第219話 ケイト兄夫婦
お茶とお茶菓子のマリ芋を楽しみつつ、話していると外ではトールが未来の義父相手に元気よく暴れてるのか時折振動が伝わってくる。
思ったよりも遠くで行われてそうなバトルだけど、俺としてはそのバトルには微塵も興味が湧かないのでアイリスとのんびりしながらケイト母と話をしていると「ただいまー」という声が聞こえてきて二人の男女が部屋に入ってくる。
「なんか外で親父が暴れてるみたいだけど……っと、客人が居たのか」
ケイトやトールよりも年上で、大体二十歳前後だろうか?
ケイト父が若くなって、そこに奥さん由来と思われる爽やか要素が追加されたタヌキ耳のイケメンさんと似たようなタヌキ耳……恐らくアライグマ辺りだろうか?そんな感じのイケメンさんと同い年くらいの美人さんの二人。
「お帰りなさい。どうでした?」
「ああ。やっぱり子供が出来てたよ」
「ふふ、なら今日は二重の意味でお祝いになりそうね」
「二重?」
はてと首を傾げるイケメンさんの視線が俺に向くと、その人は俺を見て驚いたような顔をする。
「こりゃまた珍しいお客さんだな。亜人の村にようこそ」
一瞬なんの事かと思ったけど、そういえば似合わないうさ耳カチューシャを外したんだったと思い出す。
「――というか、そっちの娘は見覚えがないけど、他所に住んでる同類なのかな?」
俺の隣のアイリスを見て、ますます状況がよく分からなくなったと言わんばかりに首を傾げるイケメンさんにケイト母は実に楽しげに微笑んだ。
「そうとも言えるわね」
「んー、よく分からないなぁ……」
楽しげなケイト母からこちらに答えを求めるように視線が向けられる。
そんなイケメンさんに自己紹介も兼ねて俺から軽く状況の説明をするとことにしたが、そこでそのイケメンさんがケイトの兄であると判明した。
「ほー、ケイトの奴本当に見つけられたんだ。凄いな。んじゃあ、親父が今戦ってるのがそのお相手ってことか」
「そうなりますね」
「大変だなぁ、婿殿も」
そうトールに同情しつつも、とりあえずそちらは大丈夫と思ったのか向こうからも自己紹介をされる。
「んじゃあ、改めて。俺はケイトの兄のイドルっていいます。こっちは俺の愛する嫁のレスティ」
「よろしくお願いします」
「王子様ってことだけど、口調とかはどうすれば良いかな?そういうの気にするようなら頑張るけど」
「いえ、普通で構いませんよ。お忍びですし」
「それは有難いな」
そう笑みを浮かべるケイト兄のイドル。
ケイトと似たようなどこか馴染みやすい笑顔を見ると兄妹なのだなぁと改めて思ったけど、ケイトの話だと奥さんへの愛情はあのケイトのトールへの愛情表情をも凌ぐと言われてるので少し気にもなる。
「ところで、先程子供がどうとか?」
そんな事を考えつつも、最初に入ってきた時に言っていたことを尋ねるとイドルは実に嬉しそうに答えた。
「ああ、実は今日は医者の所に行ったんだけど。嫁が妊娠した事が分かってね」
イドル曰く、中々巡り合わせが悪かったけど、この度待望の赤ちゃんが自分たちの元に来てくれたとそれはもうはしゃぐように説明してくれる。
「それにしてもタイミングが良いというか、まさかこのタイミングでケイトが帰ってくるとは思わなかったよ」
完全に偶然のはずだけど、そうでないかもしれないと思えるのが不思議だ。
兄妹の絆というべきか、それともトールの主人公属性の高さと思うべきかに関しては後で本人に確かめるとしよう。
「そうなんですか。おめでとうございます」
「ありがとう。それにしても人里からよくここまで来れたね。魔法とかかな?」
「ええ、まあ」
「そっか。もし時間が空いてたらでいいんだけど今度大きな街に連れてって貰えないかな?子供も生まれるし色々買い物もしたいからさ」
そう言いつつも、その後に奥さんとのデートもしれっと混ぜてくるのはある意味凄いと思う。
隠さない愛情がよく分かるというもの。
まあ、その程度大した手間でもないし了承すると別の方向からもお声がかかる。
「あら、素敵ね。エルさん、私もアイリスちゃんと行きたいのでその時はよろしくお願いします」
すっかりアイリスを気に入った様子のケイト母。
親友の娘だからというのもあるだろうけど、それ以上にアイリスを娘のように思ってくれたのだろう。
「いいですけど、俺が嫉妬し過ぎない範囲でお願いしますね」
「ふふ、素直ですね」
「必要なのも分かってますから」
「アイリスちゃんは愛されてるようですね」
微笑ましそうにそう言われてアイリスが照れつつも満更でもなさそうな様子を見せる。
母親を早くに亡くしたアイリスには、ケイト母のような人も必要だろうと理解はしているし、それを納得もしているけどやはりどうしても俺の中にある独占欲が出てしまうもの。
ならば素直に口に出して和らげておくべきだろうと考える俺は異端だろうか?
まあ、アイリス達にはカッコ良い所を見せたいけど、たまに出てしまうこうした気持ちもアイリス達は受け入れてくれるとこれまでの事で俺は知ったので多少は躊躇いが少ないのかもしれない。
そんな俺の様子にどこか共感するように頷くイドルだけど、トールとはこの部分を分かち合える日がくるは定かではないかな。
ヤツの場合相手側からの圧が凄いからなぁ……あれは仕方ないよね。
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