第244話 転移門
以前から、俺は空間魔法の転移でタクシーのような役目をしていた。
それ自体に不満は何もないけど、正直一々俺にタクシーを頼むのは面倒なのではないかと常々思っていた。
俺とは違って多忙な家族のためにも、自分の意思で移動する手段があった方がいいだろう。
魔法飛行船はあるけど、それでの移動にもそこそこ時間はいる。
父様や兄様達のような立場ではまず国から出るのが難しいだろうし、将来的に俺に子供が出来たりしたら見に来やすいようにはしたいと思った。
なので、シンフォニアとダルテシアを繋ぐ転移門を作ろうかと思い至った。
転移門。
文字通り、場所と場所を繋ぐために空間魔法で作った移動するための門。
魔道具としてそれを作ろうと思ったんだけど……想像以上に難しかった。
まず、空間魔法を魔道具に落とし込むのが、そもそも難しい。
これまでの既存の魔道具と明確に違うのは、空間魔法を使える者がそもそも少ないので自分の経験からしか知識が引っ張ってこられない点。
古い資料にも空間魔法についての記述は少ないし、使いこなせていても、それを魔道具にするにはそれなりに時間がかかってしまう。
それでも、頑張って作ってみた初号機はトールの部屋とクレアの部屋を繋ぐくらいの距離しか維持できなかった。
使えるけど、距離が短いのが難点だけど、この件ではクレアから非常に感謝された。
トールからは安らぎスペースが消えたと若干難色が示されるけど……元々無いようなものだし、そもそもトールの部屋とクレアの部屋が今更繋がった所で何も支障はない。
そう思っていたけど、ケイトからもお願いされてもう一個作ることになった。
そのうち使うことも考えて、ピッケ用とシール用も用意しておこう。
「殿下、こういう時だけ仕事早いですね」
「失礼な。いつでもスピーディだろ?」
「いえ、三倍くらい速いです」
専用機にでもなったのだろうか?
なお、婚約者達に作るか尋ねたけど、必要ないとの事なのでそのままで。
そもそも同じ部屋で寝てるし、自室言っても私物を多少置いてる程度だから必要ないか。
実際、俺の部屋には婚約者達がよく使ってるものは置いてあるし、半分俺と婚約者達の部屋と化してるので気にしない。
ブライベート空間?やましい事もないし、婚約者達が一緒に居てくれるなら一緒に居たいから大丈夫。
さて、そんな初号機にも負けずに頑張って作った二号機。
こちらは、前よりも距離が伸びて、隣のジーク義兄様の屋敷と繋げることに成功した。
実験の意味で作っただけなのだが、これを気に入ったレフィーア姉様と甥のフリードがよくその転移門で遊びに来るようになった。
お隣と言っても、互いにそこそこ広い敷地面積なので屋敷に直通は便利なのだそうだ。
それはいいけど、防犯面も考慮した方がいいかもしれないとジーク義兄様からアドバイスを貰った。
それはそうだと思って、距離だけでなく防犯面のことを考えての設計もしてみた。
結果、転移門の使用のために鍵が必要になるようにしてみた。
鍵は指輪の形をしており、それを持ってる者だけが通れるようにしてみた。
常時空間を繋げるのではなく、鍵を持ってる者が通った時のみ空く仕組みにしたら燃費が少し良くなった。
それに喜んでいたら、父様と義父様が転移門のことを知って、資金と人を送ってきた。
早く欲しいということだろう。
人の方は要らないのでお返しする。
団体行動は苦手だし、一人の方が作りやすい。
資金も大丈夫なのだが、流石にこっちも返すのは申し訳ないし別に取っておいて何かあった時に返せるようにしておこう。
そうしてコツコツと進めることしばらく。
ダルテシアの王城と屋敷を繋ぐことに成功した。
特に喜んだのが義父様。
レイナの顔を見やすくなって嬉しいのだろうけど、時間が空くと来るのはどうなのだろう?
しかもレイナだけでなく、そこそこ会ってるはずの俺にも会おうとしてくれるし。
次に来るのがレイナの兄のシュゲルト義兄様。
トールと何かを相談してるところを見るけど、その足でジーク義兄様の元に行くところも見る。
忙しそうだ。
その割には、俺やレイナの所にも顔を出すけど、無理はしないで欲しい。
ちなみに、ここまでで転移門の存在は関係者のみとなっていた。
元々、俺が家族用にしか作る気が無かったのもあるけど、世間に出すには早いらしい。
技術的にも量産できるよようなレベルじゃないし、任せられる職人を育てようにも時間がかかる。
空間魔法を持ってない人が作るには難易度がベリーハードだし、実現するとしても俺が死んでから数百年はかかると思う。
なので、プライベートで国家秘密のレベルではあるけど、究極の内輪魔道具ということだろう。
俺の婚約者や家族が他の人に話すことはないだろうし、フリードも良い子なので大丈夫だと思う。
俺が口を滑らせないように一番注意するけど、そもそもそこまで対人しないだろうし問題ない。
とりあえず、予備も含めて鍵の指輪を多めに作る作業も並行するけど、安全を考えると飛距離を伸ばすのは慎重になる。
それでも頑張ることしばらく。
ようやく、ダルテシアの俺の屋敷とシンフォニアの王城を繋ぐことに成功した。
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