第261話 お仕事の報告

寄り道をしつつも、お仕事は無事完了したので、早々にバリトン子爵に報告すると、涙を浮かべて物凄く感謝された。


俺としては水不足で困ってる人達と、麗しの水の精霊さんの手助けになれたのならこれ以上嬉しいことはないけど、バリトン子爵が領民を心から思っているのを見ると本当に良い人なのだろうなぁと感じたりもする。


こういう人が領主なら、領民達も穏やかに暮らせそう。


そんな事を思ったけど、お礼の話はジーク義兄様にお願いします。


俺は出来ることしただけだし、ジーク義兄様からお声掛けがなければこの状況を知りえなかったからね。


あと、しれっと自分の娘との縁談話を持ち出そうとする辺り、抜け目ない人なのかもしれないとも思った。


「我が子ながら中々に器量もよく容姿も整ってまして、スタイルの方も歳の割には中々なのですがどうでしょう?」


どうでしょうも何も、お礼に娘さん渡されても困るというか……政略結婚自体は別に良いと思うけど、俺には既に4人も素敵な婚約者が居るのでバリトン子爵の娘さんは別の人に幸せにして貰うべきだと思う。


「ではせめて殿下の此度の功績はそれぞれの地で語り継がせて頂きます。この御恩を一生私達は忘れませんので」


まあ、既に俺の像が各地で出来てて、何故か俺が神様扱いされてるし今更だけど、そんなに気にしなくても……どちらかといえば、俺の方が収穫は大きかったし。


火の精霊のフレアに出会えて、水を大量に生成するという喜びを知れた。


そして麗しの水の精霊さんが俺に会いたがってるという話まで聞けたのだから、頑張った甲斐があったというもの。


「困った時はお互い様ということで、如何です?」

「……ですね、では殿下の危機には必ず私や領民達が馳せ参じます」


まあ、その前に危機的状況になったらトールが片付けそうだけど、野暮なことは言わない。


言わないけど……トールよ。


しれっと今の言葉で、心の中で自分でさえ手に余る危機的状況に少しワクワクしてなかったかね?


『そんな事ないですよ』

『嘘つけ』

『……まあ、例えそうなっても殿下は必ず僕が救いますので』

『誤魔化そうとしてない?』

『いえいえ、本心ですから』


分かるけど、騎士としてはそれで良いのだろうか?


まあ、そんなトールすら欺くようなヤバいやつが暗躍した時点で嫌な予感しかしないけど、結局は最後には何かしらの方法で助けに来るだろうし、俺の心配よりも攫われた時や俺が殺されそうになった時に、婚約者や家族に心配をかけることの方が心配だ。


無事平穏で過ごしたい所。


そうしてトールと人には分からない無言の会話をしていると、バリトン子爵は夕飯に誘ってくれた。


有難いけど、まだジーク義兄様への報告もあるし、それに夕飯は我が家で取りたいのでやんわりと遠慮すると、色々とお土産を持たせてくれた。


金品や宝石類なんかを報酬として渡されそうになるけど、なんとか収めてもらって、代わりに出てきたのは領地での特産品の数々。


あれ?このスイカは……もしかしてあのお爺さんの所の?


「ご存知でしたか。実はとある村でたまに出回る果実でして、中々に美味なのでよろしければ」


あー、そういえばあのお爺さん趣味と実益を兼ねてやってるって言ってたし、それくらいの扱いでないと俺が既に気づいていたよなぁ。


少し新鮮さは劣るけど、貴重なスイカなので遠慮なく受け取る。


俺の明日のおやつとして屋敷に帰ったら冷やすとしよう。


いや、川で冷やしてみるのもありか?


田舎の情景でよくある、冷たい川で冷やした野菜や果物を食べる光景は中々に羨ましい光景だったし、やってみる価値はある。


どこか川の綺麗な場所に別荘感覚で小屋でも作って……うんうん、いいね。


そこまですると、スイカの食べ頃を優に超えそうだけど、空間魔法の亜空間に入れれば今の状態のままで保存できるし、やる価値はある。


ただ、それをするとまた仕事が増えそうなのだが……まあ、その辺は気が向いたらにしておこう。


やる事、やりたい事が多すぎるので、もう少し俺自身が落ち着いてから。


それにしても……この木彫りの熊、中々に見事。


領地の特産品らしいけど、どこだろう?


聞くと、どうやら水不足だった場所の近くの村のようだ。


じゃあ、多分訪れてないかなぁ。


勿体ない。


鮭らしき魚を加えて振り向く姿には拘りを感じるし、この職人には会ってみたいかも。


木彫りなのに伝わってくる鮭っぽい魚も凄く気になる。


熊肉はそこまで好きじゃないけど、ダルテシアに来る時に沢山狩ったのを思い出すし今度トールとアイリスを連れて行ってみるか。


他にも、熊の毛皮なんてものも、どうやらその村の特産品らしいけど、熊の多い土地のようだし、狩りすぎない程度なら文句も出にくいはず。


きっと綺麗な川が流れてるはず。


そう思わせるほど、木彫りの熊が咥えてる鮭っぽい魚が躍動感に溢れてるし楽しみにしておこう。


屋敷を出る時に、ついでにバリトン子爵の娘さんにも会えたけど、確かに綺麗なお嬢さんだった。


素敵な人みたいだけど、俺が幸せにするよりは他の人の方が良い気もする。


ご本人も、雰囲気的には良いご縁に恵まれてそうなので、軽い挨拶だけしてジーク義兄様の屋敷まで空間魔法の転移で飛ぶ。


少し残念そうなバリトン子爵には申し訳ないけど、こればかりはご縁がないとね。


お幸せを祈っております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る