第225話 あくまで善意

「あ、エル様お帰りなさいませ。お兄ちゃん終わったんですね」


ケイト宅に戻ると、早々に出向かてくれるアイリス。


道中、軽くイチャイチャしていたトールとケイトのせいで余計に恋しくなっていたので、いつも以上に優しく撫でると気持ちよさそうな顔をするアイリスさん。


癒し系うさ耳美少女の称号はダテじゃないなぁと、しみじみ思っていると、トールがケイト母や義兄になるイドルとその嫁さんに緊張気味に挨拶するのが目に映る。


そしてその隣で、初孫の存在に歓喜して大はしゃぎするケイト父の姿も。


うん、あれはスルーが吉かな。


「ただいま、アイリス。こっちは何もなかった?」

「はい、色々お母さんのお話とか、お料理の話も聞けて楽しかったです」

「それは良かった」

「それと、レイナ様達も今度紹介することになりました」


……何故に?


まあ、連れてくるつもりではあったけど、どういう話の流れでそうなるのやら。


「そっか。じゃあ、そのうち連れてくるとしようか」

「はい!あ、お兄ちゃんの方はケイトさんのお父さんとはお話ついたんですか?」

「ご覧の通りだよ」


義母や義兄にマイペースに振り回されるトールを指さす。


「大丈夫だったんですね。よかった〜」


それだけで分かるのだから流石妹というべきか。


まあ、そうは言ってもアイリスも俺と同じくそこまで心配してなかったのだろうけど。


それだけトールという奴は修羅場に強いという信頼の現れかもしれない。


「あ、そういえば、お夕飯もお誘い受けました」

「そうなんだ」

「はい。でも、エル様は帰るって言うと思ったのでお兄ちゃんの分だけお願いしておきました」


確かに、夕飯は婚約者たちと一緒に家で取るつもりだったし、一晩くらいならトールを置いていっても不都合はないからそれがベターか。


行きと違って、空間魔法の転移ですぐに屋敷に戻れるから護衛も何とかなるし。


せっかくケイトの家族から結婚のお許しも貰えたのだし、ケイトも久しぶりの里帰りなのだし、ゆっくりしたらいいと思うしね。


まあ、その分トールがガッツリ気を使って大変そうだけど、義家族と親交を深めるのも必要な事だし仕方ない。


決して、ウッキウキでトールを差し出すわけではないので悪しからず。


「流石アイリスだね、ありがとう」

「いえいえ。それに、私もレイナ様達に色々報告したいこともありますし……何より、今夜はハンバーグなのでお夕飯楽しみだったんです」


ニッコニコでそんな事を言うアイリス。


うん、アイリスらしいね。


結構間食してるはずだけど、もう既にお腹が空いてきてるようだし、そんな所もチャーミングです。


「エルくん、帰っちゃうの?」


ふと、トールが挨拶する方から話が聞こえたのかこちらにやって来るケイト。


「明日迎えに来るよ。せっかくの実家なんだしゆっくりしたら良いさ」

「そっか、ありがとう。本当は村の案内とかした方が良かったんだろうけど……」

「それは今度に取っとくよ。それに、アイリスとデート楽しめたから」


そう言うとアイリスが少し照れつつ微笑む。


そんなアイリスを微笑ましそうに見つめてから、ケイトは頷きつつ尋ねてくる。


「うん、そうだね。でも、トールくんも良いの?」

「一日くらい大丈夫だよ。帰りは屋敷に直に帰れるし」

「そっかー、本当に便利な魔法だね」


それには同意するよ。


あまり才能らしきものがない中で、魔法が少し得意なことくらいしか自慢できないけど、転移の魔法は本当に便利で助かる。


家族の役にも立てるし、一瞬で好きな水辺に行けるのは楽しすぎる。


お気に入りは実家のオアシスだけど、それ以外にも好きな川や湖があるので水魔法の次かその次くらいには転移が好きだったりする。


まあ、それはともかく。


「クレアに上手く言っておくから、今夜くらい好きにしてもいいと思うけどね」


その言葉にケイトは実にご機嫌になり、獲物を見る肉食獣のような視線がトールに注がれる。


実家でエキサイトするのかは知らないけど、ケイトならやりそうだなぁと思いつつ、トールの健闘を祈っておく。


そのトールはケイト母と話していて、ケイトからの視線に気がついたのか背を震わしていたが、振り返り俺と話すケイトを見て何かを察したような視線を俺に向けてきた。


いやいや、別に嫌がらせとかではないよ?と、視線で返事をすると、それに対してトールは、『いえ、殿下の場合遊びも絶対入ってますよ』と答えが返ってくる。


遊んでるか?いやいや、俺は至って真面目ですとも。


ほら、義実家と良好な関係を築くために、はたまた妻との仲を進展させるために時にはキューピットにもなる俺。


うむ、実に善意に満ちてるよね。


『いえ、それは善意ではありません』と視線での返事がトールから返ってくる。


男同士で一種のアイコンタクトでここまで意思疎通出来てしまう俺とトールって一体……とは思わなくもないけど、まあ、それはそれとして。


「アイリス、夕飯は目玉焼きもつけて、目玉焼きハンバーグにしようか」

「賛成です!」


目を輝かせるアイリスに思わず笑みを浮かべてしまうが、本当に癒し系うさ耳美少女とは凄まじいものだなぁとしみじみ思うのであった。


癒しだよね。


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