第267話 川と森林浴と蛇

良い感じの緩やかな流れの川。


森林浴という訳ではないけど、適度に日差しを遮ってくれる木々と優しい風が心地よい。


川に問題のないことを確認して、緩やかな流れとひやりと気持ちを落ち着けてくれる川に足をつけて、ボーっとする。


何も考えず、自然の中でリラックス。


何とも贅沢な時間だ。


無論、一人で来るのは危ないのでトールも連れてきているが、そのトールは近くをウロウロしているクマさん狩りを終えてから物足りなかったのか猪もついでに狩っていた。


生態系を壊さない程度にとは言っておくけど、予想よりも熊や猪などの大型の野性動物が多いようなので余計な心配だったかもしれない。


それにしても、分かっていたことだけどトールはかなり強くなったよなぁ。


ダルテシアに来る前なんか、熊を複数相手にするのは厳しい(多分、当時でもかなり謙遜が混じってる)とか言ってたのに、今なんて、適度に集めてから瞬殺して、更にダメージを抑えて毛皮の状態まで考えて狩るのだから恐ろしい。


熊や猪なんかの凶暴な野生の大型動物ではトールの相手が務まらないみたいだ。


だったら魔物ならどうかと考えるけど、魔物でも足りなくなりつつあるらしい。


素の身体能力だけでもねじ伏せられる上に手加減する余裕すらあるのだから魔獣でようやくギリギリ対抗できるレベルのようだ。


まあ、魔獣なんて普通に生きてる限り、早々出会うことがないレアな存在と言えるのだけど、たまにトールがお土産に魔獣の素材を持ち帰ってくるのはスルーしておく。


良い素材をありがとうと思うことにするのがベストだろう。


……なんで俺はせっかくののんびりタイムにトールの成長を考えてるのだろうか?


うん、よそう。無意味だもの。


たまには何も考えずボーっとする。


考えるにしても婚約者のことを考えたい。


なのにトールのことが過ぎるのは、サブミリナル効果的なもので、時々トールが近くの場所に熊や猪を置いていくからだろう。


空間魔法でしまえば、素材を劣化させることなく保存できるし、仕方ないのだけど……もう少し遠慮とか普通しないかな?


主がせっかく川で森林浴を楽しんでるのだから、もっとこう……いや、よそう。虚しい。


ボーっとしてても、空間魔法を無意識で使う程度なら問題ないし、出来上がってく熊や猪の山を適当に片付けつつ自然に身を任せる。


ん?


「トール」

「何でしょう?」


呼びかけると一瞬で傍に来るトール。


俺のそこそこ範囲の広い感知魔法の圏内には居なかったはずだけど、聞こえて届くのだから気にしない。


「そこそこ下の方だけど、蛇居るみたい」

「……本当ですね。魔力で阻害されてて分かりにくいですが捉えました」

「多分、例の蛇だから捕まえてきて」

「例のって……薬になるやつですか?」

「うん、それ」


その言葉で仕方ないと上着を脱ぐトール。


やる気満々……とまではいかないけど、自分の今夜の戦いのためにもお世話になるはずの素材なので覚悟を決めたのだろう。


ちなみに、その蛇は魔物で、しかもそこそこ大きく、人前には滅多に出てこないレアものな上に、夜の戦いのお薬として凄く頼りになるものなので、希少価値もかなり高いのだけど、最近トールのお薬に良さそうだとリーファからアドバイスを貰ったので集めるようになっていたりもする。


ただ、この蛇は魔力による阻害と地下深くを移動する習性から、トールですら初見では認識するのに時間がかかるので、俺が魔法で索敵するのが早いのだが、トールでも見つけられなくはないので、必要なら自力で頑張って欲しいところ。


数秒後、近くに大穴が空いたと思ったら、そこから蛇とトールが出てきたので、蛇を空間魔法の亜空間にしまって、大穴を魔法で塞ぐ。


「相変わらず、殿下は便利ですね」

「トールには負けるよ」


それと、魔法が便利なのであって俺は便利ではないから。


トール、どっちも同じでしょうという目をしないこと。


違うものだから。


それにしても、相変わらずこの蛇は大きいなぁ。


手加減してくれたのか、使える部分も多くて悪くない。


蛇はお薬にもいいけど、その鱗は魔道具の素材にもなるのし、肉もそこそこ美味しいので助かる。


「少し食べてくか」

「そうですね、味見は必要でしょう」


味見で済むといいけど。


そう思いつつ、トールのために料理を作る俺だけど、相変わらずよく食べるものだ。


熊と猪がメインだけど、狩った分の三分の一をペロリと平らげてしまうのだから凄まじい。


しかし、アイリスにある愛嬌がトールの食べ姿にないのは何故か?


男女以前に、やっぱり純真さと可愛さが決定的に足りないのだろう。


「殿下、アイリスが恋しいのは分かりましたから、妙なことは考えないでください 」


呆れたようにそう言われてしまう。


その分かってます感があれだけど、確かにそろそろ時間も時間だし帰るとしよう。


思わぬお土産もあるし、今夜はバーベキューも良いかも。


無論、トールの手柄を横取りするようなアホな真似はせずに、トールの主目的である夜のお薬は早めに作るとしよう。


クレアの妊娠から、子供欲しいオーラが隠せてない嫁に囲まれてるトールは大変おもしろ……ごほん、大変そうなのでその手助けをね。


……嘘じゃないよ?本当だよ?


感想はさておき、仕事はきちんとしないとね。

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