第223話 トールとケイト父
アイリスとのデートを楽しんでから、そのまま家に帰りそうになったけど、ギリギリでトールの存在を思い出した俺は、現在亜人の村から少し離れた森の奥までやって来ていた。
見晴らしの良いそこは本来ならきっと、緑豊かな草原のはずだけど、現在はあっちこっちに穴が空いていて激戦の余波が環境に響いていた。
これは後で俺が治さないとなぁ。
「ケイト」
「トールくんカッコイイ……」
唯一の観客であるケイトが居たので、近づいて呼びかけてみるけど、そのケイトはトールを見てうっとりしており最初は無反応であった。
「ケイト」
「あ、エルくん。トールくんね、凄くカッコ良いの!お父さん相手に今も凄くてね!」
数回呼びかけると、再起動して相変わらずな様子のケイトに苦笑してしまうけど、ようするにずっと戦っていたのはよく分かった。
「そっか。それで、ケイトのお父さんに認めて貰えそう?」
「大丈夫だと思うよ!」
「なら、そろそろ止めようか」
ケイトが頷くのだからきっと今の段階でもお互いを戦い中で知ったのだろうし、止めても問題ないと分かったので俺は二人が再び交差する前に分厚い石壁を魔法で作って静止を促す。
「えぇ……マジかよ……」
――が、強度が足りなかったのかトールが剣を一閃して石壁は粉々になって雪のように舞ってしまう。
どうやったら、剣を一振しただけで、頑強な石壁を砂粒に変えられるのやら……まあ、トールだからとしか言いようがないか。
「トールさんよー。そろそろ戻っておいでー」
そこで止まってくれれば良かったのだけど、強敵相手でまだまだ足りないと言わんばかりに好戦的な笑みを浮かべて突撃しそうなトールなので、仕方なく少し大きな声を張るとようやく中断したので良かった。
相変わらず謎な空中での身のこなしで軽やかに降りてくるトールと、それに続いて戻ってくるケイト父。
そう、二人は空中で戦っていたのだ。
きっと地面だとえげつない被害が出るので自然とそうなったのだろうけど、それにしてもケイト父もトールみたいに魔法なしの脳筋理論で空を飛べるようだし恐ろしいものだ。
「すみません、少し熱くなってしました」
その割には晴れやかな顔をしているトールだけど、ケイト父も不思議と穏やかな顔をしていたので、やはり似たもの同士なのだろうと確信する。
「お父さん」
穏やかなケイト父に、ケイトは真剣な表情で言った。
「トールくんのこと、色々分かったと思う。だから、私とトールくんのこと認めて欲しいの。お願い」
その言葉に……ケイト父は静かにトールを見つめてから尋ねる。
「トールくん。娘のことを愛してくれてるんだね?」
「はい」
「絶対幸せに出来ると、誓えるかい?」
「神に……いえ、我が主に誓って」
勝手に俺に誓われてもなぁ。
「そうか……」
ゆっくりと、目を瞑ってからケイト父はすっと頭を下げると言った。
「娘のこと、どうか大切にしてやってくれ」
それは、紛れもなく父親としての本心の言葉であった。
思うところはあるのだろう。
しかし、それらを含めてもトールのことを娘の婿として認めたのだろう。
「はい、必ず幸せにします」
そして、トールもそれにしっかりと答える。
きっと俺達には分からない戦いの中で互いの気持ちを理解しあったようなそんな雰囲気が流れる。
「トールくん……大好き!」
が、そんな空気は一瞬で掻き消え、いつもの様にトールにラブを送るケイトとそれに対して押されるトールの構図が見事に出来上がる。
先程までの凛々しい面構えは何だったのかと思わなくもないけど、これでこそトールと思わなくもないので俺は黙って空気に徹する。
決して、温度差に吹き出しそうになるのを堪えていたわけではないよ?
まあ、多少アレな感じだけど、何にしてもトールが本日の目的の第一段階を無事に果たせたのだし、それは喜ばしいことだろう。
とりあえず、義父になるケイト父には認められた。
そうなれば、あとは残りの義家族との挨拶だけだが、そちらもきっとトールがケイト母に娘とのあれこれを微笑ましそうに聞かれたり、イドルから妻帯者の先輩として、また義兄としてあれこれ世話を焼かれるかもだけど、それを踏まえてもケイトの実家への挨拶は済みと捉えて問題は無いだろう。
滞在時間のほとんどが義父との戦いなのは実家への挨拶としてどうなのだろうかと思わなくもないけど、トールらしいといえばらしいし、いいストレス発散にもなっただろうし、問題なし。
「そうなると、ケイトとの子供もそのうち……」
「殿下、それを今言いますか……?」
何気なくポツリと呟いた言葉に、子供、孫とクワッと期待の視線がトールに集まる。
特にケイトは肉食の猛獣のような視線でトールを見ており、きっと今夜はいつも以上に大変になるであろうことは明白であった。
大変そうだけど、『俺はまだ子供なので、大人のことはよく分からない』みたいな無邪気な表情を作ってみると、トールはそれに対して『いえ、殿下は子供なんて可愛いものではないです。子供に失礼です』とそんな視線が返ってくるけど、子供に失礼ってなんじゃい?
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