいえ、慎重に隠された道を進んでようやく俺たちは狼男の家へとたどり着くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます