第254話 仕事の成果

水不足で困ってるのはポッテ村だけではなかった。


精霊の病による影響で、水不足になっていることはリーファからの説明で分かったし、解決法も分かったのでどちらも早く終わらせる必要があるけど、俺自身の一日の限度というものもあるので、順番に片付けていく。


ひとまずは水不足で困ってる人達を潤す必要があると思い、バリトン子爵の領地を巡るツアーをその日のうちにある程度終わらせる。


規模は違えど、似たような争いがおこっているので、トールをけしかけて落ち着かせてから、暫くの必要な水を従前に補充して次の場所へと向かう繰り返し。


こんなに水魔法で水を出したのは初めてってくらいだけど、軽く中毒になりそうなくらいにこの作業には病みつき要素がある。


「はっはっは!満たせ満たせー!」

「殿下、お疲れなのは分かりますがイメージをお忘れなく」


小声で上機嫌に作業をしていると、そうトールからツッコまれる。


仕方ないじゃん、楽しいんだもん。


気分的にはヒャッハーしてるモヒカン男の気分。


なんという心地の良い全能感……しかし、ヒャッハーとモヒカンという単語には既視感があるのだが何故だろう?


そんな珍しい種族と合間見えた記憶は……あったようななかったような。


うん、どうでも良いことは忘れるに限るね。


それに、水に飢えてた人達がそれを口にした時の顔は不思議と悪くないし上機嫌になるのも仕方ない。


人助けをするような柄ではないけど、ナチュラルにそういう事を出来る人間になれれば、きっと少しは父様や兄様達に近づけるような気もするし頑張るとしよう。


本当は病にかかってる精霊も今日中に直したかったけど、流石にそれは難しいので苦渋の決断で明日に回すことに。


本当にごめんと謝り、その日は屋敷に帰って婚約者達に癒されることに。


そして翌日。


「トール、昨日来た時こんなのあったっけ?」

「いえ、一晩で仕上げたのでは」


まずはポッテ村からということで、ポッテ村に転移すると、そこには俺そっくり(かなり美化されてそう)の象が村の中心に出来上がっていた。


木製だけど、見事な造形だ。


職人の技を見たという満足感もあるのだが、題材が悪いと思うのでリテイクを希望で。


リーファの象とか良いと思うよ。


綺麗だし。


『ふふ、エルさんが作ってくれたものなら構いませんよ』


今度作るよ。


日頃からお世話になってるしね。


『期待してますね』


屋敷の池との兼ね合いもあるけど、立派な社を作るとしよう。


しかし、精霊の姿を見ることが出来る人が少ないというのは勿体ない話だ。


だからこそ見えるものを祀るのだろうが……にしても、俺を祀るのは違うと思うんだ。


お供え物やお祈りしてる人達もいるけど、祈ってもご利益はなさそうな気がするのだがどうだろうか?


「随分と手先が器用な人が居るみたいだ」

「そのようですね」

「……ところでトール。俺はこれからその職人に一人で会いに行きたいんだけどいいよね?」

「ダメです。それに無理だと思いますよ」


その言葉が引き金のように、俺の前にひれ伏す村人達。


おかしい、何故俺は昨日来たばかりの村でこんな対抗をさせてしまっているのだろうか。


「我らが神よ、水を操りし大いなる神よ。どうか我らに御身の導きを頂きたく」


……村長さんよ、口調が昨日と違いすぎません?


とはいえ、ポッテ村だけなら後でバリトン子爵に謝れば良いだろうとその時は思ったんだけど……次の村でも同じように俺の美化された象が祀られていて、同じように到着と同時に崇められるという対応を繰り返すと流石にマズイ気がしてくる。


嫌な予感がして、一応念の為に他のバリトン子爵の水不足だった領地を巡ると、約8割で似たような現象が起きていた。


なんで?水出しただけで何でこうなるの?


「あれは人間業ではありませんでしたから」


どこか満足気なトールがそう言うけど、こうなると知ってればトールを変わり身に使ったんだけどなぁ……。


「その場合は僕は気配を消してますので悪しからず」


うん、とりあえずナチュラルに心読むのは今更だから気にしないけど、その如何にも全てを見透かしてるという顔だけは止めなさい。


確かにトールを身代わりにしようとか悪しきことも考えたけど、どうせそうしてもトールに嫁が少し増える程度で影響は皆無だと思うんだ。


……いや、そんな現実逃避してる場合じゃないか。


それぞれのバリトン子爵の水不足だった場所で、一応釘を刺しつつ、バリトン子爵の元にこの事を謝りに行ったが、バリトン子爵は気にしないと笑って逆に謝罪を断られてしまう。


「領民が助けられたのなら、それが最も大切な結果ですから。こうして助けて頂いて、感謝しかありません。それに私も殿下のことを崇めたいと常々思っていましたからね」


優しい言葉にホッとするけど、最後のは冗談なのだろうと思うことにする。


そうして多少出鼻をくじかれたけど、予定通り精霊の病を治すために各地で精霊魔法を行使することにしたけど、人目に触れるとまた拝む人達が出てきそうなので出来るだけひっそりとを気をつける。


まあ、魔法を使ったカモフラージュはしてないので、気づいた人がお供え物を置いていくんだけど……この扱いはマジで止めて欲しい。


そう思いつつも、言っても無駄というのは何年もの旧スラムの住人達との付き合いで分かってるので黙って精霊を治すことに尽力する。


頑張れ、俺。

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