第232話 ウォータースライム

ウォータースライムという魔物をご存知だろうか?


名前からして素敵なこの魔物は、スライム系列の魔物らしい。


スライムといえば、ゲームやアニメなどでも知ってる人が多い有名な生き物だろう。


作品ごとに違いはあるだろうけど、基本的に無害か弱いイメージが強いが、この世界のスライムもどちらかといえば無害寄りだ。


その理由の一つは、まず数の少なさ。


スライムといえばどこにでも居るような印象があるだろうけど、臆病で人前には滅多に出てこない。


戦った場合、スライムは核である魔石を潰せば倒せるし、スライムの体は凄く柔らかいのですんなりと手が魔石に届く。


しかし、そもそもこの世界の人間はスライムに手を出すような真似はしない。


スライムは何でも吸収する。


腐ったものでも、排泄物だろうと栄養に変えてしまう。


毒物でさえ栄養にかえるので、場所によっては教会にスライムがいる所もあるとか。


毒だけを患者から抜いて、栄養に変えるそうで、一部の民族では祭られてるところもあるとか。


なお、スライムの素材や魔石は基本的に普通の街では買い取って貰えない。


そもそも、スライムを狩ることを禁じているからだ。


教会からの要請でそうなったらしい。


なので、違法に扱ってる場所は教会の名のもとに処分を下される。


今流れるとしても、闇市とかで見かけるかどうか。


しかも、その闇市でも大した値はつかない上に、何故かスライムを扱うと闇市やその手の秘密のオークションに教会の関係者が乗り込んでくるので、現代では狩るものはほぼ居ないとか。


狩る理由がまるでない魔物というのはある意味凄いな。


まあ、それも当然かも。


人体や衣服、装備には一切の害もなく、人も襲わない。


その上でゴミを吸収して綺麗にして、治療として毒を抜くこともできる。


正直、敵対する理由がないよね。


魔物と呼ばれてはいるけど、亜人に近いと考える学者も居るらしい。


その学説を発表した学者は亜人に襲われて死んだらしいけど、不用意なことは言わない方がいいのかもしれない。


種族トラブルとは難しいものだしね。


まあ、それは置いておいてだ。


今、俺の前にはスライムがいる。


しかし、ただのスライムじゃない。


スライムは本来無色透明らしい。


魔石も同じ色だが、中心にそれっぽいのが透けてるのでよく分かるそうだ。


今、俺の目の前にいるのは涼し気な水色のスライム。


魔石も同色らしく、見えずらいけど確かにそれっぽいのがある。


まあ、だからといって別に襲ったりはしないけど。


一時間くらい前に、帰ってきた時に先日作った屋敷の中庭の池の前に居るのを発見してから、互いにじーっと見つめあっていた。


最初は池を眺めいたスライムは俺が来ると恐れずに俺を見つめてきた。


目がないけど、何となくこちらを見てるのは分かる。


俺も珍しいスライムに興味津々で思わず眺めてしまう。


それが一時間ほど続いた現在……俺はスライムと握手をしていた。


手はないけど今日にぷにゅりと変化して突起を出てきたスライム。


握手だと直ぐに分かったのでスライムと友情を結ぶことに。


「いや、何で分かりあってるんですか?」


先程やって来て、俺とスライムの様子に困惑していたトールが、分かりあった俺たちを見て無粋なことを言う。


「トールよ、人も魔物もあり方によっては仲良くできるのだよ」

「スライム限定では?」

「例えそうでも、俺たちはこうして仲良くなった」

「というか……それって、ただのスライムじゃありませんよね?色合いからして……ウォータースライムでしょうか?」


流石にトールも気づいていたのか。


そう、この水色のスライムはウォータースライムという種類のスライムだ。


ウォーター……なんて心地よい響き。


他にも赤色のファイヤースライムや、緑色のウインドスライム、他にも色ごとに居るらしいけど、ウォータースライムが最高だと俺は思う。


ウォータースライムの特徴は、水色の美しいボディだけでなく、なんと水の浄化能力まであるらしい。


しかも、水属性の魔法を使えるというおまけ付きだ。


これはもう素晴らしい以外に言いようがないよね。


「そんな訳で、今日からウチに住むらしいからよろしく」

「殿下が決めたなら仕方ないですが……というか、そのスライムどこからやって来たんですか?」

「なんでも、この池に惹かれて近くの森からやって来たらしいよ」


先日出来たばかりの会心作。


この屋敷の中庭の池を見て一目惚れしたらしい。


見る目があると正直思う。


日本庭園のような趣を残しつつ、屋敷にあうようにカスタマイズした自信作だ。


「……本当に大丈夫なんですか?」

「むしろ、居てもらった方がいいでしょ?」

「……そうかもしれませんね」


スライムの毒やゴミを吸収するという特性はかなり凄いし、居てもらえば何かと助かるかもしれない。


そんな訳で、この日から屋敷に新しい仲間が増えた。


池の門番のウォータースライムだ。


門番と言いながらも、屋敷の中で時またゴミ拾いをしていたり、俺の仕事部屋にやって来ることになるのだけど、池をホームにしているのは間違いないし、それに俺の水への愛を分かってくれる頼もしき存在。


なお、寝室には絶対に入ってこない。


あと、婚約者たちとのんびりしてる時も。


何故だろう?


気を使ってるのだろうか?


まあ、いいけど。

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