第258話 去る時も賑やかに

「さてと、もう少しエルくんと話してたいけど、用事は済んじゃったし、この辺にしておこうかな〜。君の騎士くんも大変みたいだし」


そう言われて、視線を向けるといつの間にかこの村で俺を敬っていた女の子数人に囲まれてモテモテなご様子のトールの姿が。


男としては羨ましい光景なんだろうけど、俺があのポジションに行きたいかと聞かれたらそうでもないと答えるかもしれない。


俺の場合上手くあしらう事が出来なそうだし。


その点、このケモ耳はその辺も抜かりなく、尚且つ凄く絵になるのだからイケメンとはやはり凄まじいと思う。


にしても、意中の相手以外ならそつなく流せるトークスキルは大したものだ。


脈アリの場合この時点でトールは押されまくって困ってるだろうし、タイプの女の子は潜んでないらしい。


「華がある男の子はモテるね〜」

「フレアもああいうのがタイプ?」

「んー、彼は苦手かなー。英雄の素質があるし気質もありそうだし、それにボクら精霊って人間とは生きてる時間が違うから容姿の美醜は割とどうでもいいんだよね〜」


そういうものなのか。


「あ、でもリーファはエルくんみたいな子がタイプって言ってたような気が」


にししっと笑うフレアにリーファはくすりと笑って答えた。


「エルさんだからいいんですよ」

「違いないね」


分かり合う二人。


中々楽しそうだ。


「さてさて、じゃあボクはこの辺で行くね。リーファ、久しぶりに会えて良かったよ。繋がりの邪魔にならない程度にまた話そう」

「ええ、勿論です」

「エルくん、何かあったらどんどん頼ってよ!これでもボクはオトナのお姉さんだからね!」


見た目的にはそうは見えないけど、背伸びしてる感があって不思議と愛嬌があるのだから凄い。


「分かった、よろしく頼むよ」

「うむうむ。あ、そうそう、土の精霊がそのうちふらっとエルくんの元に行くかもだけど、その時は適当に相手してあげてね」

「土の精霊が?」

「確かに、彼女ならエルさんの元に来そうですね」


土の精霊さんが俺になんの用があるのだろうか?


まあ、来ると二人が言うのなら何かしらあるのだろうし心に留めておこう。


「なるべくエルさんに迷惑をかけないように注意はしておきましょうか」

「悪いやつじゃないんだけどねー、少し面倒くさい所あるから、そういうスイッチ入らないでおけば多分大丈夫だよ〜」


……やや、不安が出る言葉が紡がれたけど、気にしない。


本当に何かあるのならリーファやフレアが止めてくれるだろうし、最悪トールが瞬時に精霊を察知して倒す力を身につけそうだしそこにかける。


そんなバトル漫画的なパワーアップイベントそうそうないけど、トールの場合危機的な状況や必要に応じて新しく力を得るのはこれまでの経験で明らかになってるので気にしたら負けだ。


「じゃ、エルくん今後もよろしくね〜」


軽く抱きついてから、フレアは去っていった。


しかし、精霊とは凄いなぁ。


一瞬で感知魔法の外へ移動したし、魔法がなければ消えたようにしか見えないのもまた凄い。


最も、トールもフレアが去ったことに気づいたのかこちらに一瞬視線を向けてくるけど、気にした様子もなく周りに集まってくる女の子達の相手をしていた。


……まあ、危険は何も無いけどもう少し興味持っても良くない?


「エルさん、私もこの辺で」

「うん、ありがとうリーファ」

「いえいえ、では」


リーファも繋がりを介して去っていく。


去っていくという言葉で会ってるのかは微妙だけど、不思議な感覚なのでその言葉が近いとしか言いようがない。


二人が居なくなると、少し寂しい気もするけど、加護と繋がりによってより近くに二人を感じるのでそこまで寂しいという訳でもない。


『エルくん、エルくん。今度は爆炎で空を飛ぶ方法教えるねー』


……うん、フレアさんや。


去って早々言うことがそれなんですか?


まあ、興味が無いと言えば嘘になるけど、爆炎で飛ぶ方法とかめちゃくちゃ熱そうだし失敗したらかなり痛そうなので覚えるだけにしておこう。


なお、炎の精霊魔法は威力の高い攻撃系が多いけど、回復や退魔なんかもあってかなりレパートリーが広いらしい。


植物の精霊魔法とはまた別の力だけど、何にしても人に向けて打たないことを切に願おう。


トールに訓練がてら撃つかもだけど、その場合も場所を選ばないといけないし、転移でいい感じの場所を探しておくか。


そんな事を思っていると、この場所を嗅ぎつけた人達がいつの間にか山のように増えてるお供え物と共に俺を拝んでいるのを発見してしまう。


……さっきまでは静かだったに、二人が去った途端これはどうなのだろう?


いや、正確には去る少し前から若い女の子達が俺を拝んでからトールに群がって黄色い声援を送っていたのだけど、目の前のガチっぽい様子の人達に比べたら可愛いものだ。


俺は神様でも教祖様でもないんだけどなぁ……コミニュケーションがしたくてもこの状態だと通じることはないのが悲しい。


うん、スルーが吉だな。


そう思ってトールに終わったとジェスチャーすると、分かっているとばかりに女の子達を上手くあしらってから、俺の元に来て消えるように空へと飛んだ。


きっと村人達には俺たちが消えたようにしか見えないけど、神様扱いなので問題なし。


しかし、リーファにフレアと二人の精霊と知り合えて本当に幸せだなぁ。


これから更に楽しくなりそうだ。

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