第236話 嫁候補が増えた(イケメンの)

トールという男は俺の騎士であり、俺の護衛でもある。


俺の知らぬ間に裏で暗躍することもあるらしく、それでも悟らせないレベルで処理しては、何食わぬ顔でいつもそばに居る。


だからと言うべきか、俺はトールが一人の女の子を連れてきて困ったような顔をしていても感想は一つだけ。


「また嫁増えるの?」

「いきなり聞くのがそれですか?」

「むしろ他に何を聞けと?」


どう見てもトールにベッタリな様子のその子を見れば、むしろそれ以外に有り得ないと言っても良いだろう。


「それで、また好みの女の子引っ掛けてきたから、嫁さん達に取り成してくれと頼みに来たと?」

「違いますよ。というか殿下の中では僕は女の子を引っ掛けてくるような奴に見えるんですか」

「無自覚にたらしこんでくる奴だとは思ってるよ」


そんな俺たちの会話を気にした様子もなく、その子はトールにひたすらに熱視線を送っていた。


マイペースなようだが、それにしてもまたクレアたちのようなタイプをピンポイントで拾ってきたのはある意味凄いと思う。


「んで?何がどうしてそうなってる訳?」


その言葉にトールは何とも困ったような表情で事情を説明し始めた。


まず、先日のこと。


ウォータースライムのラムネから、不審者の情報がもたらされて、トールは裏で密かに探っていたらしい。


その時点でよく分からなくなりそうになったけど……何故ラムネからそんな情報が?


いやいや、気にしない方がいいかな。


ラムネは賢いし物知りだからね。


あのポヨポヨの友は癒し枠なのでそれで良いと俺は納得しておく。


ラムネはラムネだしね。


あの水への情熱は本物だし何も問題は無い。


続きを聞く。


トールはここ最近、俺を狙っている組織が居ることをジーク義兄様やダルテシア国王……義父様と情報共有して知っており、その刺客が昨夜やって来たので捕らえてアジトを聞き出し潰したらしい。


その時に捕らえられていた奴隷の女の子が今トールが連れてきた目の前にいるその子らしく、トールに救われて、一目惚れをし、運命を感じて全てをトールに捧げたとのこと。


どんなに言っても離れる気はなく、どうしたものかと困ったので俺の元に来たということらしい。


……何故そこで俺を選ぶのやら。


「俺を狙ってる組織なんて居るんだね」

「殿下はもう少しご自身の価値を知っておくべきかと」


あらゆる新しい料理や魔法についても深く精通しており、何よりも身分も高く利用価値が高い上質の素材とのこと。


「ふーん」

「反応、薄いですね」

「他人の話されてもね」

「いえ、紛れもなく殿下ご自身の話ですから」


その割には俺には身に覚えのない単語が多い気が。


新しい料理?前世の食べたいものを再現してるだけですが。


魔法に深く精通?少し得意なだけですよ。


身分が高い?まあ、なんちゃってでも、王子だしそれはそうかも。


結論、他人の話ですね。


「まあ、その話は別にどうでもいいけど。それでその子の故郷とかは?」


そう聞くと首を横に振るトール。


『小さな村に住んでたようですが、盗賊に襲われて村は燃やされたそうです。村人は男は殺されて女は貴族に売られたとか。その辺は今、ダルテシア国王とジーク様が動かれてるので時期に解決するかと』


首を振ってから目を開けて、アイコンタクトを送ってくるトール。


それだけで全てが伝わるのだから相変わらず恐ろしい奴だ。


義父様とジーク義兄様が動いてるなら、村に関しては特に気にしなくてもいいか。


俺の尊敬する二人なら上手いこと救うだろうしね。


問題はこの子か。


聞けば、元々村でも迫害されていたようで、両親も既に居ないとか。


村では、余所者として迫害され、盗賊に捕まってからは奴隷として家畜のような扱いを受けていて、全てを諦めていた中で救い出してくれたうさ耳のイケメン。


……うん、惚れない道理がないな。


刷り込みのようだけど、この子にとってはトールだけが自分を救ってくれた相手なのだから当然の反応でもある。


「救ったなら最後まで面倒みたら?」

「簡単に言いますね……」

「事実それが一番でしょ。えっと……君の名前は?」

「……シールです」


返事が返ってくるとは思わなかったけど、とりあえずコミュニケーションが取れそうなタイプなのは良かった。


「シールだね。俺はエルダート。そこのトールの主でトールは俺の騎士なんだ」

「騎士様……」


騎士という単語にうっとりとするシール。


似合うよね、流石イケメンうさ耳。


「さて、シール。見たところ君は俺と同い年くらいに見えるけどいくつなのかな?」

「12歳……だと思う」


若干年上だった。


栄養が足りてないから小さく見えるのだろうか?


何にしても、まだまだ子供だし、嫁になるには少し早いかな。


「トールに全てを捧げたということは、この先もトールとずっと一緒に居たいってことで大丈夫?」

「はい、その通りです」

「トールの嫁になるってことでいい?」

「将来的には」


素直でよろしい。


その発言に動揺してるトールだが、これだけカッコ良い姿を見せつけておいて惚れられない訳もなく、また、トール自身放っておけないからこそ俺の元に相談に来たのだろう。


ならば、俺は俺でそれに応えないとね。

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