第239話 傍に居てくれ

「これなんて、レイナ様に似合いそうですよ」


アイーシャはこう見えて気配りも上手い。


二人でのデートを楽しみつつも、他の婚約者達のことも考えてくれている。


レイナに似合いそうな小物を見つけると、そうして俺にさり気なく勧めてくる。


「確かにいいかもね。じゃあ、これは買っておこう」

「ちなみに、こちらを買うと私が喜びますよ」

「それも買わないとね」


そして、甘えるのも上手い。


自分が欲しいものもきちんとアピールしてくる。


とはいえ、無闇矢鱈に欲しがるような真似ははせず、俺の懐を痛ませるような真似もしないのだから、本当に凄いと思う。


最も、色々と料理やらその他の趣味を気ままに世の中に出してるうちに、懐が痛くなるようなレベルを超える資金が積もりまくっているのだが……将来、子供達が遺産相続で揉めないように考えておこう。


前世だけでなく、今世でもお金のトラブルで家族が割れるのは良くあるらしいし。


「殿下、あそこのお店。期間限定のスイーツだそうですよ。アイリスさんが喜びそうです」

「そういえばそんな時期か」

「ついでに、今買うと私も喜びますがどうします?」

「なら、尚のこと買わないとね」


デザートなどは持ち帰りが本来ならネックだけど、俺の場合は空間魔法で亜空間に仕舞えば時間が停まってそのままの状態を維持できるので何も問題は無い。


自分たちの分とお土産を買って、お土産をしまってから二人でスイーツを堪能する。


その後も、色んな店を回る。


とあるお店では、血がサラサラになるという薬が置いてあって、セリィに……というか俺に買っておくべきか悩んで止めたり、その代わりにセリィ用に髪留めを買ったりもした。


「セリィさんの場合、殿下の血ならきっと何でも美味しいでしょうし、余計な心配かもしれませんね」


その一言で決めたのでが、血がサラサラになる薬の原料は少し気になる。


ヤバい薬の類ではなさそうだけど……まあ、健康には気をつけよう。


そうして王都を巡っていると、早いものであっという間に夕方になってしまう。


「帰る前に、もう一箇所寄りたいんだけど……いいかな?」

「勿論です。デートの延長ですね」


そう聞くと不思議と誤解を招きそうだけど、如何わしいことは何も無いと主張しておく。


アイーシャと行くのは、ダルテシア王国の王都にあるとある塔の上。


景色の良いそこは、俺の持ってる建物の一つなんだけど、見晴らしが良いのでたまに一人で来てる場所だ。


「良い眺めですね」

「そうだね」


吹く風で揺れる紫の綺麗な髪を手で抑えるアイーシャ。


そんなアイーシャに俺は胸の鼓動を抑えつつ言った。


「アイーシャは初めて会った時に言ったよね。目立つのは好きじゃないって」


そんな言葉とは裏腹に、お茶会を抜け出して、木に登っていたりもしたが、間違いなくあれはアイーシャの本心だったのだろうと思う。


「俺は……自分で言うのもあれだけど、そこそこ目立つと思う」

「目立つどころか、人を引き寄せてますね」

「そこまでではないと思うけど……まあ、それは良いとして」


ゆっくりと深呼吸すると、俺はアイーシャの目を見てきちんと言った。


「これからも色々あって、不本意ながら目立つこともあると思う。それでも……俺はアイーシャに傍にいて欲しいと思ってる」


その言葉にアイーシャは少し驚いたような顔をする。


そして、くすりと微笑んだ。


「まるでプロポーズですね」

「まるでじゃなくて、その前段階……かな?」


正式なプロポーズは別でそれぞれにやるとして、今は婚約の申し出を専決。


「三人も婚約者がいる、面倒な王子様だけど……レイナとアイリスと、セリィの三人と一緒にアイーシャも俺と一緒に居てほしいだから……」


ゆっくりと、俺は言葉を選んで言った。


「俺の婚約者になって、これからもずっと俺の傍にいてくれ――アイーシャ」

「――――!」


真剣なその様子か、はたまた言葉の重さなのか、アイーシャは軽く表情を驚きに変えてから、少し頬を赤くして照れを隠すように笑みを浮かべる。


「……勿論です。私からもお願いします。少し面倒な女の子ですが、殿下の傍にこれからも居させてください。私は――殿下のことが好きです」


恥じらいながらも、そんな風にストレートに気持ちを告げてくるアイーシャ。


そんなアイーシャを俺は抱きしめていた。


強引だっただろうかと、思ったけど、アイーシャは受け入れるように手を背中に回す。


この日、曖昧だったアイーシャとの関係は、他の婚約者達と同じく、『婚約者』という関係へと変化した。


とはいえ、それは今までの気持ちをしっかりと形にしただけに過ぎない。


ただ、アイーシャ用の部屋が出来たのは少し変わった点かもしれない。


元々作る予定だったのが少し早まっただけだけど。


あと、この事を知ったことでプログレム伯爵……というか、兄のカリオンから他の婚約者と同じようにアイーシャも俺の屋敷に住むべきと言われて、その日のうちに荷物をまとめると我が家にアイーシャが住むようになり、他の婚約者達と同じように俺の部屋で寝るようになったのだが……全く違和感も抵抗もなかったのは凄いと思う。


何にしても、噛まなくて良かった。


きちんと気持ちを言葉にするって大切だとしみじみ思いつつ、協力してくれた婚約者達にもきちんと伝えようと思ったのは言うまでもないだろう。

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