第218話 マリ芋と想い出

「エル様、これ美味しいですね」

「本当にね」


トールがケイト父と共に出ていってから、何となく手をつけそびれていたお茶菓子を食べてそんな感想をアイリスと二人で共有する。


「ふふ、気に入って貰えましたか?」

「さつまいもじゃないですよね?近いけどそれよりももっと甘いですし」

「マリ芋と言います。あまり人里では売られてないものでしょうね」


つまりは亜人の村の名物だろうか?


何にしてもこれは買って帰らねば。


「エルさんとアイリスさんでしたね。ケイトはそちらで楽しくやってますか?」


楽しくどころかクレアと二人でトールを貪ってます。


そんな事が言えたらきっと世界はもっと平和になってるだろうからオブラートに包むことにする。


「ええ、ラブラブですよ」

「それは良かったです。ところで、エルさんは亜人ではありませんよね?」

「……バレてましたか」


やはり美男美女にしかケモ耳は似合わないのかと少し肩を落とすとアイリスが必死にフォローしてくれる。


「私はエル様のその耳が可愛いと思います!私とお揃いで凄く嬉しいです!」

「うん、ありがとうアイリス」


優しい婚約者に和んでいるとくすくすとケイト母はその様子に笑みを漏らしていた。


「すみません、他意はなかったのですが。それにしてもラブラブですね」

「昔からの付き合いですからね」

「先程トールくんは騎士をしてると言ってましたが……もしかして、エルさんの騎士様なのですか?」


鋭いなぁ。


まあ、隠す必要もなさそうだしいいか。


「ええ。まずは自己紹介からしましょうか。俺はシンフォニア王国の第2王子のエルダート・シンフォニアと申します。トールは俺の騎士でして、その妹のアイリスが俺の婚約者なんです」

「アイリスと申します」

「じゃあ、ケイトをお嫁に出したらアイリスちゃんは私達の家族になるのね。楽しみだわ」


俺の身分に驚いた様子もなく、むしろ笑ってスルーするのだから凄まじいものだ。


しかもちゃっかりアイリスを家族として認めしたし油断ならないなぁ。


「シンフォニアにダルテシア……どちらもここからだとかなりの距離ですけど、エルさんはそれを苦にしないしないお力があるのかしら?」

「ええ、あるにはありますよ」

「じゃあ、トールくんとケイトの間に子供が出来たら是非とも連れてきてください」

「お約束しましょう」


心から楽しそうに笑みを浮かべるケイト母。


孫というのはやはり親にとっては凄まじくインパクトのある言葉なのだろうが、それにしても。


「トールのこと、随分あっさり認めてくれたんですね 」

「意外ですか?」

「少しだけ」

「ふふ、まあ、あの子は私に似て男の人を見極める目もありますし、トールくんの事は知らない訳でもないので素敵に育ってくれてるみたいで良かったです」


幼い頃のトールのことを多少は知ってるのか、どこか懐かしむような目をするケイト母。


「アイリスちゃんは本当にお母さんに似てきましたね」

「私がですか?」

「ええ、その綺麗な髪も耳も、全てそっくり……私の親友だった貴女のお母さんにね」

「そうなんですか……」


その言葉に少しだけ表情が暗くなりかけるけど、俺がそっと抱き寄せるとアイリスは嬉しそうに頷いて身を任せてくる。


「聞かせてくれませんか?アイリスとトールのお母さんのこと。小さい頃のトールのこと」

「ええ、勿論です」


アイリスのお母さんの話をするケイト母はどこまでも穏やかな表情をしていたけど、心から友と慕っていたのが話の仕方からよく分かった。


あと、アイリス母の色んな話を聞けたけど、アイリスに似てよく食べて、よく笑うそんな人なのがアイリスとトールの話と繋がるように分かった。


ケイト母はアイリスのお母さんの現在のことを聞いては来なかった。


全てを知ってるわけではないのだろうけど、トール一家のゴタゴタで何となく察してしまっているのかもしれないが、聞かれてないことを答えることはせずに俺はアイリスと一緒にケイト母のよく知る親友としてのアイリスのお母さんの話を耳にする。


母親の話に多少は動じたアイリスでもあったけど、母の友人から聞かされる話や自分の知る母の様子を思い出したのか落ち着いた様子なのは良かった。


俺のそばに居るから……なんて自惚れるつもりはないけど、少しでも助けになれてるのなら良かったと思う。


「お茶菓子ももう少し必要かもしれないわね」


そうして話をしていると、消えるようにお茶とマリ芋が消費されていく。


アイリスが調子を取り戻したように食べたのだろう。


「す、すみません。美味しくてつい……」

「いいのよ。沢山あるから。エルさんも遠慮なく食べてくださいね」

「ええ、ありがとうございます」


とはいえ、貰ってばかりもあれなので俺もお土産として持ってきた甘味を出すことにするけど、やはり種族が違おうが女性というのは甘いものが好きなのか気に入って貰えたみたいで良かった。


それにしても……このマリ芋は本当に美味しいなぁ。


うん、定期的に買いに来よう。


アイリスも気に入ったみたいだし、レイナやセリィ、アイーシャへのお土産にも良いし、家族も甘いもの好きだろうから買える範囲で沢山買わないとね。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る