第242話 レイナと実家へ
その日、俺はレイナと二人でシンフォニア王国へと来ていた。
俺にとっては生まれ故郷なので慣れた暑さだけど、レイナにはこの暑さは過酷だろうし、きちんと魔法で対策をすることは忘れてない。
「ありがとうございます、エルダート様」
癒し系美少女の素直な感謝とは心地よいものだ。
「気にしないで。可愛い婚約者を守るのは俺の役目だからね」
車椅子は魔道具を組み込むことで自動でも動けるのだけど、俺が居る時は俺の我儘でできる限り押させて貰っている。
砂漠でも動けるように車輪も細工をしているけど、この辺はきちんと舗装してるし問題なく移動できる。
「こちらはやはり気温が高いですね」
「砂漠の国だからね。魔法でガードしてるけど大丈夫そう?」
「はい、問題ありません。それに、何かあっても多少のことなら大丈夫です。エルダート様の生まれ故郷ですから」
そう笑顔で言うのだから、この子は本当に強いと思う。
「父様や兄様達への挨拶もするけど……その前に色々見て回ろうか」
「よろしいのですか?」
「もちろん。リクエストあったら聞くよ」
「そうですね……では、エルダート様が一番好きな場所でお願いします」
「それでいいの?」
「それがいいんです」
気を使ったわけでもなく、自然とそう言えてしまうのだから本当に凄い。
元々は政略結婚のような感じではあったけど、お互いに好いて好かれて、何だかんだと婚約者達のまとめ役というか、正妻ポジションとしてレイナには助けて貰ってばかりだ。
元々の素質がずば抜けているのだろうけど、それでも感謝しかない。
こんな素敵な子が俺の婚約者になってくれて、尚且つ俺の事を好いてくれてる。
つくづく俺は幸せ者だよね。
さて、俺の一番好きな場所というリクエストなら迷うことなく決まっている。
俺の心の故郷……原点にして頂点のオアシスに案内する他ない。
「綺麗なところですね」
オアシスを見た第一がそれな時点で、レイナは分かっていると思う。
トールなんて、『貴重な水資源ですね。ここを抑えておけば反乱があっても問題なさそうですね』とかほざきやがったからね。
物騒な男だが、妹のアイリスの方は純粋に凄いと喜んでいたのでよしとする。
「昔はここで、アイリスさん達と遊んでいたのですか?」
「そうだね、オアシスを眺めてボーッとしたり、この辺で遊ぶこともあったかもね」
というか、俺がこの場所が好きすぎてずっと居着いていたので自然とそうなったというべきか。
アイリスは俺のメイドさんとして、トールは護衛として一緒に居ることが多かったしね。
「羨ましいです」
「そう?」
「はい。でも、エルダート様に救って貰って今の私があります。贅沢は言いません」
それでも、多少は思うところもあるかオアシスに視線を向けるレイナに俺はそっとレイナの前に移動すると、レイナの手を握って、視線を合わせてから言った。
「いいんだよ、贅沢を言っても。レイナは俺の大切な人だ。過去はどうしようもなくても、これはからはまだ色々できる。だから、レイナが望むことを俺に遠慮せずに伝えて欲しい。どんな望みでも、レイナのためなら俺は叶えてみせるから」
そう言うと、レイナは俺の言葉に少し驚いた様子を見せてから、頬を赤くしてこくりと頷いた。
その様子が凄く可愛いけど、いつもは俺ばかりがレイナに癒されてばかりなのでこうして照れさせれられたのが凄く嬉しくなるのだが、それはそれ。
シンフォニアにいた頃のことは、アイリスとトール、あとは家族くらいしか知らないので、レイナ的思うところがあるのは仕方ないと思う。
俺だって、もっと早くレイナを助けてあげられればと思ったこともある。
でも、俺の魔力量的にも時期的にもあの時が一番ベストなタイミングだったも分かるのでどうしようも無い。
過去は変えようもない。だから、これからを大切にしていこう。
ありきたりな言葉だけど、前を向くのは大切なことだ。
「エルダート様、では一つだけ……よろしいでしょうか?」
「なんなりと」
「もう少しだけ……手を握っててください」
「勿論だよ」
「ありがとうございます」
可愛いお願いに即答すると、笑顔を咲かせてくれるレイナ。
この子を救えてことは俺の今世においてかなり誇れることだと思うけど、何よりもこの笑顔を見られただけで救えて良かったと心底思うのだから、我ながらゲンキンなものだ。
オアシスの近くで、レイナとゆったりと過ごしてから、父様やマルクス兄様に挨拶をするけど、途中で母様やアマリリス義姉様とも会えて、レイナが楽しそうに話せていたのはよかった。
婚約者達は皆、うちの家族とは良好な関係……というか、仲良しなのは知ってたけど、レイナの方もうちの家族を慕ってくれてるようだしそれを直接見れたのは凄く嬉しい。
その後、訓練中のフレデリカ姉様にも見つかり、訓練にも参加したのだけど、レイナの応援でいつも以上に頑張れたので悪くない気分。
フレデリカ姉様からも、お褒めの言葉を貰えたし、自分でもいつも以上に動けたので、やっぱり好きな人の力とは偉大だとしみじみ思った。
アイリス達でもブーストはかかるけど、レイナの前で訓練はあまり無かったので、そのレアケースも要因の一つだろうか?
何にしても楽しかったしいいか。
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