第235話 野球

スポーツの話をしよう。


体を動かすスポーツは良いものだ。


前世の俺では絶対に出来なかったのだが、今世なら出来るとあれこれと昔試したものだ。


例えば野球。


グローブとボールの入手が少し難しかったし、多少妥協したけど一人で壁当てして跳ね返ってきたボールをキャッチするのは楽しかった。


フレデリカ姉様とやると、ボールが消えて気がつくとグローブと共に後方に吹き飛んだりもしたのも良い思い出だ。


俺がピッチャー、フレデリカ姉様がバッターだと、高確率でボールが無くなる。


カッ飛んだと思ったらそのまま漫画のようにキラリとお星様になったのは今でも覚えてるよ。


俺がバッター、姉様がピッチャーの場合。


気がつくと姉様の投げたボールが後ろの壁を抉っていたのはよくある事だった。


うんうん、懐かしい……今やったら確実に死ぬかもしれないな。


まあ、そんな中で途中アイリスとトールが加入したけど、姉様とトールだけ次元の違う試合をしており、俺とアイリスが和やかにキャッチボールしていたのだが、それはそれかな。


スポーツは身体能力が高い方が有利なのは言うまでもないけど、トールやフレデリカ姉様は別次元なので俺はいつも大抵アイリスと和やかにやる事が多かった。


そういえば、マルクス兄様もたまに俺と遊んでくれていたけど、年々忙しくなるので遊んでくれる時は限られてたな。


本当に努力家で凄い兄様だと心底尊敬してます。


そんな数少ない時間で他にマルクス兄様と遊んだのは……サッカーとか?


兄様は似合ってたし楽しそうだったけど、俺は足を動かすのが苦手なのか若干違和感があったなぁ。


バスケ……姉様が速くて追い切れなかったり、トールが自陣のゴール下から超跳躍して正反対にある相手ゴールにダンクを決めたり……あれは反則すぎる。


トール的にはフィールドが狭かったというのが事実らしいが、あの距離を一足で跳躍してダンクできるアホはそうそう居ない。


フレデリカ姉様はダンクよりもスリーが好きだったのか、同じく自陣のゴール下からかなりの距離ボールを飛ばしてスリーを決めていたけど……あれはあれで凄かった。


あの距離を届くとは……流石は姉様。


卓球、バトミントン、バレー、剣道、弓道、柔道……色々試したけど、とりあえず道具を使う系は壊れやすく、直接組み合う系は死のリスクがあったのが今世での感想だけどそれなりに楽しかった。


俺はその程度の認識でやっていたのだが……実はそれらを見ていた人もかなりの数おり、そしてその筆頭が父様とダルテシアに来てからはダルテシア国王……義父様とジーク義兄様だ。


お仕事で忙しいだろうに、特に野球を強く広めて、今ではシンフォニア、ダルテシアだけでなく多くの国でかなり広がっていた。


あの帝国にすら広まってると知った時は大層驚いたけど、それだけ娯楽に飢えていたのかもしれない。


個人的には雪国でスキーやスノボー、スケートなんかもしてみたいけど、それはこの付近では不可能なのでそのうちかな。


「――という訳で、エル様の発案なんです!」


得意げに語るアイリス。


場所はわざわざ国が用意した野球場で、そのVIP席に婚約者達を連れて座って、試合を待っている間にアイリスは知らなかったアイーシャに説明していた。


俺の事になると凄くドヤ顔になるアイリスさん最高にキュートです。


「なるほど、野球の話は確かにシンフォニアからよく伝わってたけど……やっぱり殿下が起源だったのですね」

「やっぱり?」

「大抵の面白いことは殿下だろうという私の持論です」


腑に落ちないけど、可愛い笑みでそう言われると悪い気はしない。


「見てるだけでも楽しいですよね。お父様も息抜きによくされてるみたいです」


今も楽しみにしてるように近くの席に座っている父親を見て微笑ましそうな表情をするレイナ。


その慈愛に満ちた顔が凄く素敵だと思います。


「……楽しそうだけど、主としかしたくないかも」


体を動かすことは嫌いじゃないけど、集団での動きが苦手なセリィはそう言って甘噛みしてくる。


まだ昼間だよ?お腹すいたのかな?


「シンフォニアにも確か野球場が出来たとか」

「父様が頑張って作ったみたいだね」


ダルテシアであれこれしてるうちに、気がついたら出来ていたのだが、父様としても息抜きには丁度良かったのだろう。


マルクス兄様も成長して、引退までのルートが見えてきたからこそなのかもしれないけど、何にしてもいつも忙しそうだしそのくらいの息抜きは許されていいと思う。


そんな事を話していると、試合が始まる。


そこまで野球のルールを詳しく説明した訳ではないけど、概ね前世に近いものが出来たのは父様達の知能の高さ故だろうか?


所々、ルールが違うのもあるけど、向こうと違って魔法もあるからその辺は仕方ない。


そんな事を思いながら婚約者達と野球観戦するけど、俺としてはスポーツは見るよりも動きたいので帰ったら婚約者達とのんびりとほんわかスポーツを楽しむとしよう。


まあ、それはそれとして、こうして野球観戦しながらお菓子とジュースを飲むのは悪くない。


雰囲気ってやっぱり大切だなぁとしみじみ思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る