第222話 珍しい野菜とプチデート

「あ、エル様。見たことないお野菜が売ってますよ」

「ホントだね」


まだまだ愛でたい気持ちもあったけど、流石に自重して亜人の村観光――という名のプチデートをアイリスとしていると、とある店先で見覚えのないものをいくつか発見する。


その一、見た目は普通のカボチャなのに、サイズがコンパクトで一口サイズのミニチュアのようなもの。


その二、ダンボールサイズの四角い人参のようなもの。


その三、恐らく大根の系譜に属すると思われる不気味な顔にも見えるマンドラゴラのようなもの。


……おかしいな、俺はRPGの世界にでも迷い込んだのだろうか。


そう思ったけど、店主によればこの辺ではメジャーなもので、味も美味しいとのこと。


「エル様、エル様」

「うん、そうだね。気になるし多めに買ってこうか。帰ったら色々作るね」

「はい!」


見た目はともかく、調理法さえ間違えなければ食べれらるとのことだし、試す価値もあるだろう。


マンドラゴラのようなやつもきっと美味しいはずだし、帰ったら色々試作しないとな。


「マリ芋もあります?」

「あー、マリ芋はカレンさんの所しか育ててないなぁ」


カレンさんとは誰だったかと少し考えてから、ケイト母の名前であることを思い出す。


「マリ芋は育てるのが難しいんだよ。甘くて美味しいし、この村でも需要は高いんだけどねぇ」


現状、この村でまともに育てられるのがケイト母のみらしい。


育成の条件なんかをもう少し詳しく聞いてみるけど、軽く聞いただけでもかなりこまめに面倒を見ないとダメだし、何よりも植物の精霊の力がないと育てられないという前提条件があるらしい。


なるほど、精霊の力によってさらに甘くなるとは面白いな。


にしても、薄々分かってたけどケイト母は只者じゃないよねぇ。


マリ芋を育てられるということは、ランクは問わずに植物の精霊の力を使えるということ。


加護なのか、精霊魔法なのかその方法は分からないけど、何にしてもマリ芋を作れるのがケイト母のみなら、買えるだけ買っておくべきという結論には変わりないかな。


「ところで、お客さん外の人だよね?」

「ええ」

「じゃあ、もしかしてあちらさんのお連れさんかな?」


遠くで上がる戦闘による煙を指して尋ねてくる店主に俺はいい笑顔で答えた。


「最近はどこも物騒ですからねぇ」

「違いない」


色々買ってから、店主にお礼を言ってお店を離れると、他にも色々と村を見て回る。


「エル様、ヤギさんが居ます」

「ホントだ」


ある家では、ヤギを飼育しているご老人の好意でヤギのミルクを分けて貰ったり。


「おお、噂のお客人か。良かったら狩りで取ってきた良い肉があるんだが食ってかないか?」


そんな気さくな亜人の若者にお肉を分けてもらったりと、主に食べ歩きになってしまったけど、隣で美味しそうに食べるアイリスを見てると癒されるし悪くない。


アイリスとのお出かけでは、こうして色々食べることが多いけど、それが俺たちには何よりも楽しい時間なのでモーマンタイというもの。


それにしても、この村の人達は本当に朗らかな人が多いなぁ。


イドルの話からある程度予想はしていたとはいえ、もう少しドロドロした感情のある対応もあるかと思ったのだけど、そういった気配が微塵もないのが凄まじい。


うさ耳カチューシャをしているとはいえ、俺が亜人でないのはすぐに気が付かれるらしく、その度に似合ってない自分にへこみそうになるけど、それはそれ。


バレても対応が変わらないどころか、むしろ珍しいお客さんにも柔らかく対応してくれるので本当に大したものだ。


「なんていうか、楽しい人達だね」

「そうですね」


食休みに果物のジュースで喉を潤しつつ、ぼんやりと亜人の村の人たちを眺めて呟くと、アイリスも同意見なのか嬉しそうに俺に寄り添って答える。


「それと、アイリスのお母さんはやっぱり人気者だったんだね」

「私、そんなに似てるんでしょうか?」

「そうなんだろうね」


アイリスの容姿を見て、アイリスのお母さんを思い出す人も少なくなく、知ってる人達から聞けた話はアイリスやケイト母の話と寸分たがわぬ優しい人だったことがよく分かった。


「何にしても、良いところだし、また来ようか」

「はい。今度はレイナ様達も一緒に来ましょう!」


ニコニコと自然とそう言えるのだから、本当にアイリスは良い娘だよねぇ。


そんなアイリスをよしよしと撫でると嬉しそうにうさ耳を動かすアイリスがまた可愛い。


最近は中々に忙しない日々だったし、こうして好きな人と過ごせる時間は良いリフレッシュになるので有難いものだ。


でも、アイリスだけでなく、レイナなセリィ、それにアイーシャとも時間を作れるようにしないとね。


皆平等、皆公平、難しいかもだけど好きな人には笑ってて欲しいので頑張れるというもの。


そんな事を思いながらプチデートを堪能して俺は思わずそのままアイリスを連れて転移で屋敷に帰宅しそうになったけど、寸前でトールがまだ義父と元気よく戦ってることを思い出せたのは奇跡だと思う。


途中から本日の目的自体を忘れてたけど、まあ、アイリスとのデートが楽しかったから仕方ないよね。



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