第260話 お土産にスイカ

水菓子という言葉をご存知だろうか。


前世では、果物なんかをそう呼ぶことがあるらしいけど、水のお菓子という単語だけで俺にとってはロマンの塊に思えてくる。


水菓子……水のお菓子か……。


なんだろう、この込み上げてくる幸福感……いいね、凄くいい。


水のお菓子なんてお菓子の神様に思えてくるけど、意味合いは果物なので神様と呼ぶのは悩んでしまう。


日本語難しいけど、面白い。


みずみずしい水気の多い果物なんて、素敵すぎる。


今世まではそれさえ口に出来なかったけど、転生して水を飲めるようになった今なら大丈夫。


アレルギーという呪いから解放された俺に怖いものはない。


「美味しいですね、殿下」

「だな、寄り道して正解だった」


バリトン子爵への報告も残ってるので、早く空間魔法の転移で帰ろうと思っていたのだけど、騒ぎのない場所で転移する前に耳に入ってきた話に興味を持って少しだけ寄り道をしていた。


曰く、『変わった野菜を育ててる爺さんが隣の村の僻地に居る』とのこと。


変わった野菜という文句が気になったので、わざわざ寄り道してみると、なんとスイカを育ててるお爺さんと知り合えた。


こっちではあまり見かけなかったので嬉しい発見に喜びつつ、仲良くなったお爺さんに俺とトールはスイカをご馳走になっていた。


「かっかっか!うちのスイカは絶品じゃろう!」


そう笑うのがこのスイカを作ったお爺さん。


本人曰く、八十代の現役バリバリの農家らしい。


村では変わり者として知られてるらしいけど、子供も孫もいるおじいちゃんだそうで。


残念ながら奥さんは先に旅立ったらしいけど、趣味と実益を兼ねてまだまだ農家ライフをエンジョイしてるとのこと。


凄いね。


パワフルなおじいさんだ。


「トール、塩いる?」

「いただきます」

「ほう、その食べ方を知っとは……お主、やるのぅ」

「スイカには塩と教わりましたから」

「良い師を持ってるようじゃな」


にししと笑い合う俺とおじいさん。


そんな俺たちをトールは訝しむような顔で見てからスルーすることにしたのか種を気にすることなく、スイカを食べる。


「種ごと食べるとお腹から芽が出てそのうちスイカが育つぞ」

「育つ前に消化されますからご心配なく」


……確かに、このイケメンの場合毒を食べてもあっさりと体内で中和しそうだしスイカの種くらいわけないか。


「はっはっは!真面目な騎士さんじゃのう。うちの息子や孫なんかは今の冗談で面白いリアクションするんじゃがな」


あ、やっぱり皆これ言うんだね。


少し親近感。


「にしても良い食べっぷりじゃなぁ!気に入った!どんどん食べてけ!」


俺はそこまででもないけど、トールの食べるペースを気に入ったらしいお爺さんの心遣いでお代わりが運ばれてくる。


有難いけど、俺はゆっくり味わうのでほとんどトール行きだな。


さて、塩もいいけど、俺は素材の味そのままが良いので塩はかけずにそのまま食べる。


シャクっと口に入れると溢れてくるみずみずしいスイカは本当に美味しい。


少し暑いのもあってひんやりと冷えたスイカが凄くいい。


「お爺さん、このスイカとっても美味しいから、お土産に買って帰りたいんだけど良いかな?」

「お、やっぱり金持ちの坊ちゃんじゃったか。構わんぞ」

「ありがとう」


しかし、やっぱりって俺そんなに金持ちの坊ちゃんに見えるのだろうか?


下町にいても違和感ないと自負していたのだけど。


そんな事はさておき、売ってもらえるだけスイカを売ってもらう。


現金一括で支払うと、お爺さんは驚きつつも心配そうに尋ねてきた。


「太っ腹なのは嬉しいが、この量は持ち運ぶのは難しいじゃろう。それとも何か方法があるのか?」

「うん、まあね」


目の前で空間魔法の亜空間にしまってみせると、お爺さんは驚きつつもなるほど納得したように頷く。


「近くの村の連中が神だなんだと騒いどったのはお主らじゃったか。面白い出会いもあるものじゃ」


あー、俺たちのことは一応知ってたらしい。


それにしても空間魔法にあまり驚かない人は久しぶりかもしれない。


「この魔法に見覚えでも?」


トールも気になったのかそう尋ねる。


「まあの。長生きしとると色々知れるものじゃよ。時に騎士さん。亜人のようじゃが、その様子だと家族も沢山食べるじゃろう。オマケしておくが、腹に溜まるものにも興味はないか?」

「……聞きましょう」


商売上手な人で、他にも育ててる少し変わった野菜や果物なんかも試食させてくれたけど、俺としてはやっぱりスイカが一番大きな収穫かもしれない。


アイリス達次第だけど、定期的に買いに来るか。


そんな事を思いつつ、スイカを満喫する。


あと、上品じゃないけど、スイカの種を飛ばすのにプチ憧れもあったので見られてないタイミングでやったつもりが、やっぱりイケメンにはバレてて呆れたような顔をされたけどそれはそれ。


婚約者の前ではしないし、1度やってみたかっただけなのでもう満足。


かなりの量の野菜類とスイカを入手して、お爺さんの元を離れる頃にはそこそこいい時間になってたのでそのままバリトン子爵の元へと直行することに。


遠回りしたけど、悪くない寄り道でした。

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