第249話 バケツプリン

ここ数年で、卵の安定供給が可能になった。


ダルテシアに来る途中で卵を見つけてから、こちらに屋敷を構えて近くから輸送する手筈を整えるという手間も多少あったけど、魔法飛行船をあっという間に運行可能にした父様たちには負けると思う。


いや、むしろ数年でシンフォニアとダルテシアの交易を加速させた父様たちが凄すぎると思う。


俺のタクシーがあったとはいえ、すいすいと話が進み、それでも何一つ不備もないのだから本当に大したものだ。


次のシンフォニア国王のマルクス兄様とダルテシア国王になるシュゲルト義兄様も超有能だけど、あのレベルになるのにはやはり相応の経験は必要に思える。


まあ、兄様達ならすぐに追いつきそうだけど、それを少しでも支えられるように俺も頑張りたいものだ。


とはいえ、俺程度に出来ることなんてたかが知れてるし、とりあえずは日々の暮らしを良くしつつ、前世で出来なかったこと、やりたかった事をしながら、婚約者たちに惚れられる男になる努力をするのみ。


卵の確保も日々の暮らしを良くするカテゴリーになるのかな?


さて、難易度としてはそれ程でもないけど、それでも日常に卵が増えるだけで色々変わるものだ。


卵料理は勿論、卵を使ったお菓子も作れるようになった。


その中には当然、プリンも含まれる。


不思議と子供に好まれるお菓子だけど、俺も勿論好きだ。


透明度や水っぽさから、ゼリー派でもあるけど、それはそれとして美味しい。


ただ、沢山食べられる気はしない。


「小さくて可愛いですけど、すぐになくなってしまいますねー」


きっかけはアイリスのこの言葉。


プルプルと揺れるプリンに微笑んでから、あっという間に間食したプリンを名残惜しそうにしてるアイリスを見て、プリンといえばの定番を思い出した。


誰もが一度は夢に見そうな、大きなプリン……バケツプリンだ。


とはいえ、ただのバケツプリンでは足りないだろう。


試作したバケツプリンを近くにいたトールに与えたら、あっさりと間食したからだ。


「甘いのはいいですけど、この量は意外と大変ですね」


その割にはあっさりと間食したような気がするのだが?


まあ、いいけど。


「というか、これでもアイリスなら満足しそうですよ」

「いや、トールでペロリならアイリスには物足りないはず」

「……妹を何だと思ってるんですか?」

「最高に可愛い婚約者」

「本音は?」

「癒し系うさ耳美少女」


その答えにやれやれと呆れたような顔をしつつも、シスコンの血が疼くのか妹を褒める言葉に少し機嫌が良くなる。


愛妻家の前に、シスコンの属性もあるんだったなぁ、と思い出すけど今更だな。


「何にしても、アイリスのためにもっと大きなのを作りたいんだよ」

「それはいいですけど……レイナ様達への配慮は大丈夫ですか?」

「愚問だな。それを怠ると思うと?」

「ええ、そうでしたね。殿下のマメさを見習いたいぐらいですよ」


言うほどマメでもないけど、アイリス、レイナの癒し系コンビは元より、セリィもアイーシャもあまりわがままを言わないし、言っても俺に甘えたいくらいの可愛いものなので、色々としたくなるのだ。


食事を豊かにするのはほとんどアイリスに美味しいものをもっと知って欲しいという気持ちからくるものだし、前世から引っ張ってくる知識の大半の使い道が婚約者のためなのは仕方ないよね。


そして、バケツプリンをトールに完食されてから数日後。


屋敷の一室を改造して作った超大型バケツプリン(特注の型の容器をバケツと呼ぶかは不明だけど雰囲気で)をついに俺は婚約者達に披露していた。


「わぁ……!わぁ……!」


婚約者の中で最もリアクションが大きいのがアイリスだ。


目を輝かせて超大型バケツプリンを見ている。


「大きいですね」

「……大きい」


レイナは感心したように、セリィは目で少し楽しんでからすぐに俺の方に寄ってくる。


レイナみたいにとは言わないから、もう少し興味を持ってもいいのでは?


まあ、セリィらしいか。


「私たちでは食べきれなさそうですね……まあ、ほとんど誰か専用でしょうけど。ね、殿下」


パチリとウインクして、そんな事を言うアイーシャ。


見抜かれてるけど、アイーシャなら当たり前か。


アイーシャだけでなく、自然とこれがアイリス用に俺が頑張ったのだと見抜かれているようだ。


他のみんなにこう言ったことをする時もそうなので不思議なものだけど、女の勘というやつだろうか?


「エル様、エル様」


期待したような視線を向けてくるアイリス。


「うん、アイリスが好きに食べていいよ」


ゴーサインを出すと、アイリスは俺たちの前であっという間に超大型バケツプリンを食べきって見せた。


相変わらず細い体のどこにそれだけ入るのかは不明だけど、美味しそうに食べてくれるアイリスの様子を見られただけでも頑張った甲斐はあったというもの。


卵の消費がかなり激しいのが欠点といえば欠点だけど、定期的に作ってあげたいものだ。


なお、普通の方のバケツプリンは意外と女性人気があったようで、転移門で来る家族が真似して食べてるらしいけど、誰がかは言わない。


乙女の秘密というやつらしい。


女の子は複雑なのだろう。


まあ、俺は美味しそうに食べてくれたアイリスの様子だけで満足なので特に気にしないけどね。

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