第255話 火の精霊?

「ふぅ……とりあえず一段落かな」


水を出すだけだった昨日と違って、精霊魔法で魔力を変換して精霊を癒す本日の任務も何とか一段落。


水不足の土地とその兆候のある場所も巡ってそこそこ時間を取られたけど、何とか昨日今日でほぼほぼ終わらせることが出来たので頑張ったと思う。


「お疲れ様です。昨日よりは地味目でしたけど」

「そんなに昨日派手だった?」

「ええ、何も無い空間から無限に水を出してて、控えめに言って神か何かに見えました」


だからといって、お供えとかお祈りするのは違うんと思うんだ。


そんな恐れ多い存在になった覚えないし。


「とはいえ、今日のは今日ので昨日の後だと益々効果はあったようですけどね」


トール曰く、精霊魔法というものは分からなかったが、俺が精霊魔法を使っている様子がどこか神秘的にも見えていたらしい。


こいつの場合、必要になったら精霊魔法を勘で見分けそうだけど、必要にならないことを切に願おう。


トールがマジになってそこまでし始めたら、きっと俺も最悪の事態に巻き込まれてると思うから。


平和が第一だよ。


『リーファ、どう?』

『大成功のようですよ。エルさんの精霊魔法でこの土地の下位の精霊だけでなく、大元の上位の精霊にも力が還元されたようですし、これならこの辺は問題ないと思います』


リーファからのお墨付きも出たし、とりあえずは一件落着というところかな。


「長引かなくて良かったよ」

「ですね。長く殿下が空けると大変なことが起きますからね」

「いや、俺よりもお前の嫁さんたちが暴走しそうで怖いなぁって」


護衛の騎士だからといって、連れ回しすぎると後が怖い。


「最悪俺が闇討ちされそう」

「そ、そんな事はないかと……」

「俺の目を見てそれを言えたらそうなんだろうな」


まあ、流石に命までは取られないだろうけど、心に傷を負うことになりそうな予感大だと本能が告げてる。


「アイリスやレイナ様たちが居るので多分大丈夫ですよ」

「仲良しだけど、どうかな?」


友情よりも旦那への愛をバリバリ優先するだろうから、何とも言えない。


「アイリスは大人しいですけど、怒ったらヤバいですから……」

「そうか?普通に可愛い感じだったけど」


あまり婚約者を怒らせたことはないけど、拗ねたりしてプクッと頬を膨らませた姿はかなり萌えでした。


「殿下の前では見せませんからね」


……やめてよ、その意味深な言い方。


「裏表がある訳じゃないですし、それだけ愛されてる証拠ってことですよ」

「それをお前に言われてもなぁ」

「殿下より人生経験豊富な大人の意見ですから、信じてください」


中身は俺の方が年上なんだが、まあ肉体年齢に引きずられてるのでその辺は触れない方が無難かな。


「それよりもここまで熱狂的な信者が大勢出来てしまった以上、たまに顔を見せにくるべきかもしれませんね」

「トール知ってるか?神様ってのは人前に現れないからその存在が更に神聖視されるんだぞ」

「……確かに、素の殿下を晒し続けると信者が減りますね」


俺としてはそちらの方が都合がいいけど、それだけのために定期的にバリトン子爵の領地を巡るのは避けたい。


デートで楽しそうな場所も少しはありそうだったけど、顔バレしてるし魔法で変装してこないとデートは厳しいだろう。


あと、俺の像を婚約者達に見せるのが普通に恥ずかしい。


あんな美化された像を見たら優しい婚約者達でもくすりと笑われてしまうかも。


引いたりはしないと思うけど、俺の心の安念のためにはバレるまではなるべく伏せておこう。


おっと、隠し事をする訳じゃないよ。


バレたら仕方ないくらいの精神で行くだけ。


トールが嫁たちにポロリと零してバレる確率が高そうだし、婚約者に無駄に隠し事をするのも良くないしね。


「じゃあ、帰ってジーク義兄様に報告してから一休みしようかな」


周りに人が居ないのを確かめてから、伸びをしてそう言うと、ふと何かがそこに現れる兆候を感じる。


「殿下、下がってください」


トールも感じたのだろう。


俺の前に出て油断なくそこを見る。


『おー、凄いねー。まさかこんなにボクの存在をハッキリ認識できる人間が居るなんて、何百年振りかな〜?』


少し甲高い、少女のような声。


直感でそれが精霊だと俺は分かった。


リーファのお陰だろうか?


「殿下、僕には分かりませんがもしかして精霊でしょうか?」


敵意がないのを感じたのか、トールがそう問いかけてくる。


……精霊の存在を知覚できてないはずなのに直感で分かるのが恐ろしい。


「みたいだね。お客様みたいだから大丈夫だと思うよ」


その言葉でトールは警戒を少し緩める。


そんなトールの様子を少し確認してから、その少女は楽しげに笑って言った。


『あー、そっちの彼は直感で感じてるのかな?面白いねー、でもそれ以上にキミが面白い!ボクの声まで聞こえてるみたいだし、姿をみせても大丈夫みたいだね』


その言葉と共に、目の前で炎が弾ける。


パチリと火花が弾けるように、姿を見せるのは真っ赤な短髪のボーイッシュな感じの女の子。


「やあやあ、はじめまして。ボクは火の精霊のフレアだよ〜。よろしくね」




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