第263話 カレーパン

カレーパンは冷めても美味しいけど、揚げたてが一番。


「やっぱりエル様のカレーパンが一番美味しいです」

「ははは、ありがとうアイリス」


揚げたてのカレーパンを美味しそうに平らげていくアイリスの食べっぷりはいつ見ても素敵なものだ。


美味しく食べる子が好みになったのはきっと、アイリスが原因だと思うけど悪いことではないし良いよね。


厨房で俺が何をしているのか……気分転換の料理さ。


屋敷の料理人に任せるのも良いけど、たまには自分でも作らないと腕が鈍る。


鈍るほど高い技術があるのかと聞かれると返答を濁すけど、趣味のようなものなので気にしない。


「ほい、焼きカレーパンもできたよ」

「こっちも美味しいです〜」


カレーパンの大きく分類として分けるとなれば、揚げるか焼くかの二つだと個人的には思う。


どっちも好きだけど、俺や婚約者達は揚げてる方のカレーパンの方が好きかもしれない。


サクサクとした揚げたてのカレーパンの良さ……いいよね。


「本当に美味しそうに食べてくれるよね、アイリスは」

「あ……す、すみません……すごく美味しいからつい……」

「いいんだよ、美味しく食べるアイリスは可愛いし大好きだからね」

「エル様……えへへ」


照れるアイリスも凄く可愛い。


「もう少し食べる?それともおやつのスイカでも切ろうか」

「えっと、じゃあもう少しだけ」

「揚げたのでいい?」

「お願いします」


オッケー。


慣れたもので、カレーパンを揚げるのは屋敷の料理人にも負けてない気がする(当社比)。


「レイナたちも食べるかな?」

「エル様の料理ならきっと欲しいと思います」

「マルクス兄様にも差し入れに行きたいし……もう少し多く作っておこうかな」


人のために料理するのが何だかんだと楽しい。


「お手伝いします!」


マルクス兄様に渡すとなると、フレデリカ姉様や父様、母様にジーク義兄様、レフィーア姉様に義父様にその他にも次々に渡すべき人が出てくる訳でして。


そんな俺の気持ちを察したようにお手伝いを買ってでてくれるのがアイリスの優しい所だと思う。


「ありがとう、本当にアイリスは料理上手くなったよね」

「エル様のご指導の賜物です」

「そうかな?」

「そうです!」


明るく言い切られるとそうなのかもしれないと思ってしまうけど、やっぱりアイリスは元々家庭的だったから俺よりも才能があると思うんだ。


料理の腕だけなら俺なんかをとうに越えてるだろうし。


それでも俺を立ててくれるのだから本当に良くできた婚約者だと思う。


レイナたちもそうだけど、俺なんかを選んでくれたことを後悔させない男でありたいものだ。


……というのは、少しカッコつけだな。


我儘な本心を言えば、アイリス達は誰にも渡したくない。


前世では誰にも拘らなかった俺だけど、好きな人と家族にはとことん拘りたい。


まあ、そんな自分勝手な思いはさておき、本心から惚れてるというのが一番大きいかもしれないね。


「エル様?どうかしましたか?」

「いや、少し休憩したいんだけど……アイリスをもふもふして癒されたいなぁと思ってね」

「も、もう……エル様ってば……」


もふもふ(いやらしくない意味)に頬を赤らめつつも嬉しそうにうさ耳を揺らすアイリス。


スキンシップは大切だからね。


うん、だからトールよ。


足音を立てずに入ってきて、しれっとカレーパン摘んでるんじゃないよ。


妹と婚約者のイチャイチャを邪魔しない配慮の結果がそれは少し怖い。


気配どころか存在まで薄めてつまみ食いするくらいなら普通に入ってきて欲しい。


『お気になさらず続きをどうぞ』

『普通に入ってくる選択肢はないのか?』

『可愛い妹の幸せのためですので』

『別に普通に入ってきてもアイリスは気にしないと思うぞ』

『殿下も婚約者が増えてますから、殿下とのスキンシップのためにもこのくらいは必要です』


そう無言のやり取りしてから、トールはいくつか妻たち用にカレーパンを持っていく。


「あ、お兄ちゃん。クレアさんはカレーパンよりも果物がいいかも」


まあ、当然のように俺と似たようなタイミングで気づいていたアイリスがそうトールにアドバイスをする。


義姉と仲良しなようで何より。


というか、トールの嫁が増える度に義姉が増えるのだからアイリスは姉の方が多くなりそうだなぁ。


本人的には嬉しそうだし、問題ないか。


あるとすれば、嫁を迎えるトール本人のキャパだけど、二桁を越える頃には慣れるだろうし気にしないでおくといいよ。


『怖い想像しないでくださいよ』

『なら、鋼の理性で頑張ることだ』

『殿下もお気をつけて』


大丈夫、お前さんと違って、俺はそんなにモテないから問題なし。


それに、アイリス達にモテればそれで十分だしね。


後日、甘い物の差し入れの時の方が女性陣からの反応が良かったりもしたけど、それはそれ。


女性は甘いものが好きだしね。


美味しそうにケーキを頬張るアイリスや上品に楽しむレイナとアイーシャ、そして物足りなくて俺の首筋を甘噛みするセリィの穏やかな様子だけで個人的には満足です。


丁度いい息抜きにはなったしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る