第264話 訓練とちょっとした雑談

「じゃあ、次行くぞー」

「お願いします」


とある荒野にて。


俺はトールと一緒に精霊魔法の確認を行っていた。


確認とはいえ、精霊魔法それぞれの効果はリーファやフレアとの繋がりで把握しているので、試し打ちともしもの時のために威力の調整の練習というのがメインかもしれない。


精霊魔法は普通の魔法とは桁違いの威力や効果を持つものが多いのでもしもの時のために使えるようにしておくのも大切だろう。


まあ、一人で出来るものは一人でやるけど。


トールに任せるのはもっぱら攻撃魔法の威力の確認。


……そう、これは俺の訓練のはずなのだ。


妙に楽しげに俺の放つ精霊魔法を切り伏せるトールを見てるとどちらの訓練か分からなくなるけど。


というか、いくら俺がまだまだ未熟とはいえ地面に大穴を開けるレベルの威力の魔法を素手で叩き落とすのはやめて欲しい。


剣で切り伏せる方がまだ心にゆとりが持てそう。


「殿下、次は最大出力でやってみましょう」


うん、分かったからそんなキラキラした目をしないでくれ。


分かっていても怖いから。


『あはは!あの騎士くんやっぱり面白いねー!エルくんの精霊魔法は覚えたてにしてはかなり凄いのにねー』

『ですね。エルさんが居なかったら彼が英雄となっていた未来もあるかもしれませんね』


繋がりを介して、フレアとリーファがそんな事を言う。


まあ、そうなる未来しか見えないよね。


俺から見てもバリバリ世界を救う英雄として強敵に挑みまくる未来が見えるし。


「おーい、トールくんやー!英雄になる気はあるかいー?」


そう大声で聞くと、トールはそんな事はどうでもいいから次を早くと急かしてきた。


……いや、何も言ってないけど意思が視線からヒシヒシと伝わってくる。


どれだけ楽しんでるのやら。


『まあ、ボクは彼には協力しないかなー。死に急ぎそうだし。リーファもそうでしょ?』

『……そうですね、少し危うい気もします。光と闇の精霊辺りが好む感じの』

『あー、確かにねー』


ん?


光と闇の精霊?


『精霊って沢山居るんだよー。まあ、ボクらみたいな意志を持ってる精霊はそう多くないけど』


二人とも相当上位の精霊さんだもんね。


『えっへん!』

『ふふ、まあ少し長生きな程度ですがね』


俺の言葉に誇らしげなフレアと控えめに主張するリーファ。


それぞれの性格がよく出てるものだ。


『光と闇の精霊さんはトールのこと気に入ると思うの?』

『そうだねー、今の騎士くんは微妙かもしれないけど、エルくんの居ない英雄としての彼ならその二人が気に入るかもしれないねー』

『彼女達は少し変わってますから』

『性格が悪いの間違いじゃない?』

『彼女たちなりの優しさということにしましょう』

『リーファは甘いなぁ。ボクはあんまり仲良くないから関わる気はないけど、この様子だとあの二人もエルくんの元に来てエルくんと繋がりを作るかもよ』


光と闇の精霊かぁ……会ってみたい気もするけど、あった場合トールがガチで精霊まで見えるようになって、加護とかを授かってチート化が進むのが見えてしまうので考えてしまう。


トールが強くなるのはいい事だし、止める気もないけど、それでバトル化が進むと恐らく何かしら面倒事に俺も巻き込まれることになる。


いや、100%トールのそばに居る俺は巻き込まれて狙われるだろう。


頼もしい騎士が守ってくれるとはいえ、平和な日々を過ごせるに越したことはないし出来れば何もないことを祈ろう。


そんな事を考えながら放った特大の炎の槍はトールが手の甲で弾いてしまうので本数を増やしてみる。


隙間なく降り注ぐ炎の槍にトールは心底嬉しそうに笑みを浮かべながら、剣を一閃。


それだけで全てを撃ち落としてしまうのだから本当に大したものだ。


だからこそ、そんなトールになら遠慮なく打ち込めるので、高威力の炎の精霊魔法をこれでもかと試すけど、トールはそれらを簡単に対処して見せるのだから恐ろしい。


「今のはかなり凄かったですよ」


辺り一面が真っ白になるレベルの爆炎魔法を使った時の感想がそれだった。


使った俺ですら少し怖くなる威力だったけど、傷一つないのだからトールだからなぁ……という感想になるのも仕方ない。


何にしても、こうして精霊魔法の練習に付き合ってくれることには感謝しつつ、それはそれとして高威力の攻撃魔法は使わないことを願っておこう。


戦闘とか荒事は苦手だしね。


『そういえば、水の精霊さんはトールのこと気に入ると思う?』

『あー、多分それはないかなー』

『ですね、あの子はトールさんとは少し相性が悪いかもしれません』

『エルくんがボクたちにとって、特別すぎるのもあるけどねー。水の精霊は精霊でちょっと面倒なところあるしねー』

『あの子の恥ずかしがり屋は中々ですからね』


それを聞けて少しホッとする。


憧れで麗しの水の精霊様がトールの方を気に入ると柄にもなく嫉妬してしまうかもしれなかったし。


『ボクたちにはしないの?』

『選んでくれて嬉しいです』

『うんうん、よきにはからえー』

『もう、フレア、エルさんを困らせてはダメですからね』

『リーファだって嬉しいくせにー』

『ふふ、それは当然ですよ』

『だよねー』


和やかに話せる二人とのこの関係にも慣れてきた。


本当に二人と出会えて良かったよ。


そんな事を思いつつも負けじとトールに精霊魔法を打ち込むけど、結果として傷一つつけることも息を切らせることも出来なかったのでもう少し練度を上げたいと思うのであった。


頑張ろう。

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