第259話 感じ方は人それぞれ

「トールよ、そろそろ下ろして貰えないかね?」

「そのつもりです」

「あと、この持ち方は止めるように」

「他にご希望でも?」

「荷物みたいな持ち方で」

「却下です」


そうは言ってもねぇ……。


「お姫様抱っこはダメだ。絵面的に嫌」


そう、村から出る時に拝む人達から俺を連れて消えるように空に飛んだトールだったが、その状態で人気がなくなるまで飛んでいるので現在俺はトールにお姫様抱っこのような形で抱えられていた。


連れ出して貰ってなんだけど、非常に不愉快な形で運ばれてるので今後の希望を伝えたところ、非情にも却下するイケメン。


「気持ちは分かりますが、これが一番殿下の負担が少ないのでご理解を」

「いや、これがお前の嫁さんにバレたら俺が殺されるんだけど?」

「さ、流石にそんな事は……」


そう言って口を閉ざしてしまうトール。


思い当たる節がありまくるのだろう。


相手が男だろうと、トールの嫁たちの発想力は凄く高く、トールへの愛情は限界突破してるので普通に有り得てしまう想定なのが恐ろしい。


「……仕事ということで理解を得られるかと」

「その理屈でいくと、トールが女の人と戯れるお店に行った場合も許されることになるけど本当にそう思う?」

「いや、そんな場所絶対行きませんから。殿下の命令なら仕方ないですけど」

「そんな命令するとでも?」

「殿下ですから」


悔しいけど最後の言葉には確かに説得力がある。


俺だしね。


まあ、怪しいお店の調査とかはそのうちあるかもしれないけど、そこにトールを送り込むかと言われると、トールの嫁たちにバレた時にその後の行動が怖いのでしないと思う。


「興味あるなら俺も死を覚悟して命じるよ」

「知らないものには興味がありますけど、素敵な女性には恵まれてますので」


そりゃあ、あれだけ愛されてればそうなるよね。


「それにしても、殿下は本当に精霊に好かれますね」

「ん?もしかして声も聞けるようになった感じ?」

「いえ、全く。でも精霊と思われる存在からの殿下への好意的な意思が感じられたのでまた、たらしこんだのだろうと」


人聞きの悪いことを言うやつだ。


いつ誰が誰をたらしんだというのやら。


「お目当ての水の精霊ではないようでしたね」

「麗しの方は恥ずかしがり屋らしいよ。その代理で火の精霊のフレアが来てくれたから」

「火の精霊ですか……」

「興味ある?」

「とても興味があります。火の魔法は威力も大きいですし、きっと精霊魔法となれば更に凄いはずですし」


あ、やっぱりそうなるのね。


放っておくと本当にバトル脳になってく奴だ。


「殿下、早速試す気はありますか?」

「習得したばかりの魔法を斬られる俺の気持ち……考えたことある?」

「殿下は強い方なので大丈夫でしょう」


まあね。


というか、トールみたいな規格外の常識外はある程度広く心を持たないといちいち驚いて疲れるので基礎中の基礎でもある。


「一回につき新婚旅行が一日伸びるのでどう?」

「新婚旅行は既に頂いと思いますが……」

「新しい嫁さんたちにも平等にね」


しかし、新婚旅行か……俺も早く式をあげたいものだ。


婚約者というポジションも良いけど、夫婦にも憧れがあるし、父様や母様みたいな円満な家庭を築きたいものだ。


「さて、じゃあそろそろ降ろしてもらおうか」

「そうですね、丁度良さそうな場所もありますし」

「というか、別に空で放してくれても大丈夫なんだけど?」


多少怖いけど、風の魔法ですぐに体勢を整えれば問題ないのでどちらかといえばこの場で放してくれてもいいのだが、それについてトールはNOと拒否を示す。


「万が一がありますから。安全のため着地までお待ちを」

「本音は?」

「……殿下の魔法が規格外なのは知ってますが、心臓に悪いので安全を優先して頂ければと」


……いや、俺に言わせればトールの飛び方の方が心臓に悪いのだが……空気を蹴って空をかけるって幼い頃に男の子が思い描く夢物語だよね?


もしくは超バトル漫画辺りでありそうだけど、魔法があるこの世界でそんなとんでも技を物理でやれるのだからこのイケメンは凄まじいものだ。


まあ、俺も下手して落下しないとは言いきれないので仕方ないと諦めはするけど……。


そう思っていると、ふと降りていく最中の眼下でこちらを見てテンション高そうに微笑む1人の女性の姿を見かける。


イケメンのトールの姿に興奮したのだろうか?


いや、そんな感じではなさそうな……そう、まるでいいものを見たという感じのそんな満足そうな表情。


虹とかオーロラでも見たような感じだけど、そんなものは空にはなく、あるのはイケメンにお姫様抱っこされる俺の姿のみ。


……うん、気のせいだろうとスルーする。


気にしたら負けだ。


とりあえず婚約者の前では絶対禁止というのを徹底しよう。


運んでもらっておいてなんだけど、絵面的に俺が嫌すぎるから。


される側にしても、せめて相手は好きな人であるべきだしね。


『ボクもそこに入れてくれてると嬉しいな〜』


勿論、フレアなら問題ないよ。


リーファもね。


『ふふ、ありがとうございます。エルさんならきっと素敵に育ってくれますから楽しみにしてますね』


確かに、リーファの人間の姿の背丈よりは大きくなりたいかも。


牛乳飲んで頑張ろうかな。


それよりは筋力をつけた方がいいだろうか?


難しいけど、何にしても婚約者達に釣り合うようなカッコイイ自分を目指して精進あるのみ。


頑張ろう。

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