第268話 狼男の噂
「狼男?」
「ええ、そう呼ばれるそうです」
一日ほど、用事で屋敷を開けたトールが帰ってくるなりそんな話をしてきた。
「亜人ってこと?それとも満月の日に理性をなくした狼になる人が実在するって話?」
「半々……でしょうか。亜人という括りにはなるのでしょうが、今の殿下の言葉の通り、普段は普通の人なのに、何故か満月の日に理性をなくした狼になって人を襲うようです」
それは何とも大変な話だ。
「被害とかあるの?」
「噂では、村一つを壊滅させたようです。ただ、かなり話に尾ひれがついてて、事実という裏付けは取れてませんが」
ふむ。
「ちなみにそれってどこの国のどの場所の話?」
「ダルテシアに隣接する国のそのまた隣の国のある村での話です」
「じゃあ、流石に管轄外かな」
俺の故郷のシンフォニアと今住んでるダルテシアでの出来事なら関与できるだろうけど、トールの話の通りなら他所の国の話だしあまり勝手には動けない。
なんちゃって王子とはいえ、立場というのもあるし、下手に動くと家族に迷惑をかけちゃうかもれないしね。
だからスルーしたいけど……
「ちなみに、その狼男って話が通じそうな感じ?」
「その村の住人の話だと普段は大人しいようです。まあ、狼男の人物像は十人十色というかあやふやなものが多かったのですが……狼男に助けられたという少年の話が一番信憑性がありそうでしたね」
なんでも、薬草を取りに山に入った時に、猪に襲われた所を狼男に助けられたという少年が居るらしい。
その少年曰く、とても優しい人で、山にもかなり詳しくて、目当ての薬草とあまり見かけない果実をお土産に村の近くまで送ってくれたとのこと。
「村人には信じてもらえなかったようですが、僕としては恐らくその少年の話が一番真実に近いかと」
「その根拠は?」
「勘です」
かなり大雑把だけど、トールの勘ならその少年の話から受ける人物像が一番近いのだろう。
「その村では満月の夜になると、夜中は絶対に外に出ないという掟があるとか。家の中にいる限り、大きな被害は少ないかららしいです」
掟ねぇ。
まあ、でも前世の現代日本と違って田舎だろうと当たり前のように街灯があったり、夜中まで仕事していて出歩いてるような人も少ないし、満月の夜中に出歩けないだけだと考えるとまだマシというべきか。
「けど、そんな中で家に籠ってたのに狼男に襲われたという人達の話がかなり胡散臭かったので少しキツめに問い詰めたら領主から金を握らされていて、狼男の悪評を広めろと指示されていたようです」
「領主から?」
「ええ、どうやら領主の娘も過去に狼男に助けられたことがあるようで、領主の娘はその時から狼男に想いを寄せているようです。それを良しと思わない領主が狼男の悪評を広めるように手を回していたようですが……肝心のその領主の娘さんはそんな悪評を気にせずに狼男の居場所を探しているようですね」
狼男は普段は村から離れた人の気配の少ない場所で静かに暮らしてるらしいけど、そこがどこかは村人達は誰も知らないらしい。
領主の娘はなんとか探し出そうとしてるようだけど、領主の妨害もあって中々上手くいってないらしいが、狼男へのその想いは凄まじかったとトールはしみじみと呟く。
……その言い方はその領主の娘に既に会ってきたな。
「具体的にはどのくらい凄かったの?」
「……他人事なのにクレアとのファーストコンタクトを思い出したくらい……でしょうか」
なるほど、とても情熱ということか。
「狼男には会えたの?」
「半日ほど粘ったんですが、僕だけだと見つけられませんでしたね」
「なるほど」
つまり、トールの野生の勘から逃げ仰せられる可能性の持ち主ということか。
面白い。
「もし暴れても勝てるよな?」
「問題なく。……ただ、それを領主の娘に見られないように魔法で隠して貰えると助かります」
見られたら八つ裂きにされかねないとのこと。
狼男よりも領主の娘の方がヤバそうだけど……まあ、まずは狼男か。
「次の満月は明日だったか。とりあえず明日の昼前には探し出すとしよう」
狼男なんて危険極まりない存在のように聞こえるけど、信じられそうな話を元に考えると話の通じそうな人のようだし、亜人なのかどうかというのも気になる。
満月の前に本人と話をつけて、満月の時に本当に理性をなくして暴走するならそれを止める術も用意しておこう。
「ちなみにその他の領主の娘がトールに言い寄ったりとかしてきたりした?」
「えっと……下の妹さん達にその……かなり情熱的に言い寄られました……」
「件の領主の娘さんには?」
「眼中にすら入ってなさそうでした」
トールの嫁が増えるかどうかはさておき、そこまで慕われる狼男というのは益々興味深い。
会えるのが楽しみだ。
トールが居るし瞬殺されることはないだろうけど、無論用心には用心を重ねることは忘れない。
あとは、派手に動いて父様たちに迷惑をかけないようにする事も無論忘れない。
変装して、魔法である程度誤魔化すのも忘れないけど、トールを目立たせないのが難しいので頑張らないと。
それをしてもなお、その狼男には興味があるし、是非とも仲良くなりたいものだ。
何故って?頼れる仲間は多いに越したことはないからね。
それと、トールのお相手が務まりそうならストレス発散に付き合って貰いたいなぁーという気持ちもある。
また嫁が増えそうだし、トールにはライバルも多いに越したことはないだろうしね。
無論、そんな事は言わずに俺の興味本位での外出という事にしたのだが……トールよ、分かってるという顔をしないように。
なんか悔しいから。
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