第243話 どこまでもお傍に

「ふぅ……やっぱり動いた後の水は美味しいなぁ」

「ふふ、お疲れ様です」


フレデリカ姉様との稽古が終わって、軽く汗を流してから飲む水が美味しすぎて思わず出たリアクションだったけど、それを優しく見守ってくれるレイナ。


トールなら間違いなく呆れたような顔をするので、レイナは非常に優しいと思う。


「見てるだけで退屈じゃなかった?」

「いえ、そんな事ないですよ。頑張ってるエルダート様の姿に見惚れてしまいました」


照れつつそう言われるので、俺も照れてしまう。


「そっか、ありがとう。レイナのお陰でいつもより集中出来たのかもね」

「光栄です」

「お世辞じゃないよ?」

「分かってます。エルダート様のことはいつも見てますから。私だけじゃなくて、アイリスさんも、セリィさんも、アイーシャさんもエルダート様の事なら何でも分かります。……お慕いしておりますから」


そっと添えられる言葉が凄く突き刺さる。


飾らず、それでいて自然と思いやりのある言葉になるのだから癒し系美少女という呼び方が相応しいと思う。


「レイナ、かき氷でも食べる?」

「いただきます」


俺の照れ隠しにも分かっていてそう優しく頷くレイナのために、レイナ好みのフワフワなかき氷を作る。


シロップはイチゴが好きだったはず。


「出来たよ」

「ありがとうございます。いただきますね」


そう言うと、上品に口に運んでから笑みを浮かべるレイナ。


美味しそうに食べてくれてるようで良かった。


アイリスほどではないけど、レイナも美味しそうに食べてくれるので作りがいがある。


しばらくは並んで木陰でかき氷を楽しむけど、ダルテシアの落ち着いた気候と違って、気温が高く慣れてないとキツそうなこのシンフォニアの感じが不思議と悪くない。


生まれ故郷に拘りがある前世ではなかったけど、今世に関しては間違いなくここが俺の故郷だと言いきれると思う。


「エルダート様、やっぱりこちらに住みたいですか?」


ふと、そんな事を尋ねてくるレイナ。


「私に気を使ってダルテシアに居てくださるのは嬉しいですが、エルダート様が望むなら私はどこでもお供します。私は……エルダート様の妻になる女ですから」


そう言うと、「いえ、私だけではないですね」と微笑む。


「アイリスさんも、セリィさんも、アイーシャさんも皆、エルダート様とこの先を共にしたいと思ってますよ」


……一方通行でない愛情というのは、こうまで心に響くものなのか。


嬉しい気持ちを抱くけど、レイナにこちらの生活は難しいだろうし、それにダルテシアの生活も悪くない。


雨が降る気候というのはシンフォニアでは体験できないし、ダルテシアの屋敷にも思い入れがある。


とはいえ、近いうちにこっちに屋敷を建てる計画もあるのでその辺はまたおいおいかな。


「ありがとう、レイナ。俺もレイナと……レイナ達とこれから先ずっと一緒に居たい。色々と大変なこともあるとは思うけど……」

「エルダート様となら、大丈夫です」

「俺もレイナ達とならそう思えるよ」

「同じですね」

「同じだね」


思わず笑い合う。


出会った頃には見られなかった笑みも見られるようになった。


レイナを救えたのは俺の今世においてもきっとアイリスの件と並んで誇れることだと思う。


前世ではこうして人を好きになることも、人に好かれようと思うこともなかった。


俺はいつだって邪魔な存在で、存在してるだけで迷惑をかけてしまう。


レイナの悲劇とは比べようもなく小さいかもしれないけど、レイナの昔の気持ちがなんとなく分かる気もする。


まあ、俺よりも心の優しいレイナだから誰かを恨んだりとはしなかっただろうけど、そんな子だからこそ救えたのは良かった。


「レイナ、膝枕……お願いしてもいい?」

「勿論です。私なんかで良ければ」

「レイナがいいんだよ」


アイリスとレイナの膝枕は俺の癒しとしては最も上位の存在なので頼らせもらう。


レイナを連れてシンフォニアの自室に行くと、ベッドにレイナを座らせてからその膝に膝枕してもらう。


心地よい温もり、優しい感触が心を落ち着かせる。


頭を撫でるレイナの手つきに気持ちよくなってうとうとしてくると、レイナは「ゆっくりお休みください」と優しい声をかけてくれる。


もう少しレイナに頼れる男の面を見せたいのだが……この母性的な笑みには逆らえない。


うっつらうっつらとまどろみに入っていくと、やがて俺はゆっくりと日々の疲れがどっと出たようにスヤスヤと眠りにつく。


日々、婚約者に癒されているはずだけど、無意識に疲れが溜まっていたのかもしれない。


きっと、レイナにはそんな俺の無意識な疲れもお見通しだったのだろう。


「おやすみなさいませエルダート様。……大好きです」


そんな言葉が聞こえたような気もするけど、眠気には勝てない。


レイナの膝枕で数時間癒されてから、その後で俺からもきちんと素直な気持ちを伝えておこう。


俺も大好きだよ、レイナ。


照れずにカッコつけてみたいけど、出来るかな?


頑張ろう。


他の婚約者にもカッコつけたいけど、中々難しいのでもっと全体に頑張りたいところ。


何にしても一眠りしてからだな。


ありがとう、レイナ。

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