第238話 アイーシャに気持ちを

トールに嫁候補が増えたことが影響ではないが、俺はまだハッキリと気持ちを口にしてないので、それを伝えたくなった。


一方通行ではないとこれまで過ごして分かっているし、外堀も(主に向こうの家族から)埋められているから焦る必要は全くないけど、それでも言っておくべきだろう。


「ふふ、殿下からデートに誘ってくれるとは思いませんでした」


アイリス、レイナ、セリィの三人と相談して、この日俺はアイーシャと二人でダルテシアの王都の街に出かけていた。


「この前の約束もあったし、タイミング的にも良かったからね」

「では、今日は存分に楽しませて貰いますね」


そう言って、ナチュラルに手を繋いでくるアイーシャ。


ちょっとした触れ合いだけど、こういうことをしてくれるくらいには、アイーシャから思われているのだろうと思うと嬉しくなる。


かなりチョロいと我ながら思うが、誰にでもこうなる訳じゃないので悪しからず。


好意のある相手じゃないと、むしろ俺は警戒してしまうかもしれないし、こういうのは好きな人とだけしたい。


そんな事を思いながら、賑やかな王都を二人で回る。


「トールさんは流石ですね。気配が全く感じません」

「普段はしないけど、こういうのも得意らしいからね」

「確かに、普段は殿下の傍から離れませんね」


デートだから、少し離れて護衛して貰っているが、基本俺が外に出る時にはトールは必ず着いてくる。


例外は奥さん絡みだけど、昨夜も大変ヒートアップしたのか、このサイレント護衛任務で英気を養ってるようにさえ思えるのは気のせいだろうか?


何にしても、夫婦円満で何より。


「シールさんでしたね。数年後にはきっと素敵な女性になりますね」

「だろうねぇ。まあ、トール好みになりそうだし、年下も居た方がトールには良さそうだしいいんじゃない?」

「殿下も年下をご所望で?」

「歳は気にしないかな。好きになった人ならその辺は全部受け入れるよ」


というか、そもそもこれ以上増えないで欲しいので、そういう話題は遠慮したいかな。


「アイーシャはどうなの?好みとか」

「そうですね……」


俺の質問にアイーシャは意味深な笑みを浮かべてから、顔を近づけると耳もとで言った。


「目立つけど、一緒にいて落ち着くような人がいいですね……殿下のような方とか」


……そういう事をサラッと言えるのは強いよなぁ。


アイーシャとセリィの影響なのか、アイリスやレイナも段々と積極的かつ、蠱惑的な感じになってるし、悪くないどころかむしろ良いと思うのだが、やりすぎない程度でお願いします。


癒し系うさ耳美少女のアイリスさんと、癒し系美少女のレイナの元の良さはそのままで居てほしいし。


「殿下、あちらのお店新商品が並んでますよ」

「行ってみようか」


ダルテシアの王都は、俺が初めて来た時から発展を続けている。


魔法飛行船による運搬で、遠くの国のシンフォニアとも交流が深くなり、俺が向こうで流行らせた物がこちらに流れてくる。


逆に、俺がこちらで流行らせたものも向こうに浸透しているし、何よりも特産品なども手に入りやすくなったのは大きい。


本当に父様や義父様達の力は偉大だとしみじみ思うけど、兄様や義兄様達も力も偉大だ。


次の世代も今の世代も、不安要素はどこにもない。


だからこそ、俺のような勝手気ままな第2王子が好き勝手出来てるのだし、何よりも誰よりも尊敬してる家族の頑張りを知ってるからこそ、楽しそうにしている国民を見ていると誇らしくなる。


「ご機嫌ですね、殿下」

「アイーシャとのお出かけが楽しいからね」

「それ以外にもありそうですよ?」

「……まあね。アイーシャとのデートも最高だけど、こうして父様や義父様達が作った国で、豊かに暮らせてる人たちを見てるとついね」


そう素直に言うと、アイーシャはくすりと微笑む。


「本当に殿下はお父上達を尊敬しているのですね」

「アイーシャもそうでしょ?」

「兄はともかく、父はないですね」


父親のプログレム伯爵には相変わらずな様子のアイーシャ。


まあ、確かに少し変わった人だけど、接してると悪い人じゃないのはよく分かる。


だからこそ、アイーシャも邪険にしつつも嫌ってはいないのだろう。


不思議な父娘仲だが、兄妹仲は普通に良好そうだし、長男のカリオンはやはり凄いなぁ。


俺も弟や妹が居たら、そういう頼れるお兄様になりたかったが……可愛い甥の存在で満足してる自分もいたりする。


前世では、普通の家族仲でさえ絶望的だったのに、変われば変わるものだ。


「でも、私も確かに楽しいですね。こうして殿下とデートに出掛けるのも……そうして楽しそうに笑う殿下を近くで眺めるのも」


不意打ちでそんな事を言うアイーシャ。


ずるいなぁ……ずるいけど、そういうアイーシャらしい部分も俺は好きになってしまったのだろう。


からかうとまでは言わなくても、こうして俺を上手く翻弄するのだから、アイーシャは小悪魔の才能があると思う。


果たしてそれは才能と言うのかは定かじゃないけど、プログレム伯爵家の令嬢で裏の仕事にも参加できそうなレベルのアイーシャがこうして俺を選んで、俺のそばに居てくれるのだから、俺も相応の言葉で彼女に伝えないと。


頑張るぞ!

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