第246話 改造とトール召喚の魔法陣

転移門が出来たことで、家族間の交流が盛んになり、賑やかな日々を過ごしている。


それはそれとして、これまではダルテシアからは遠かったシンフォニアにも直通で行けるので、婚約者達が向こうで動きやすいように準備をする。


とはいえ、アイリスやセリィは心配無用だろう。


アイリスは俺と同じで向こうで育ったようなものだし、あの気候でも問題なく動ける。


セリィも気候の変化に強いらしく、何の支障もない。


さて、残るはレイナとアイーシャだが……アイーシャの方は結論から言って特に心配ないようだ。


予想はしていたけど、家でその手の稽古もしており、シンフォニアの暑さに負けることはないとのこと。


……なんの稽古なのだろう?


分からないけど、流石は裏仕事の名家。


強がりでもなく、ナチュラルに動けるようだし頼もしいことだ。


それでも、シンフォニアの気候は侮れないので、向こうに行く時には全員に携帯用の冷房みたいな魔道具の小型版を持っていくように言っておくけど、あくまで念の為。


そうなると、最も力を入れることになるのが正妻になるレイナだ。


足が不自由なので、車椅子の魔道具を使っているけど、更にグレードアップさせる。


この前の砂漠でも動ける装甲だけでなく、気候の変化に対応出来る魔道具も取り付けて、レイナが車椅子に触れてる限りレイナ自身を必ず守れるようにする。


過保護かな?


でも、多少はいいよね。


「すみません、気を使わせてしまって」


そう言っていつも控えめにしている可愛い婚約者のためにやれる事をしたいだけだもん。


ダルテシアとシンフォニアの職人にも意見を聞きながら、試行錯誤を繰り返す。


「護身用に何かしらあった方がいいのでは?」


脳筋な我が友トールの意見。


「君の嫁が守ってくれるでしょ?」

「守りますけど、レイナ様ご自身にも何かあれば便利では?」


なるほど、それもそうか。


「じゃあ、防御魔法の術式を重ねて……これでどうだ!」

「柔くないですか?」


五十以上重ねた、防御魔法の術式を展開すると、トールはいもと簡単にそれを破る。


にしても、魔法を素手で破るのは止めてくれません?


なんかアイデンティティをひねり潰されてる気しかしないけど……うん、あれは化け物、気にしない気にしない。


フレデリカ姉様も素手で魔法を破るけど、あれも例外なのでセーフ。


「もう少し、武器的な物も付けてはどうですか」

「といっても、レイナは誰も傷つけたくないでしょ?アイリスもだけど」

「お優しいですからね。アイリスにはもう少し頑張って欲しいですけど」

「鬼畜なシスコンめ。アイリスはあのままでいいんだよ」


嬉々として魔法を乱射するアイリスなんて見たく……興味はあるけど、それはそれ。


やっぱりアイリスは昔からあのままだからこそ、俺が惚れたのだろうと心底思う。


「とりあえずは身を守る程度で、いざとなったらトールを呼び出せる魔法陣を全員に渡しておくべきか……」

「殿下でもいいのでは?」

「馬鹿言え、か弱い俺が戦場のど真ん中に召喚されてもボコられるだけだよ」

「まあ、そう言わず」


結局、俺とトールが召喚される魔法陣も作ることに。


トールだけで良くない?


あ、でも婚約者のピンチは駆けつけたいし、悪くはないか。


トールを呼べば一秒もかけずに片付くだろうけど、それはそれ。


婚約者の心のケアに必要ということで納得しておく。


「しかし、このトールを呼ぶ魔法陣は需要ありそうだな」

「……殿下、くれぐれもこの事は……」

「俺からは言わないよ」

「殿下……」


にっこりと俺は安堵するトールの肩に手を置いてから、ドアの隙間からこちらを見てる四つの視線を指して言った。


「ほらね?言う前に聞かれたから」

「……ハメました?」

「紛うことなき偶然と、奥方達のトールへの愛の賜物だから。人聞きの悪い事は言わないように」


いつもながら、耳がいいというかトールを呼び出す魔法陣の話を初めた辺りから、妊娠中のクレアを筆頭に全員がドアの側に居るのだから愛されてるものだ。


なお、熱烈な三人に対して、少しその三人よりは身を引きつつも、期待するようにこちらを見てくるピッケの姿もある。


転移門が祖父母の家にも付いたことで、こちらに頻繁に来られるようになって見られるようになった景色だけど、それが無くても祖父母が気をきかせて早めに送り出そうとしていたらしい。


ピッケとしては、トールと一緒に居たいといえば居たいけど、これまでずっとお世話をしてきた祖父母の側にも居たかったので転移門の存在をピッケは予想以上に喜んでくれていたようだ。


まあ、孫や曾孫に頻繁に会えるようなった祖父母の喜びの方が凄かったけど……フリードは分かるけど、俺まで同じように可愛がるのはどうなのだろうか?


嬉しいけど、フリードの前だと叔父としての複雑な気持ちも多少あります。


そうは言っても、拒否って祖父母を落ち込ませたくないし結局されるがままなんだけどね。


ちなみに、後日完成したレイナ専用のニュー車椅子は値が付けられないくらいの代物になったらしいけど、似合ってるしレイナも使いやすいと言ってくれてるし問題なし。


どうせ貯まるばかりだし、多少は世の中のためにお金を回さないとね。


当の本人は俺や他の婚約者に少し申し訳なさそうだったけど、俺は元より他の婚約者も気にしてないし、他の婚約者にもそれ相応に過保護はしておくので大丈夫。

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