第220話 兄妹の片鱗

「それにしても、結構離れてたはずなのにやけに振動がくるな……うちの親父相手にこれだから、婿くんってかなり強いんだよね?」


時々外から伝わる戦いの気配に、そんな事を尋ねてくるケイトの兄のイドル。


俺としては、ここまでトールと渡り合ってるケイト父に驚くのだけど、向こうはトールの実力を知らないし仕方ないのかもしれない。


「俺の騎士ですからね」

「騎士かぁ……そう聞くと人間の王子様って感じするね」


確かに。


俺も根っからの王族じゃないから、その単語だけでほへーってなるのは何となく分かる。


「それにしてもよく着いてくる気になったね。かなり遠かっただろうに」


イドルに軽く経緯を話すと、俺の保護者のような立場にそんな事を言った。


「行き帰りも魔法がありますし、それに見ておきたかったんですよ」

「見たかった?」

「ええ、アイリスとトールの生まれた場所を知りたかったんです」


トールに長いこと留守にされるのも不味いし、行き帰りが楽になる俺が居た方が早いという現実的な問題はともかく、俺としても、アイリスやトールの生まれた場所は知っておきたかったという本音もある。


まあ、あわよくばケモ耳パラダイスを楽しもうという気持ちもなくはないけど……俺が生涯モフって愛でるうさ耳はアイリスだけと決めているのでその辺は大丈夫。


浮気なんてしないのさ。


……一夫多妻が何言ってるんだと思うかもだけど、それはそれ。


逃れられない柵なんかもあるし、仕方ないとしか言いようがないというか……これ以上は増えないだろうし大丈夫なはず。


「そういえば、この村って人間に関してはどんな感じなんです?」


村を軽く見た限り、亜人の村というだけあって亜人しか居なかったのだが、今現在の人間へのヘイトなどはどうなってるのかと尋ねると、イドルはあっさりと答えた。


「少し前までは騒がしいのもいたけど、今はそういう連中は居ないかな」

「そうなんですか?」

「不幸なことに事故が重なってね」


曰く、トールの父親が亜人絶対主義者の中核を担っていたらしいが、二人の母親が消えてから数年後に父親が姿を眩ませて、その後に他の亜人絶対主義者達も亡くなったそうだ。


事故、病気等々あるけど、ほとんどが年齢的なものが多かったのは古株にこそそういった人材が多かった証拠だろうとはイドルの意見だ。


「今残ってる連中の中にはそういう古臭い考え方をするのは残ってないと思うよ。ただ、この村の場合場所的に人里と交流が持てないし、持てなくても暮らしていけるからそのままだけどね」


今の村長さん達も、穏やかな人達で、たまに迷い込んでくる人間にも比較的、穏健に対応してくれるらしい。


しかし、トールの父親が亜人絶対主義者の中核だったのかぁ……しかもその後に次々にメンバーが居なくなるとは、何かあったのだろうか?


理由は色々とはいえ、見えざる力が働いた……なんてオカルト過ぎるかな。


いや、魔法がある世界だし多少のオカルトも有り得そうではあるけど意図が分からないしなんとも言えないかな。


何にしても、良かった。


「なら、わざわざ変装しなくて良さそうですね」

「変装?」

「これです」


スチャッと、アイリスとお揃いのうさ耳をつけると感心したようにうさ耳カチューシャを眺めるイドル。


「凄いね、本物かと思った。人間の技術力ってやっぱり凄いなぁ」


貸してほしいというので渡すと、楽しそうに感触を確かめるイドルと奥さんのレスティ。


「これって、耳を隠すのもあるの?」

「一応作ってはいますよ」

「なら、今度貸してほしいな。レスティの素敵な耳もいいんだけど、人間みたいなレスティも可愛いだろうし」

「もう、王子様の前でそんな事……」

「事実だからね」


……何故だろう、このやり取りだけでも血の繋がりが感じられてしまう。


抑え気味でこれな気がするし、普段は絶対ケイト並に愛情MAXになってそうだし、中々イドルも強そうなキャラだなぁ。


まあ、きっと奥さん関係でやらかさなければ仲良くできるだろうし、その辺はトールに任せようかな。


「やっぱり、エル様似合ってます」


イチャイチャし始めた二人を見ていると、さっきまでケイト母に掴まっていたアイリスが戻ってきて俺にうさ耳カチューシャを付けて満足そうな表情を見せる。


アイリス的には、お揃いというのが嬉しいのだろう。


「もう必要なさそうだけどね」

「でも、エル様に凄く似合ってるのでもっと着けてもいいと思います」

「そっか。なら、ペアルックとしてならアリかもね」

「……ですです!はい!」


俺のうさ耳でここまで喜んでくれるのはきっと世界中探してもアイリスくらいであろう。


レイナやセリィ、アイーシャも似合ってるとは言うけど、アイリスの場合はそれ以上に俺とお揃いというのが最高に嬉しいのかその補正値が高そうだ。


何にしても、とりあえず亜人の村の様子が軽く分かったのは収穫だし、後でアイリスと回ってみるとしようかな。


トールの方はまだまだかかるだろうし。


というか、トールとこれだけやり合えるとか、ケイト父はかなり強いんだなぁ。


まあ、バトルオタクな義父となら奴も上手く付き合えそうだし大丈夫だろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る