第253話 精霊の病
ひとまず村の水を確保してから、俺は謎に崇めてる村人たちからなんとか離れて、先程感知魔法で違和感を感じた水源へと向かってみる。
その場所は不自然に水気がなく、ただ枯れてるだけのようにしか見えないのに、ゾワゾワした感覚を抱いてしまう変な場所。
『リーファ、これって精霊に何かあった感じで当たってる?』
困った時は頼れる人に聞けばいい。
そう思って、繋がりを会してリーファに聞くと、リーファは少し悲しそうな様子で答えてくれた。
『ええ、その通りです。やっぱりエルさんは精霊と親和性が高いんですね。まさかこれ程ハッキリと感じられるとは思いませんでした』
『ここの精霊さん、結構ヤバい感じ?』
『ええ、少しだけまずいですね』
精霊はその位によって、意思があったりなかったりする。
上位の精霊は大きな力と共に意志を持ち、下位の精霊はそこに空気のようにあるだけなので、普通の人には存在さえ分からないという。
俺はリーファのお陰もあるのだろうが、精霊をかなり近くに感じられる体質らしい。
『あまり居ないのですが、英雄と呼ばれるような方だとそういう事もありますね』
なるほど、つまり俺は例外ということか。
英雄になる予定も、その素質もないし、その他に該当するイレギュラーに入るのかもしれない。
うん、そのはず。
側にいて、先程の俺の真面目モードと騎士ムーブが出来て少しご満悦なトールこそ、そこに当てはまりそうだが、トールには精霊が感じられないし見られないので不思議なものだ。
『精霊は人間とは違い、寿命はありません。怪我も病気もしませんが、例外もあります』
数は少ないけど、精霊を蝕む呪いや汚染と呼ばれる精霊の本質を汚すという現象もあるらしい。
また、力の現象による消滅もなくはないそうだ。
『あまり無いのですが、役目を終えたと判断した上位精霊が下位の精霊を取り込むこともあります』
その場合、意思のない精霊は大いなる力に取り込まれるので、その上位精霊の力として存在してると言えるらしい。
精霊独自の感覚だろうけど、そういうものなのかもしれない。
『それで?この目の前の精霊さんの様子はそれらとは違う気がするんだけど……間違ってる?』
『ええ、エルさんの感覚は正しいですよ』
精霊を蝕む呪いや汚染と呼ばれるものとは少し様子が違う気がしてリーファに問うと、その感覚は正解だとリーファは頷く。
『これは呪いや汚染ではありません。更に珍しい精霊独自の病というのが正解でしょうね』
人間とは違い、病にかかることはない精霊だけど、この現象を言葉にすると病が正しいらしい。
『上位の精霊に何かがあって、末端の精霊にその余波が来てるのでしょうね。多分そこまで大したことじゃないので、上位の精霊にはそこまで支障はなさそうですが、この地の精霊がそれらの影響を受けて、力の制御が乱れたのが水不足の原因でしょう』
なるほど、それでこれは治るの?
『ええ、治せますよ。自然に治すことも出来ますが……こちらから精霊魔法で働きかけると更に効果的かもしれません』
単純に魔力を渡すのでは精霊にはあまり意味がないようで、精霊魔法を通じて魔力を変換して渡した方が効果的らしい。
『分かった。やり方教えてくれる?』
『ええ、エルさんならすぐに使えると思いますよ』
何事もまずはやってみてから。
そう思って、リーファから新しい精霊魔法を教えて貰っているのだけど、その間俺は傍から見ると枯れてる水源で佇んでいる不審者のようだったと、トールには後で言われてしまう。
不審者は言い過ぎでは?
結構無防備になってたけど、そこは頼れる騎士様に任せてリーファとの繋がりに集中する。
リーファの言ってた通り、精霊魔法を通じて魔力を送り込むのはそんなに難しくはなかった。
問題は魔力量だが、こちらもまだまだ余裕があるので恐らく大丈夫。
ただ、バリトン子爵の領地で水不足なのはポッテ村だけではないので、この他の地でも住民の必要な生活水を水魔法で作ってから、その地の精霊に精霊魔法で魔力を送って癒すを繰り返す必要がある。
今日中に無理やり終わらせるのも不可能とは言わないけど、その場合は転移で帰るための魔力を残せないかもしれない。
困ってる人達のために多少の疲れと一泊家を空けるくらいは仕方ないのかもしれないが……休むなら我が家がいい。
かなり自分勝手と分かってる。
でもなぁ……一人で寝るのは辛いんだよなぁ……。
『エルさん、精霊の病は精霊の力が不安定になるだけで、精霊自体は苦しかったり辛くはないですよ。そもそも下位の精霊はそういう意思もないので』
悩んでいると、リーファが優しい言葉でそう言ってくれる。
仕方ないか……苦渋の決断だけど、今日はバリトン子爵の領地の水不足をひとまず解消して、精霊を治すのは明日に回すとしよう。
『ごめんね、リーファ』
『いえ、でもエルさんは本当に優しいですね』
『かなり非情な決断しちゃったけどね』
『ふふ、そういう事にしておきますね』
分かってるように微笑むリーファ。
実際、自然に治る間に力の制御が乱れて大災害が起こることもあるらしいが、今の状況なら一日くらいは大丈夫だそうだ。
ごめん、明日には必ず治すから。
そう謝ってから、意識を戻すと何故か近くにお供え物が置かれていた。
全部、俺を神扱いしはじめたポッテ村の村人の俺へのお供え物らしい。
トールや、こうなる前に止める気はなかったのかな?
じっくり話し合う必要があるのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます