第224話 割かしまとも
「高貴な身分の方だとは思ってましたが、人間の王族の方でしたか。これは失礼を」
義父となるケイト父と剣を交えて互いを理解したトール。
そんなトールとの戦いの中で、知りえなかった情報というものも当然のごとくある訳でして。
俺が一応王子様と知ると、そんな風に丁寧な口調になるケイト父。
「いえ、お気になさらず。王子と言っても名ばかりのものですから」
バトルジャンキー、頑固親父のイメージが強かったのでこんな風に畏まられるのも何となく落ち着かないのだが、こういう普段はちゃんとしてるように見える所もトールにそっくりなので、やはり義父と婿殿の相性は良いのだろうねぇ。
「王族って聞くと、凄く高圧的なイメージなんだけど、エルくんはその辺凄く親しみやすいよねぇ」
きっと本人的には褒めてくれてるのだろうけど、どうにも俺には王族らしい気品がないと言われてるようにも思えるのは隣にいるトールのせいだと思いたい。
そのトールはケイトの台詞に頷きつつ補足をする。
「殿下のような方は稀だけど、シンフォニア王家の方やダルテシア王家の方はお優しい方が多いからね」
「そういえば、アイリスちゃん達も似たようなこと言ってたかも」
まあ、ウチの家族は俺とは違って本物の王族って感じだし、それでいて超絶慈愛に溢れてるので、マジで尊敬しかありませぬな。
「アイリス……というのは、確かトールくんの妹さんだったね。そして王子様のお妃様になるのだったか?」
「そうだよー。凄く可愛くて、本当の妹みたいなんだ」
「僕の妹なんだけどね」
「トールくんと結婚するんだから、もう私の義妹でもあるよー」
にっししと、笑みを浮かべるケイトにやれやれと苦笑するトール。
そんな些細な触れ合いでさえ、義父視点では何とも言えないのか若干トールへのプレッシャーが高まるけど、試しに「孫」と呟くと期待の圧が強くなって面白い。
トールから、『遊ばないでくださいよ』と抗議の視線がくるけど、それはそれ。
むしろ庇ったのだから感謝して欲しいところだけど、それにしても親にとっては孫とはやはり魅惑的な響きなのだろうなぁと改めて感じる。
俺もアイリスやレイナ達との間に子供ができて、その子が結婚して子供が産まれたら孫という存在に魅了されるのだろうなぁ。
その前に自分の子供が可愛過ぎてヤバそうだけど、結婚さえまだなのでとりあえずはトールの様子を観察して未来に生かそうかな。
「そういえば、エルくんは村は堪能できたの?」
「まあね」
「アイリスちゃんと二人でデートかぁ……トールくん、今度私もデート連れてってね」
「あはは……そのうちね」
「約束だからね」
下手に義父の前でイチャイチャするのもアレだと感じるのか、はたまた義父からのプレッシャーによってなのか冷や汗を若干かきつつの笑みを浮かべるトール。
本当にバトル以外への耐性が低いけど、そこもトールらしいといえばらしいか。
「そういえば、そのアイリスちゃんは一緒じゃないの?」
トールとのデートにうっきうきになったケイトであったが、そういえばと俺と一緒に居ないアイリスに首を傾げる。
「ケイトのお母さんに掴まってね」
トール達を呼びに行くのにも一緒に来ようとしたアイリスはケイト母に掴まって、残念ながら一緒ではなかった。
まあ、無理に危険な場所に連れてたくない気持ちもあったしこれで良かったのだろうけど、イチャイチャがすぐ近くにあるとやっぱりアイリスの存在は恋しくなる。
「あー、お母さん可愛い娘好きだからなぁ」
娘にさえそんな感想を持たれるあのケイト母の強さはある意味凄いかも。
「確かにお母さんは可愛いものが好きだけど……今回はそれだけじゃないさ」
「そうなの?」
「私も今気がついたけど……やはり母娘とは似るものなんだね」
そうどこか懐かしむように呟くケイト父。
なんの事か分からずに首を傾げるケイトだったけど、ケイト母とのやり取りで俺には分かってしまう。
ケイト母がアイリスのお母さんと親友だったのなら、ケイト父がアイリス母を知ってるのも必然という訳でして。
娘が男を連れてきて熱くなっていた時には分からなかったけど、よくよく思い返して、アイリスが母親にそっくりなのが分かったのだろう。
「トールは似てますか?」
そう聞くと、ケイト父は少し考えてから答えた。
「顔立ちは近いかもしれないけど、似てると言えるほどではないかな。父親似……というのも違うし、どちらかといえば、亡くなったトールくんの伯母に近いかもしれないね」
伯母ねぇ……どんな人なのか気になるけど、聞くのは今度にするとして。
隣を見ると、その言葉に心底ホッとしているトールが視界に映る。
父親似でなかったことが心底嬉しいのだろう、その顔は不思議と明るかったけど、それにしても似てるという単語だけで恐らくケイト父が何を思い出したのか理解したこやつはやっぱりおかしいと思う。
トールの体感的に義実家に来てから早々にケイト父と剣を交えていたのだから、詳しい情報なんてほとんど知らないだろうにケイト父の一言である程度察して理解してしまうトール。
ハイスペックでバトルジャンキーなウチの騎士様は相変わらずおかしいくらいに優れてるけど、まあ、トールだし仕方ないよねぇで済んでしまうのが恐ろしい。
何にしても、ケイト父からもアイリスとトールの母親の話が少し聞けたし、わざわざバトルを止めに来た価値はあったかもしれないと思うのだった。
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