第241話 甘えん坊なハーフヴァンパイアちゃん
「……なるほど、これは凄く良い」
「お気に召して貰えたようで良かったよ」
一緒に並んで飛ぶのに満足したようで、今度は俺腕の中に入ってきたセリィ。
お姫様抱っこに大満足のようで、嬉しそうに俺の胸に顔を埋める。
それはいいんだけど、匂いを嗅ぐのは恥ずかしいので出来ればやめて欲しいのだが……まあ、前世と違い今世では毎日お風呂に入れてるし、臭うことはないとは思うけど、それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「セリィ、くすぐったいよ」
「……主はいい匂いする」
「そう?セリィの方がいい匂いだと思うけど。参考までにどんな匂いか聞いても?」
「……優しい感じの匂い。主がそばに居るって、凄く落ち着く感じ」
なるほど、よく分からない。
まあ、でもセリィが嬉しそうだしいいか。
「……主、出会った時より大きくなった」
「そうかな?あんまり変わってない気もするけど」
「……そんな事ない。逞しくなってきた」
逞しくか……生憎と今世の体は、筋肉がほとんどつかない体質のようで見た目ではほとんど変わらない気もするけど、セリィがそう言うのならそうなのかもしれない。
「……それに、男の子って感じで凄くかっこいい。ドキドキする」
……若干頬を染めて言うのは反則では?
まあ、でも、フレデリカ姉様に昔から時々鍛えて貰って、こっちに来てからも体を動かしてたことが無駄ではなかったのは嬉しいかも。
「背丈がもう少しあれば格好もつくんだけどね」
「……成長期だからきっと伸びる」
「そうだね、そうだといいけど」
「……でも、小さい主はそれはそれで可愛くていい」
婚約者からの可愛いは嬉しいけど、やっぱりかっこいいの方がいいので、意地でも成長しよう。
トールだって、成長期が止まる気配がなく、日々高くなっていってるので俺だってせめて平均以上を目指さねば。
まだ10歳なんだし希望はある。
少なくとも、婚約者達をお姫様抱っこってし違和感ないくらいにはなっておきたい。
頑張ってどうにかなるものかは不明だが、心意気は大切なので頑張ろう。
「それにしても、天気がいいから景色もいいね」
そんな風に決意を新たにしつつも、眼下の光景にそう感想を漏らすと、セリィはそちらは見ずに俺を見て言った。
「……確かに、このポジションは主の景色がよく見える」
「それ、景色っていうの?」
「……この位置からの主は凄くかっこいい」
悪い気はしないけど……。
「下の景色の方はいいの?」
「……さっき見たし、一人でもみれる。この位置からの主は今しか見れない」
なるほど、分かるような分からないような。
「なら、俺もこの位置で見れるセリィを堪能しようかな」
「……どうぞ」
そう言われて、セリィを見る。
出会った頃からあまり変化がないように見えるけど、ハーフヴァンパイアという種族柄だろうか?
でも、年々魅力的になってるのは間違いなく、ライトグレーの短髪と、黒い瞳が凄く綺麗だ。
しばらく互いを見つめあってから、俺の方が先に視線を逸らしてしまう。
「……照れてる顔も可愛い」
「この距離で好きな人を見れば誰だってそうなるよ」
「……私も照れてるの分かる?」
「分かるよ。婚約者だもん」
「……ふふふ、主」
すりすりと甘えてくるセリィ。
表情には出ずらくても、セリィのことならある程度分かってきてるし、分かるようになったので見つめあっている時に多少照れていたことも分かっていた。
それも相まって可愛くてついつい先にギブアップしてしまったけど、それでも甘えてくるのだからセリィは相変わらずグイグイくるなぁ。
アイーシャとセリィの二人が、大人しくて控えめなアイリスとレイナに積極性を持たせる要因にもなってるのだが、それを悪い気がしない俺はやっぱり婚約者達のことが大好きなんだとしみじみ思う。
「……今日は主を貸切だから、とことん甘える」
「いつもそうじゃない?」
「……いつも以上に主を求める」
そう言ってから、軽く首筋に甘噛みしてくるセリィ。
「飲むなら飲んでもいいよ」
「……それもいいけど、こうしてるのが一番甘えてる気がする」
「そっか、まあ、セリィの好きなようにしなよ。二人きりだしね」
「……そうする」
はむはむと可愛らしく甘噛みしてくるセリィ。
最初は俺の血を気に入ったのが強かったはずなのに、こうして俺自身もきちんと好きになってくれたのは嬉しいものだ。
空の上で、他に見てる人が誰もいない二人きりの状態なのでここぞとばかりに甘えてくるセリィのお気に召すままにイチャイチャしていたけど、その様子を一人だけ見ていたのがトールである。
気配は感じないけど、護衛として近くにいるはずなので、聞こえてるし見えてるだろうけど、トールなら気にすることもないと俺もセリィも自然な形で二人きりを楽しむ。
それにしても、セリィは相変わらず積極的にグイグイくるけど、年々甘え上手になってきてる気がするのは気のせいだろうか?
何にしても可愛い婚約者のお願いを断れるわけもないし、断る気もないのでいいけど。
ただ、首を甘噛みされ過ぎてそのうちそこだけ跡が残りそうなのでもう片方とバランスよくして貰えると助かる。
何となくだけど、その方が分かりやすいしね。
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