第256話 フレア

火の精霊、フレアと名乗る女の子は俺と似たり寄ったりの背丈の女の子。


そして、俺はその子にベタベタと引っ付かれていた。


……何故こうなった。


「いや〜、にしてもびっくりだよ。まさかリーファが加護だけじゃなくて契約までしてたとはね〜。でも確かにボクも会ってみてその理由が良く分かったよ」

「ふふ、でしょう」


何故かリーファまで繋がりを介して前に会った人の姿になって俺にベタベタ引っ付いてるけど何でだろうか?


美人のリーファと美少女のフレアに引っ付かれてる俺は控えめに言ってもかなりモテモテなのだろうけど、残念ながらというべきか、幸いというべきか精霊の二人の姿が普通の人には見えないので俺が一人でワタワタしてる様子に映るだろう。


だからってトールよ、事情を知ってるはずなのに若干不審な顔をするんじゃありません。


俺の騎士でしょ?


「それで、ええっと……フレアさんは水の精霊さんの代わりに俺にお礼を言いに来たってことでいいのかな?」

「フレアでいいよ。エルダートくん。いや、エルくんって呼んでもいいかな?いいよね?よし、決定!」


賑やかな娘だなぁという第一印象のまま元気な様子のフレア。


明るくて気さくだし、友達にしたら楽しそうなタイプ。


火の精霊だからだろうか?


しかし、火の精霊を名乗ってはいるけど、ただの火の上位精霊とは違うような気がする。


リーファ同様に、その身から感じる精霊力がそれを物語ってるけど、特に悪意は感じないし気にしなくても大丈夫かな。


「魔力だけでも神話英雄クラスなのに、まさかボクらとの親和性もすこぶる高いなんて、きっとそのうち本物の英雄になりそうだね〜」

「いやー、それはちょっとね」

「えー、嫌なの?」

「平穏に暮らしたいし」


そう言うとフレアはキョトンとしてから、楽しげに笑った。


「いいねいいね、その方が良いよ!ボクらが見える人はみんな、覚悟決めて英雄として派手やかに死んでくから、エルくんはそのままでいなよ!そっちの方かボクとしても嬉しいし!」


褒められているのだろうか?


俺よりもトールがそのポジションに気がついたら立ってそうで恐ろしい所だけど、その辺は嫁さんたちに繋ぎ止めて貰うとしよう。


「元よりそのつもりだよ」

「ぷくく、なるほど。ド真面目なリーファが惚れ込む訳だね〜。ボクも気に入ったよ!」


心から楽しそうにそう笑うフレア。


そして俺の隣で、若干ドヤ顔気味のリーファだけど、引っ付くのをやめる気はなさそうだ。


浮気じゃないよ?リーファは精霊だし、一心同体のパートナーみたいなものだからね。


……なんか言い訳じみてるけど事実だから。


「うん、よし。じゃあボクもキミに加護を与えるね!それに契約も!」

「フレア、その事ですが……」

「分かってるって。リーファとの繋がりを邪魔したりしないって。ボクも個人回線の方がいいしね〜」


……回線?電話か何かに近いのだろうか?


深く突っ込んだら負けな気もするしスルーで。


「じゃあ、パパっと済ませるよ〜!」


その言葉とは裏腹に、そっとフレアが俺の頭に手をかざすと優しいフレアの加護の力が全身に馴染むのを感じる。


「いいねいいねー。じゃあ契約も行ってみよー!」


ええっと、確かリーファの時は手と手を合わせて……なんて思っていると、何故かギュッと抱きついてくるフレア。


その瞬間にリーファとは別のフレアとの繋がりが出来たのを感じた。


これで契約も成立なのだろう。


やり方が違うのは精霊によってのものなのだろうか?


「おー、あったか〜い!」


くすぐったそうにそう笑って俺との繋がりを確認するフレア。


前にリーファの時にも感じたけど、人の……フレアの心を直に感じる距離にいるみたいで不思議な感じなのに何故かホッとする。


「ボクの力は戦闘向きだから、バンバン使いなよ!役に立つと思うし!」

「いや、そんなに戦う気ないよ」

「そっかー、残念〜」


微塵も残念そうな感じはしないけど、本当に明るくてムードメーカー的な存在なのかもしれない。


そんな事を思いつつ、ついでに火の精霊魔法も教えて貰うけど、確かにこれは戦闘向きの力だなぁと実感する。


リーファの時も凄いと思ったけど、精霊魔法というのは本当に次元の桁が違う力だと痛感させられる。


まあ、荒事にはなるべく使うことがないように願おう。


あと、トールにあまり知られないようにしないと。


知ったら絶対一番強い精霊魔法を叩き伏せる為に闘志を燃やしそうだし、そんな面倒な展開は避けねば。


「殿下、何か?」

「いや、なんでもない」

「そうですか。時に殿下。たまには魔法を盛大に使いたいと思いませんか?」

「微塵も思わないから、ハウスだよ」


しれっと心を読むなイケメンめ。


というか、こうして契約で深く繋がったリーファやフレアよりも分かりきってるこのイケメンは本当に何なのだろう?


……まあ、俺の騎士で片付けておこう。


うん、親友だからね。


いや、確かに近すぎるし分かりすぎるけど気にしたら負け。


前向きに行こうと、じゃれてくるフレアと同じく離れず抱きついてくるリーファに囲まれて色々と考えてしまう今日この頃。


新しく俺は火の精霊のフレアの加護とフレアとの繋がりである契約を手に入れるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る