第265話 同じ気持ち、同じ歩幅

「ぱーぱー!いくよー!」

「おう」


ふと通りかかった裏庭で、バルバンがリーネとキャッチボールをしていた。


見た目かなり細身なのに、不思議と想像よりも速い球を投げるリーネと、そんなリーネの相手をするバルバン。


凄く親子っぽい。


ナチュラルにパパ呼びも定着したようだし、仲良しなようで心配するまでもなさそうだ。


それにしても、リーネはやっぱり普通の人間ではないよね?


亜人系列かそれに近い他種族とのハーフだと思うんだけど、今一つこれという確証を得られない。


獣人系の亜人ならその特徴がトールやアイリスのように生まれた時から出るらしいので、恐らく違うとは思うけど、かなり血が遠くなってから、身体能力だけその身に受け継がれたというパターンもあるみたいだ。


まあ、リーネが人間でも亜人でもリーネに違いはないし、いいんだけど……微妙に気になるのも事実。


悪い意味ではなく、好奇心的な意味で。


『リーファ、フレア。リーネの種族って分かる?』


頼るまでもないとは思うけど、雑談感覚で二人に尋ねてみると、答えはフレアから出てきた。


『分かるよー。モグラ系の亜人のハーフみたいだねー』


……モグラ?


『そんな種族も居るんだ』

『亜人はかなり種類が多いからねー。今はかなり減ってるみたいだけど、もう千年もしたらまた増えるだろうしねー』


気の長い話だけど、亜人の場合、時代によって一時的に数が減ろうとも完全に種族として滅ぶことはないらしい。


不滅とまではいかないらしいけど、滅びることがないというのは凄いな。


そしてサラッと出てくる精霊らしい気の長さも凄いけど、この二人の場合はきっと俺が死んでも変わることはないのだろうという安心感もある。


『モグラの亜人ってことは、土の中に潜ったりもできるの?』

『自然と本能で出来ると思いますよ。ただ、ハーフのようですしそれ以外は基本的には普通の人間よりも少し丈夫なくらいでしょうね』


そういえば、この前リーネが落とし穴を作って遊んでいた時にその穴に首をつっこんでスヤスヤと眠り込んでたという話を聞いたな。


遊び疲れたのかと思ったけど、穴の中で落ち着いたからそうなったのかも。


何にしても後でバルバンやバルバンに惚れてて、リーネも懐いててて、俺を神様扱いするメイドさんにそっと教えておこう。


多分話しても態度が変わることはないだろうけど、一応知っておくべきことだろうしね。


「エルダート様」


色々と新しい情報に感心しつつ、バルバンとリーネのキャッチボールを眺めていると、同じく通りがかったのかレイナがそばに居た。


「リーネさんはすっかり落ち着いたみたいですね」

「だね、バルバンにも懐いてるし良かったよ」

「ふふ、そうですね」


無邪気に笑うリーネと俺を見て優しい笑みを浮かべるレイナ。


慈愛に満ち満ちているその顔に思わず見惚れてしまうけど、たまにはカッコつけないと。


「子供って本当に可愛いね。自分の子なら更に可愛がっちゃいそうだけど、時には厳しい父親も頑張らないと」

「そうですね、私も楽しみです。エルダート様との子供が」


……その言い方は狡くないですか?


「きっと、エルダート様に似た元気な子になると思います」

「いや、俺としてはレイナに似た優しい子に育って欲しいかな」

「エルダート様の方がお優しいですよ」

「レイナの方だってば」


そう言ってから、くすりと笑い合う。


「まあ、その前に結婚式だね」

「ですね。その為にも私ももっとエルダート様の妻として相応しい振る舞いを身につけたいと思います」

「レイナは今でも十分よくやってくれてるよ」


むしろ頑張るのは俺の方な気がする。


しかし、レイナとしてはまだまだと考えてるようでやんわりと笑みを浮かべて決意を語る。


「アイリスさん、セリィさん、アイーシャさん……皆さんと一緒に私は私に出来ることでエルダート様のお傍に居たいのです。エルダート様に救われたからだけでなく……大好きな方の隣に居られる自分になりたいのです」


少し違うかもしれないけど、俺と同じようなことを考えてるようで、やっぱり婚約者達とはピッタリ合うのだろう。


だからこそ、無理をしないように気をつけつつもその思いに答えられる男であろう。


「レイナ、今日の用事は終わってる?」

「はい、授業の方も予定よりも早く進んでますので時間があります」

「なら、お茶にしようか。良いお茶菓子もジーク義兄様から貰ったしね」

「喜んでご一緒します。アイリスさんも多分空いてると思いますよ」

「そっか、丁度いいし誘いに行こうか」

「分かりました」


エスコートのために、レイナの車椅子を押してアイリスの元へと向かう俺たち。


自動で動く車椅子だけど、二人きりの時の特権でもあるので遠慮なく俺がレイナの車椅子を押させてもらう。


そんなやり取りでも不思議と満たされるのだけど、レイナも同じ気持ちなようでホッとする。


波長があって、一緒にいて幸せになれる。


これだけでも幸せなのに、俺の場合は心を解して癒されてるので感謝しかない。


こんな俺を選んでくれたのだ。


その期待に答えられる男でありたいし、精一杯目標目指して頑張ろう。


なお、この後美味しそうにお茶菓子とお茶を楽しむアイリスと上品にお茶を楽しむレイナの二人に存分に癒されたのは言うまでもないだろうけどあえて言っておく。


惚気だね。

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